・里中は皆に、今日は定時で切り上げて二人の送別会をしようと言うが、意外にも春子ではなく美雪が出席拒否。
店を予約(カラオケが歌える店、というのは実はカラオケ好きなはずの春子のためのチョイスですね)する前にあらかじめ皆の予定を聞いておきたまえ。前に春子に歓迎会?断られたときの教訓が生かされてないなあ。
そして美雪が送別会に出なかったのは、皆と別れるのがいよいよ辛くてたまらなくなるからですね。
・6時少し前に皆にお世話になった挨拶を述べる美雪と、ぎりぎりまで無表情に仕事を続ける春子。このコントラストがなんとも彼女たちらしい。
しかし春子に続いて皆とゆっくり別れを惜しむこともなくオフィスを出て、こわぱった顔でエントランスをさかさか歩く美雪は、周囲の情を拒絶するかに見える春子の本当の気持ちを誰よりも理解してることでしょう。
・会社を一歩出るなり、泣きじゃくる美雪に「業務時間が終わるまで、よく頑張ったわね」と声をかける春子。
少し前にオフィスを出た春子がここにいるのは、美雪をねぎらうために待っていてくれたのでしょう。美雪に話しかける表情も穏やかです。
・大好きなみんなとずっと一緒に働きたいからこそ、いずれ来る別れに怯え続けることに耐えられない。別れたくないからこそ今別れる。二度とこんな別れを経験しなくて済むように。「だから私、ハケン、辞めます」。
美雪の告白はここまでですが、続くべき言葉は「正社員になります」ですね。それは後の彼女の行動で明らかです。皆と別れるのが辛くて号泣したのは昔の春子も経験したこと。眉子ママが美雪は昔の春子に似ているといったように、二人とも情の深さは共通している。
けれど美雪が好きな人たちと別れなくてもいいように正社員を希望したのに対し(ラストで里中と浅野が営業部に戻ったり東海林が名古屋に飛ばされたりしてるように、正社員だって部署や土地をしばしば移動するし、むしろアルバイト・パートの方が一つの部署で長く働いてるケースが多いように思いますが)、春子は来るべき別れの辛さを軽減するために自分の心を閉ざすことを選んだ。
美雪の方がはるかに人生に前向きであり、少し後で里中が指摘するように、春子が一番自分から逃げているのですよね。
・カンタンテに春子を訪ねてきた里中は、エントランス前での春子と美雪の会話を聞いてしまったこと、「働くことは、生きることです」という春子の台詞は東海林の口癖でもあることを告げる。
それは第四回で東海林から告白されたさいに春子も聞いた言葉。「それが何か?」と聞き返す口調には少し前の「何か?」にはない動揺が感じられました。
・春子と東海林は似ている、自分は二人とも尊敬している、と言う里中。そして「まだわからないんですか。あなたは東海林さんのことが好きなんですよ」。
彼は春子が「働くことは、生きることです」と言うのを立ち聞いたときに、ショックを受けたような顔をしていた。この時彼は春子と東海林が本質的に同じ人間だと痛感し、「鎧を着た落武者」みたいな春子の心を開けるのは東海林だけだと確信したのでしょう。
里中の春子に対する感情にどの程度恋愛の要素が交じっていたかはわかりませんが(基本的には職業人としての気構えと能力に対する敬愛の念だろう)、いつになく春子に対して強気な言い切り口調に出た里中の態度は、仕事では世話になってばかりの「弟子」が、師匠に精一杯の恩返しをしようとしてるように思えました。
・でも春子はかたくなにS&Fの人たちとの思い出を切り捨てようとする。リュートが契約終了直後の春子はいつもあんなだと言い、眉子は今度ばかりは違う、と言う。
契約終了後春子が昨日までの時間をきっぱり捨てようとするのは、3ヶ月だけでも精一杯壁を作っていてもやっぱりその時々の仕事仲間への情が湧いてしまうからだろうし、3か月働いた後放浪の旅に出てしまうのも、前の職場への情を断ち切るための儀式のように思えます。
かつてない素晴らしい上司・里中に出会い、自分と対等にやり合い果てはプロポーズまでしてきた東海林に出会ったS&Fではその情もひとしおで当然ですね。
・カレンダーなどいらなくなったものをゴミ袋に放り込む春子は、くずかごの底から東海林の携帯を記したメモを取り出す。
あれから二ヶ月くらいたつのに一度もくずかごのゴミを捨ててなかったとは思えないので、何度も捨てようとしては捨てきれずに来たのでしょう。そんな春子の情が切ない場面。しばし逡巡してからゴミ袋に放り込んでしまう分余計に。
・2日の早朝に旅に出た春子は、家を出たところでしばし自分の部屋を振り返る。
その感慨深げな表情は3ヶ月後には戻ってくるはずのこの家をではなく、ここで過ごした3か月、「クリック、ピッ」で消したはずのS&Fでの日々を振り返っているのでしょう。
・新潟の大雪のため弁当箱が届かないという緊急事態。
開店当日の朝弁当箱が届くってスケジュールがぎりぎりすぎないか。まあこういう綱渡り進行って結構ありがちですけど。
・届かない弁当箱に代わり、やむなく今日だけは使い捨ての容器に入れて売る決意をする里中。米・プラスティックに力を注いできた彼が本当は一番無念でしょうね。
・近くんが「天は我々を見放したか」と呟く。
最初はハケンらしくマーケティング課のメンバーにも少し距離を置いていた彼が、ハケン弁当の企画が持ち上がったあたりからすっかり共同体意識を深めている。ハケンの企画を本人の名前で提出しようとした里中や、それを当然のように支持した浅野・小笠原たちの姿を見て、彼らと一緒に働きたいと思うようになったんでしょうね。
そしてこの発言の直後に「天」から春子が救いの手を差し伸べに降りてくる・・・。
・春子が何らかの形で助けてくれるのは誰もが想像した通りでしょうが、まさかスカイダイビングでやってくるとは。
よくこれだけ派手な絵を撮ったもの。「助けるか助けないか」でなく「助け方」で意表をつく、久々のびっくり資格オチ。
高速通行止めになるほどの大雪なのに空輸が可能なのかとか、いきなりヘリコプターが調達できるものなのかとか、新潟工場の人たちが里中に確認も取らず今やS&Fに籍を置いてさえいない春子に大事な商品をよく渡したもんだとか、ツッコミどころの多さとインパクトの強さは第一回のクレーンを思い出させる。
大雪じゃなくて事故による通行止めならもっと自然だったろうにあえて雪設定にしたあたり、むしろツッコみを期待しての笑いどころなのかも。
・春子がマイ弁当箱を運んできたと知った近くんと浅野が声をそろえて、「オーマイゴッド!」。
「マイ」弁当箱+「大前」と「オーマイ」をかけてるわけですね。つまり「大前は神」?まさに天の助けですね。
ところでこの時の近・浅野コンビの顔芸になんとなく『The World of GOLDEN EGGS』のリサとレベッカを思い出してしまった。あの二人よくこんな顔してません?
「寂しがりやが降りてきた」ってのもすごい台詞だこと。
・マイ弁当箱が無事着地、というか地面に激突。うわ大丈夫か?と心配になったがしっかり無傷。結構頑丈ですね。
そして「スカイダイビングは私の趣味ですが、何か?」 本当に意地っ張りですね。
新潟が大雪というニュースを見るなり予定変更して新潟から強硬手段で弁当箱を運んでくる――記憶を消去どころの話じゃありませんね。
・ハケン弁当販売は大盛況。その光景を川の向こう?から見守る春子は今までで最高の充実した笑顔を見せている。
本来人との関わりの中でこそ幸せを感じられる人なんですよね。浅野が言うとおりの「寂しがりや」。彼女の選んだ生き方は本当は春子を不幸にしてしまってるんじゃないだろうか。
・大人気のハケン弁当は早くもフランチャイズの店舗も全国展開することに。それもハケン社員に直営店で勉強させたうえで、資金を無担保貸し付けし独立させる仕組み。
これまで安い給料、創造性のない仕事、35歳定年説などのマイナス面を背負ってきたハケンの人たちが、能力とやる気次第で自ら店を出せるように支援をする。
ハケン社員に焦点をしぼったことで従来のベンチャー支援と差別化をはかり、それも扱う商品が自分たちハケン(主として若い女性)をターゲットとしている日常的な(そしてお洒落な)お弁当という垣根の低さで、従来のハケン的な仕事に物足りなさを感じていたハケンたちがどんどん応募しそうです。実際説明会に参加してたの若い女性ばかりでしたし。
ハケン弁当そのものよりも、そこから派生したこの新種のベンチャービジネスの方が、ハケンと正社員の関係を捉えなおすうえで、より画期的だったのでは。
そしてこの企画は春子や東海林がいない今、里中が独力で(もちろん浅野たちの協力はあるでしょうが)なしとげたもの。成長しましたね。
・里中の目覚しい活躍ぶりに、桐島は「優しいだけが取り得のあの男がねえ」と呟くように言う。
優しいだけではビジネスマンとして使い物にならない。だからこそ桐島も里中を飛ばそうとしたわけで、里中の優しさが立て続けに実を結んでいるこの状況は桐島には意外なものだろう。
そして眉子の「里中さんに会社命の人間になってほしいんですか?」との問いに「そうならざるをえないでしょうね」と謎めいた答えを返す。
里中は現在その優しさゆえに成功し、会社に大きな利益を与えている。ハケンを差別し利益第一の会社のあり方に異を唱えるところから始まった里中の快進撃が、結局会社を潤し、懸命に働くほどにその志は企業倫理にからめとられてゆく、そういうことを言いたいのだろうか。
ただ逆から見れば、現在の「ハケンの味方」S&Fの世間的イメージは里中に負うものであり、いつのまにか会社の方がS&Fの顔となった里中の方法論に引きずられているとも言えるのでは。
(つづく)