・ひかるの指に刺さったとげを取ってやったことについて「ひかるには近付かぬように」と絹から言い渡される猛。
猛が遠ざけようとしてもひかるの方がら近付いてきたんだが。
「ひかるの方から接近→猛怒られる」のパターンはこの後も繰り返し登場する。猛が本当にひかるに惚れているからまだいいものの、そうでなかったらお嬢さんに一方的に迫られて怒られる構図はいい迷惑というものだ。
・絹のお説教に対して「わかっています」「はい」と猛は簡潔に返事をする。表情にも声音にも彼の落ち着いた聡明な性格が感じられます。
・用水路を作る計画を相談する伝衛門たち。
貯水池を作る場所を決めるのに力を発揮したのは猛だと伝衛門が話し、皆に誉められた猛は面映そうながらもちょっと得意げ。
猛に手柄を譲る伝衛門はさすが大人の風格。
しかし毎朝山の中を歩きまわってるって・・・案外暇なのか?
・工事の予備調査の責任者に任ぜられた猛は遠慮しつつも引き受ける。
この時「ジヘイさんに何事につけても相談に乗って頂かないとできません」とそれとなく年長者を立てる発言をするあたり、思慮深い性質が出ています。
・猛が責任者になったと聞いて番小屋を訪ねてくるひかる。
いつもはひかるに素っ気なくする猛が、珍しく晴れやかな笑顔で言葉数もいつもより多いのは、彼なりに浮かれているわけですね。
・「灌漑工事の役に立つかも」しれない発見をしたから川原まで来てくれと、ひかるは猛を誘い出す。
いつもなら(絹に説教されたあとだけに)あああっさりとついては行かなかっただろう。
行くとしても不承不承という顔をするはず。このあたりもやっぱり浮かれてるんだな。
・川原でひかるは猛に水をはねかし、最初は「やめてください」と抵抗していた猛もやがて「やったなこのー」と水のかけあいになる。
「私は嘘はつきません」なんて言って猛を連れ出したくせに、嘘つきだ(笑)。
まあ16歳の若さでろくに遊びもせず仕事ばかりでは頭が固くなってかえって仕事に支障をきたす、という意味では仕事に役立ったといえなくもないか。
この二人が対等の立場で戯れるシーンは第二部以降はここくらいのもので、それだけに印象的な場面。とくに猛のやんちゃぽい笑顔は貴重。
靴下やワンピースの裾が濡れるのも構わず川に入るひかるも、まさに天衣無縫という感じです。
・バイオリンの稽古のお供役を外されることになっても「奥様が決めたことなら仕方ありません」とあっさり言う猛に、ひかるは思わず「意気地なし!」と怒鳴ってしまう。
ひかるとしては猛にいて欲しいでしょうが、猛の側から見れば稽古の間中直立不動で立ってるだけなんて普通なら苦行でしかない(彼くらいひかるに惚れ込んでいれば、それでも嬉しいんだろうけど)ので、外されるのはむしろ喜ばしいくらいでしょう。
でもひかるは「猛が内心お供の役など嫌がってて、実は渡りに船だった」可能性は考えない。だから(本当はお供の仕事を続けたいのに)絹の命令をあっさり受け入れた=「意気地なし」となる。
猛は自分と一緒にいたいはず、一緒にいたいと思ってないなどと考えたくもない、というひかるの想いが滲んでいます。
・猛に「大嫌い」などと思ってもいないことを言ってしまい動揺するひかる。
自分の感情をうまくコントロールできない事への戸惑いが、いかにも初恋を知ったばかりの少女らしい。
・工事の責任者になったことで小作人の男に嫌味を言われても、猛は声を荒げるでも小さくなるでもなく落ち着いた力強い口調で挨拶をする。
暴れん坊の野生児だった彼が、こんな自制心の強い若者に育った、その成長ぶりが頼もしい。
まあ後の展開をみると、いったんキレてしまったら止まらなくなるようですが。
・弁当の用意について聞きに来たのをきっかけに、お花はあれこれと猛に話しかける。
しかし猛は「仕事に集中したいんだ」とすげなく追い返してしまう。「人に優しくされたの生まれて初めて」というお花の感激に反して全然優しくないような(笑)。
ひかるに対するのとはえらい違いですが、猛がお花に何ら関心を持っていないこと、先に嫌味を言われたこともあり工事の成功に意地をかけていること、そしてひかるへの思慕がこの態度の裏にはあるのでしょう。
・酔っ払って女給連れでかえってきたうえ、キスまでやってのける文彦。
ちょうどそこへ両親がやって来て慌てふためく。あれだけ大きな声で扉を叩いていれば当然気づかれるわな。
文彦は何かと言えば猛のせいで自分が損してると言い立てますが、どうみても自滅ですねえ。
・女給は文彦の勘定を請求するにあたって、やたら猛の体に触ったうえ彼の胸ポケットに勘定書を入れる。
ウブそうな男の子をからかってるんでしょうが、後に崇子先生やお花が猛との性的関係を言い立てたことを思うと、無意識に猛のフェロモンにやられたがゆえの行動のようにも見えてきます。
・文彦が吐きそうにしていたのを父の追及を逃れるための芝居と知った猛は眉をしかめる。
一瞬のわずかな表情変化に彼の潔癖さが表れています。
・文彦に「おまえとひかるとの間には越えることのできない絶望的な溝がある」といわれた猛は、一人外に出て空を見上げる。
特別に表情を作っているわけではないのに、なぜこうも切ない雰囲気が出せるものか。
少年猛に当時主たる視聴層である奥様方がメロメロだったと言うのも頷けます。
・一人でバイオリンの稽古に向かったひかるの事が頭から離れず、とうとう後を追っていった猛。
「バイオリン持つのは俺です」というぶっきらぼうな一言に、あえて絹の言いつけに背いたほどの猛の想いが凝縮されています。
文彦に言われた二人の間の溝を少しでも埋めたかったものでしょうか。
・ひかるに自由恋愛を描いた『或る女』を勧める崇子先生。後に明かされる彼女の駆け落ち事件は、この本に触発されたところも多少あったのかな。
・崇子先生に再三お茶に誘われた猛は、「ほんと純情なのねー」との言葉に憮然と「外で待ってます」と出ていってしまう。
そのかたくな過ぎる態度にもかかわらず「ほんとに猛くんって可愛いのねー」といわれてしまうあたり、美少年は得ですねえ。いや後の展開からすると女難の相が出てるというべきか?
・発動機を回しに行こうとする猛を無理やり引き止めて「命がけの恋」について話し始めるひかる。
猛が今大事な(面子をかけての)仕事に勤しんでいるのだから、自分の気持ちを押し付けるべき時期じゃないのはわかるだろうに。
まだ14歳でお嬢さん育ちだから多少わがままなのは仕方ないんですかね。
結局これで代わりに発動機を動かした吾作が怪我してしまうのだからやりきれないものがあります。
(つづく)