・夜更けに番小屋を訪ねてくるひかる。これじゃ夜這いのようです。
これで戸を開けてしまったら(それがバレてしまったら)、状況を問わず猛は確実に咎められるはず。いかに会いたいとはいっても、いささか無謀すぎです。
・懸命に鍬を振るう猛。ひかるのことを考えまいとするかのように。
こういうときの表情には先の切なさとは違う男の色気がありますね。
・おたきからひかるがちょくちょく夜抜け出して番小屋に行くと聞かされたことを絹は伝衛門に報告。
おたきはひかるが抜け出すのに気づいてるなら、何故ちゃんと止めないのか。部屋に外から鍵かけとくとか。
・お花に猛あての手紙をことづけた後、ひかるは鏡台に向かい唇に紅を塗る。猛を想う胸のときめきが映し出されているようです。
・猛が自分の渡した手拭いを使っているのを見たお花は、花開くような笑顔になる。
まあ猛は単に生活用品として重宝してるだけで、お花の想いなどまるで気に留めてないようですが。
しかし「お花」だったり「お花さん」だったり、呼び方が一定しないなあ。
・物陰でひかるの手紙を破るお花。
猛への恋のライバルというのを別にしても、貧乏な小作の子で遊郭に売られるところを伝衛門の情によって三枝家で働くことになったお花にしてみれば、猛の迷惑(ひかるがひっついてくるために絹に咎められたり回りから揶揄されたりする)も考えず、生活の苦労もなくただ恋にうつつをぬかしているお嬢様はそりゃ腹立たしいでしょう。
最初にお花をかくまい、伝衛門に彼女を助けてやってほしいと訴えたのはひかるなのに、お花が恩人と立てるのはもっぱら猛なのも、さほど年も変わらないのに天と地ほども境遇に開きのあるひかるへの嫉妬心が根底にあるように思えます。
・バイオリンを練習するひかる。腕前は・・・うーむ。
いっこうに姿を見せない(お花が手紙を握り潰したため、ひかるが待ってること自体知らない)猛に、「もう猛ったら」とふくれて見せるものの、「来てくれないということは嫌われたの?」などと不安がっては全くなさそう。猛が自分を想ってくれてる事自体は確信があるみたいです。
バイオリンといえば崇子先生はその後どうしたんだろう。あんなことがあっちゃ今さらひかるのバイオリン教師はできないだろうけど。
・番小屋に乗り込み、書類の上にバイオリンケースを乗せて(思い切り仕事を邪魔して)恨み言をつらつら並べるひかる。何かすね方が可愛いです。
「(ラブレターを)お前が取って置きたい気持ちはわかるけど」という台詞も自意識過剰っぷりがいっそ微笑ましい。
というかあれラブレターのつもりだったんだ・・・。単に呼び出し状だと思ってた。
・ラブレター返せ発言に対し、そんなものは知らないとは言わず仕事への情熱を語る猛。取り次ぎ役だったお花が何を思ってか手紙を渡してくれなかったことを察知したうえで彼女をかばったものでしょうか。
しかし男が人生かけて打ち込んでる仕事を邪魔するひかるは男にしてみれば相当鬱陶しい女じゃないかなあ。「私と仕事とどっちが大事」発言などドン引きものでは。そりゃあ「どうしてわかってくれないんですか」と言いたくもなります。
文彦ばかりでなくひかるも地主の娘として、白部村の利益は二の次みたいな態度は不適切ではないのか。まあまだ14歳だから自覚が薄くても仕方ないかな。
大人になってからは「白部村の子供たちのために」と音楽教えたりもしますしね。
・文彦の膝に汁物を引っくり返してしまうお花。猛に補佐役なんか務まるわけがないとの悪口を聞いて動揺したんでしょう。さすがにわざと(猛の悪口を言った仕返し)ではないでしょうね。
あわてて文彦の服を拭くお花を、文彦が薄ら笑いしながら見つめる。間近にお花を(うなじとか胸元あたりを)見て女癖の悪い文彦が食指を動かしたのと思ったんですが、後の展開からすると、彼女と猛をくっつける計画を思いついてほくそえんでたということなのかも。
・「男の人って仕事に夢中になると何もかも忘れてしまうものなの?」 父親に聞くとは(猛について質問してるのは見え見えなだけに)大胆ですねえ。
・猛は男として一回り大きくなれるか試練の時なのだから遠くで見守ってやれという伝衛門に、「そんなのつまらない」と反発するひかる。
ここで距離を置くことはひかるにとっても、女として一回り大きくなるための試練だと思うんですけどね。
この時の会話が、女としての教養を身につけるために東京の女学校へ行くことを承知する伏線になっていきます。
・早朝から水垢離するひかる。自分にも何か(猛のために)できることを、と考えた結果がこれというのがすごい。何かもう二人を引き離すのはあきらめた方がいいような。
しかし気持ちは買うものの、「私にはこれくらいのことしか出来ないんですもの」と言わず、それこそ料理とか裁縫とか(彼と一緒になるときのための)花嫁修業に勤しめばよいのでは。あるいは猛が先だって関心を見せていたワイン用の甲州ブドウの研究とかさ。
・番小屋で猛を待ち、今夜つきあわないかと誘う文彦。
聞かれもしないのに「俺はお前が補佐役に抜擢されたことなんか、これっぽっちも妬んじゃいないよ」とわざわざ言うあたり、かなり深刻に妬んでいる様子です。
そういえばこの間首を締められたことについては何ら恨み言を口にしませんが、全く根に持ってないんですかね。
このシーン、文彦の持つアイスキャンデーが見る間に溶け落ちてゆくのが笑えます。
・文彦が猛に夜這い計画を持ちかけると、話を聞いていた女給が甘い声を出して猛の方に引っつく。
前に文彦を送ってきた女もそうですが、不思議と金持ちの坊ちゃんな文彦より明らかに使用人な猛の方がもてるんですよね。
物慣れない様子がウブで可愛いってことなんでしょうが。
・「俺帰ります」と立ち上がる猛を文彦が押し戻して席に座らせる。この時の猛の体が傾ぐ感じがなかなかリアルで上手い。
・「夜這いってものは心身の鍛練のためにやるんだ」。すごい強引な理論だ(笑)。
まあ案外本気でこういう事思ってる人いそうな気も。
・夜這いを嫌がる猛に文彦は譲って「今夜は酒だけにしよう」とさらにグラスを勧め猛もそれに従う。
思うに文彦は本気で猛を夜這いに付き合わせるつもりはなく、夜這いの件で譲ってやることで猛に心理的な貸しを作り、それに乗じて酔い潰すのが目的だったんでしょう。
しかし猛が大人しく眠ってくれたからいいようなものの、派手に吐かれたり酒乱で暴れられたりしたら目も当てられなかったな・・・。
・猛のふりをしてお花に夜這いをかける文彦。
お花は途中で「猛」の正体に気づいたものの、言う通りにすれば猛と一緒にしてやると言う言葉に唆されて抵抗を止め目を閉じる。
主家の若様だから逆らえなかった(ここを追い出されたらまた遊郭に売られかねない)部分もあるでしょうが、それだけ猛に対する執着が強かったのですね。健気というか痛々しい。
目を閉じる直前の、涙をいっぱいに湛えた目が悲しいです。
・しかし文彦は猛とお花をくっつけるだけなら、実際に夜這いをかけなくともお花を言葉で説得して、猛と寝たという嘘の証言をさせれば済む話である。
それをあえて実事に及んだあたりは・・・ついでに美味しい思いをしようと考えたんだろーな。
・お花の父が訪ねてくる。「お花は今朝そちら(親元)へ帰ったはず」というのは、夜這いかけられた後、朝になってから何か理由を言い立てて一時的に実家に帰らせてもらったってことでしょうか。
・笑顔でやってきてお花と猛の縁談に「お花、おめでとう」などという文彦。お花は無言で目をそらすが、無理もない。
・お花の父が来てると聞いたひかるは、「いったい何があったの?」とあわてた風でやってくる。
訪問の目的は知るべくもないはずですが、前にお花を売ろうとした経緯があるので、またろくなことじゃないと直感したものでしょうか。
・「旦那さま、俺に何か」と部屋に走りこんでくる猛。何の不安も迷いもない表情が見てて辛いです。
・先からきまり悪そうな顔をしていたお花は、猛がきょとんとしてる様子についに泣き出してしまう。それだけ後ろめたさがあるわけですよね。
こんな形で猛を手に入れたって幸せにはなれないと思いますよ・・・。
・いきなりお花の父から結婚の約束をしながら知らんぷりをする気かと責められる猛。
お花との関係を肯定も否定もしてない(ぽかんとしてるだけ)うちから責めるのは早くないか。
・お花が、猛と契りを交わしたことに間違いないと言うのを聞いた猛。「お花!?」と言う少し間の抜けた声から、驚くというより本当にあっけにとられている感じが伝わってくる。
その後ひかるが入ってきたときの「まずいところを見られた」という表情も、気絶するひかるを棒立ちで見つめるのも、自分の理解の及ばないうちにどんどん進行する事態に呆然としているのがよくわかります。
(つづく)