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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『四つの嘘』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2012-09-08 03:09:33 | 四つの嘘
〈第二回〉

・美波が死んだというのに「ぜんぜん負けてない」と納得しあってる詩文とネリの反応にまた怒り出した満希子は「こんな幸せな死に方なかなかないよ」「じゃあ聞くけどさブッキ幸せ?」というネリの質問に幸せ、充実してると答える。そして美波が死んだのに何も感じないの、となおも怒る。
23年だか25年だか会ってない昔の知り合いが死んだ程度のことならこういう反応で当然だと思いますが。呆れ気味のネリと詩文は帰ろうかと言い合う。
ネリがおごるというのを満希子がそういうわけにいかないと言い出したため、じゃあ3000円ずつとネリが提案。第一回で詩文の困窮ぶりを見ているので、詩文は余計なこと言うなと思ってるだろうなーと思ったら、あっさりあたしお金ないのと素直に申告。「原はいいのあたしが誘ったんだから」と言うネリに詩文もごちそうさまと遠慮なく払ってもらう。変に見栄張って損するより自分にとって必要と思われることはストレートに要求する、そんな詩文の割り切り方が表れた場面です。
対照的にメンツを大事にするタイプの満希子は面白くなさそうな顔。お金がないからってこの話の流れで自分だけおごってもらおうなんて図々しいという思いと、だったら自分もおごってもらっとけばよかったという損した気分が半々ってとこでしょう。

・帰り道、ネリの携帯に病院からの呼び出しが。クモ膜下出血の患者が運ばれてくるからとのこと。タクシーを止めて病院に向かおうとするネリは飲んだって若いのより腕がいいのよ、じゃあねと別れを告げて去っていく。
見送って「かっこいいー」という詩文の反応に飲んでるのにいいのかと満希子は案じるが、「気が付かなかったの?ネリが飲んでたのウーロン茶よ」。詩文の方がよく人を見ている、というより満希子が見てなさすぎというか。ネリはシラフであんな喧嘩をやらかしたわけだ。

・詩文と満希子は並んで歩き出す。美波の娘はどうしてるだろうと母親視点で心配する満希子に「かわいそーって言葉が好きねえ」と詩文は揶揄するように言う。
詩文が匂わせてる通り、“可哀想”という言葉には相手を憐れむことで自分が高みに立とうとする心理が感じられる。ネリに幸せかと聞かれた満希子は幸せ、充実してると答えたけれど、平穏無事という意味で幸せではあってもそれゆえに退屈している、つまり充実とは対極の状態にあるといえる。
本当に充実してる人間は彼女のように他人の人生にやたら首を突っ込んだりはしない(する必要も時間もない)。他人を憐れむことは相対的に自分の幸せを実感することになり、しばし日々の退屈を癒すことができる。きっとシングルマザーの詩文も片親の冬子もそうした人たちの「可哀想」の声にうんざりさせられることしばしばだったんでしょうね。

・夜の新宿。途中で足を止め街頭スクリーンのニュース映像を見る二人。美波のニュースが流れる一方で「あれ、河野の名前どっかに消えちゃった」というミステリーが。「不倫がばれちゃったかしらー」と軽い口調で満希子は言う。
つまり圭史と美波が同じ船に乗っていたことから二人が不倫関係だったと世間に知られる不名誉を怖れた外務省が、圭史の名を隠しにかかったと言いたいようですが、単に同じ船で死んだ、ともに日本人というだけで彼らの関係を世間も外務省も疑うものだろうか。元夫婦とでもいうのならともかく、二人が20年以上前に短期間交際してたことなど記録に残ってるはずもないし。
むしろ本来ロンドンにいるはずの圭史がなぜかバンクーバーにいたという職場放棄が問題になった可能性が高いのでは。

・満希子の携帯が鳴り、見ればゆかりから父弟と焼肉を食べにいくというメール。携帯を閉じるとすでに詩文の姿は消えている。一言の断りもなく勝手に帰ってしまうあたりがマイペースな詩文らしいというか。

・詩文は踏み切り脇の階段を上がり英児のアパートへ。勝手に中に入ってそのへんを片付けてると、英児が服を脱ぎ捨てサウナスーツを着込んで台所に座り込む。息があがり苦しげな様子。
「あと何百グラム ?」「500オーバー」。詩文は荒い息をする英児の前に座り「もうちょっとじゃない。頑張ってね~」と軽い口調で髪の毛をなでまわす。抱きしめてくる英児を一緒に我慢する約束でしょ、といなしながら自分からも英児の首に手を回している。
我慢したほうがあとで素敵なのに、とか言いつつほとんど誘惑してるとか思えないです。ああそうか、より我慢したほうがより素敵だからあえて誘惑してみてるのか・・・。

・英児がいきなり詩文をつき放す。「その気がないんだったらくんなよ!今大事なときなんだから」。確かにここで500グラム減量しそこなえば一大事なわけで、快楽を追う詩文のゲームに付き合ってられないと感じるのは当然。・・・のはずですが「大事なときなんだから」はちょっと優しめの声になり、わかったと立ち上がった詩文がバッグを持って出ていこうとすると前をふさいで、「ごめん」と詫びる。
このとき言い方はぶっきらぼうですが真剣な、ちょっと困ったような幼い顔をしてて、結局詩文に頭上がらないんだなーというのが見て取れます。

・「あたしから離れたら破滅するから」と怖いことを言う詩文に「別れた夫みたいに?」とちょっと皮肉っぽい笑う英児。英児にしては毒のある台詞ですが、詩文は「そう」とにっこり微笑んで動じない。
この二人の関係は完全に年上の詩文が手綱を握っていて、英児も時に乱暴な口をきいても詩文に翻弄されることをむしろ望んでいるように見えます。一種マゾヒスティックな快感があるんじゃないのかな。

・「今度の試合、来てくれ」という英児に「見たくないわ」と笑顔のままにべもなく返す詩文。かまわず英児はリングサイドのチケットを渡す。「お金ないのに。考えとく」と詩文は答えますが、まさか英児も自分から来いと言っておいてチケット代請求なんてしないだろうに。
英児の綺麗な顔が傷つくのを嫌がる詩文が試合を見ようとしないのは今に始まったことではないのに、あえて今度の試合は見て欲しいと英児が言い出したのは、単純にここで勝てば日本チャンプに挑戦できる(彼にとってチャンスと言うべき)試合だからか。それとも圭史の話を自分から出した直後なので圭史へのやきもちから詩文に側に居て欲しい思いが募ったのか。あるいはこれが(日本で)最後の試合になるという虫の知らせめいたものがあったのでしょうか。

・上機嫌で帰ってきた子供たちの姿に、一人で食事してる満希子はおかんむり。もともと夕飯時に勝手に留守した満希子が悪いんじゃないか。
武と二人きりになってから「美波やっぱりだめだったわ」「例の船に美波も乗ってたのよ」と声ひそめつつ報告する満希子ですが、その声には微妙に楽しんでる響きが。「男と一緒にか。うわーやるもんだね君の友達も」と答える武の方もなんか楽しげです。不謹慎な夫婦だ。

・満希子がバンクーバーにお悔やみに行こうかなというと、武は積極的に賛成し満希子がいなくても別に大丈夫などと言うのだが、こんな言い方されたらまずむくれそうな満希子が意外にも反論しない。それだけお悔やみに名を借りたバンクーバー旅行計画に夢中なんでしょうね。

・美波の香典は一万円くらいが妥当かという武に満希子は五万くらいじゃないかと答える。後に大森に貢ぎまくり、さらに700万の損害を取り戻そうとしなかった時もそうですが、昔から金に不自由したことがないと思われる満希子は全体に金に鷹揚な傾向があるように思います。
元夫の死に際して1万円の香典しか出さず、投げ返されれば大人しく持ち帰った詩文とは実に対照的。

・原家の食卓。バンクーバー船舶事故のニュースに圭史の名前が出なくなったことについて、圭史くんが死んだというのは間違いなのかねと父親が聞いてくる。後の展開を思うと、この頃はまだずいぶんまともな判断力があったんだなあとしみじみします。
外務省が情報操作してるんじゃという詩文の言葉に、娘は「なんか事件ぽい感じ」、なんか悪いことでもしてたのかなと楽しげに言う。しかし後で部屋で一人父のことをネット検索するときは打って変わって真面目な顔。
いかにも現代っ子らしく、常に軽いノリで顔も知らない父親のことなどどうでもいいという態度を取っている冬子ですが、それは多分に詩文を気遣ってのポーズもあるんでしょうね。

・夜の病院。手術着のまま一人廊下を歩くネリは、怪しい気配を感じるのかときどき後ろを振り返りついには走り出す。福山が今日は帰ると聞いて「じゃあ私のこと家まで送って。お願い」とキュートに微笑んでお願いする。そんなネリの態度に同じく研修医の坂元は何色気出してんだ的なちょっと呆れた顔をしてます。
後輩や部下の立場から見ると、上司特権で仕事以外でもあれこれ指図してくる、そのくせ拗ねたり甘えたりするような態度でいかにも自分は女として魅力的だから男が言うことを聞くと思ってる(ように見える)ネリは結構むかつく存在なんでしょうね。福山は無表情に「はあ。いいですけど」と返事。
ネリが去った後に、彼らの後ろを足早に通り抜けた看護婦(宮部)がカルテ?で福山の頭を殴っていく。明らかに焼きもちを焼いたっぽい態度、それを行動で示すところから、二人が恋仲らしいことをうかがわせます。この時点では上司命令にいやいや付き合わされてるようにしか見えない福山に、それでも怒るのだから大分嫉妬ぶかい性格と思われます。

・マンション入口で帰ろうとする福山を、「押し倒したりしないから」中まできてくれと引き止めるネリ。手紙のことまでは病院関係者には言いづらいとしても最近つけられてる気がして怖い、くらいの説明はしてもいいだろうに。欲求不満からくる自意識過剰、とか勘ぐられたくなかったのか。

・玄関で電気をつけてそろそろと部屋の中へ入るネリ。「早く入ってよ」と福山を促しつつ彼を一階で待たせて二階の様子を見に行く。ここで冷徹な福山の顔が意味ありげにアップになる。
思えばここで人もあろうに福山に送ってもらったために、部屋の間取りから何から知られてしまうことになった。知らないこととはいえ思い切り墓穴を掘ってしまいましたね。

・階段途中で足を止めたネリはもういいわと言ったものの、福山が一礼して出て行こうとすると彼を引き止め「泊まってく?」などと言い出す。まあちょっとたちの悪い冗談なんでしょうが声が微妙に本気っぽい。それだけ不安だったのかもですが、美人独身女医だけに微妙な発言ではあります。
福山は苦笑浮かべて「いや・・・それは」となんの面白味もない答えを返しますが、この時点ではまだネリに惚れてはいなかったんでしょうね。一方でこれ幸いと上がりこんでネリを暴行するとかそういう形で恨みを晴らすつもりもない。エリートだけに自分が犯人とはバレない、自分が傷つかないようなやり方しか取らないんでしょうね。

・旅行会社のカウンター。飛行場からはバスだと係に聞いた満希子は「一人でバス乗ったりはできないわあー」と甘えるような喋り方をする。海外一人旅ですから不安なのはわかりますが、それを人前でそのままさらけ出す、しかも甘えるような口ぶりなのが満希子の精神的幼さを示しているような。
係の人はまるでペースを崩さず、料金はかかるが現地の旅行会社に出迎えを頼む方法もあると提案しますが、すると「え、料金かかるんですか?」という反応。体面のためにはどんとお金かける一方で細かいところ(身の安全に関わる問題なのに)でケチるあたりが、いかにも主婦感覚ですね。

・店番する詩文。そこへ河野母来店。黒い日傘を差しているのは、白い日傘愛用の詩文とのコントラストでしょうか。
最初俯いた姿勢で気づかなかった詩文は「もしもし」と声をかけられ、「河野さん」と驚く。かつての義母を名字にさんづけというのも不思議な感じですが、確かに今さら「お義母さん」とも呼びにくいし・・・。この呼びかけに二人の複雑な関係性が象徴されてるともいえます。

・河野母は、養育費のことを弁護士に聞いたところ、親が死んだら扶養の義務は消滅するそうですよ、と上品ににっこり笑う。
この人の(詩文に対する)にっこりはファイティングポーズにも等しい。話の内容的にも完全に詩文をやっつけに来てますしね。それを「そのことでわざわざ ?」と、くだらないこととでも言いたげな台詞で受ける詩文も大人しくやられそうもないですが。

・河野母は「これは私の気持ち」と白い封筒を差し出す。続けて今後二度と河野の家に近づかない、無心はしない旨を記載した念書を出して「ここにすぐ署名捺印してちょうだい」と迫る。穏やかな態度ではありますが、先の台詞といい念書といい、すでに弁護士が介入してるんだからもはや詩文に勝ち目はないとあからさまに突きつけてきてます。
封筒の中身がいくらなのかはわかりませんが、厚さからしてそれなりにまとまった額を(義務もないのに)くれるというだけましというもの。もちろん詩文にそう思わせてすんなり念書に判押させるための戦略なんですけども。

・しかし詩文は動じず、540万と申し上げたのは間違いだったんです、私の計算違いで720万円でした、なんてことをあっさり言ってのける。完全な勝ち戦を想定してた河野母は顔引きつらせる。詩文が一気に形勢を挽回した感じです。養育費を要求できるだけの根拠は何もないのに、法的なことなどお構いなしにとにかく要求するという、まあ現状詩文が取れる戦術はこれしかないですね。
想定シナリオを崩された河野母は明らかに動揺して、ですからもう扶養の義務はないんです、慰謝料もらいたいのはこっちの方、あなたのせいで女性不信になって再婚できなかった、入省したときはあの子が一番期待されていたのに、今度の事件だってもうまるで外務省の恥みたいに扱われてるんです、とほとんど愚痴を並べるごとくになってしまったので、とりあえず心理面では優位に立てたわけですから。
しかし美波とのことはまるで知らないらしい河野母は、何が理由で圭史の事故死が「外務省の恥」扱いされてると思ってるんでしょう。やはり勝手に任地を遠く離れたことが問題だというふうに知らされてるんでしょうか。

・困惑顔で河野母の繰言を聞いていた詩文は癖のある笑顔で「でも圭史さんお幸せだったと思いますよ」と話を転換する。「え ?」「好きな女と死んだんですから」。困惑する河野母に仕事をさぼって好きな女に会いに行ってたんだと説明。
息子を亡くしたばかりの母親に対しずいぶん残酷な言葉ではありますが、詩文にしてみれば冬子の将来と詩文堂の今後がかかった戦いなわけで、敵に情をかけてる場合じゃないですからね。以降の、いい加減なこと言わないで→相手の女性の遺体も発見されたようだからご確認してみてはいかがでしょうか→あなたがなんでそんなこと知ってんの→圭史さんの娘の母だからです、という応酬もまさに丁々発止といったところです。
そして「これ(封筒)はいただいておくので残りを早めにお願いします。720万いただけたら念書にサインでも捺印でもします」と詩文はあくまで720万円を要求。540万払う法的義務はないと言われたそばからそれを上回る額を平然と要求する強心臓は見事の一言です。

・あまりのことに後ろに倒れそうなポーズをした河野母は疲れ気味に出ていこうとする。事実上撤退というところですね。まあ冷静さを取り戻しさえすれば、法的には完全に母が有利なんですが。
ところがそこへちょうど詩文の父が入ってきて、「これはこれは河野さん」と挨拶したところまではよかったものの(よく顔を覚えていたものです。二十年近く会ってなかったでしょうに)、唐突に圭史くんと詩文はもうだめなんでしょうかね、といろんな意味で凄い問いを投げかけてくる。
河野母は唖然として父親の顔を見、詩文を振り返る。再び父を見ると平然と微笑んでいる。そこではーっと得心の息を吐いた母は詩文に近寄り声をひそめて「ぼけちゃったの?」と尋ねる。
詩文父の奇行が痴呆に基づくことを得心したのみならず、ただならぬ詩文の金へのこだわり、必死さの理由(父が店を支えられなくなった&介護が必要なために大金がいる)をも得心したんでしょうね。

・詩文はにっこりと「父のことはご心配なく。冬子のことだけご心配ください」と答え、一瞬同情を覚えた(たぶん)だけにそれを無視された格好の河野母は詩文を睨んで店を出て行く。
詩文はもともと性格的に他人に同情されることをよしとしない。だから河野母に対してもお金がないから助けてほしいと「哀願」するのでなく、冬子の実父の遺族として養育費を出す義務があると居丈高に「要求」する姿勢を貫いている。ゆえに周囲から同情を集めずにいない父の痴呆のことに触れられたくないし、本来知られたくもなかったはず。
それだけに父が家に入ってきたとき、それまで心理的に優位に立っていた詩文が明らかに動揺を見せていて、河野母が巻き返すならここが絶好の機会だったんですが、詩文はすぐ体勢を立て直し「父のことはご心配なく」と、きっぱり笑顔で拒絶してつけ込まれる隙を断った。
かくてこの場は一応は詩文の勝利というべきでしょうか。ただ最終的には両者の対決は冬子の養女問題によって、どちらの勝利ともつかない形に決着するのですが。

・福山が坂元と院内電話で会話。ネリに誘われた話をさらっとバラして(そりゃバラしたくもなる)「迷惑だよな」と福山。「福山は灰谷先生に嫌われてると思ったのに」「嫌われてんの ?僕が ?」「まあ誘われたんなら愛されてんだろ」といった他愛もない会話を、二つの部屋をカメラが横すべりに行き来しながら追ってゆく。
このとき、何かに脅えてるようでもあった、医療ミスだったら面白いな、いつも偉そうな顔してるくせにと福山。ここで「医療ミス」を口にしてるのは、ネリの医療ミスを責めるような内容の脅迫状をさんざん送りつけてるのが彼であることの伏線ですね。

・そこへネリが「二人とも来なさい」と声をかけ、彼らを引き連れて病棟へ行く。ネリは研修医たちをバックに病室で患者の容態を見るが、患者の老人はネリの指を握って「きれいですね先生は」などと言い出す。実際美人の女医さんや看護婦さんにはこの手のセクハラは日常茶飯事なんでしょうね。いや美男の男性医師でも・・・。
しかし、独身貫いてるのは忘れられない方でもいらっしゃるんですか、先生に私のお嫁さんになってもらえないかと思ってるんです、とまで言われるケースはさすがに稀・・・でもないのかな。笑顔で受け流してるネリはさすがの落ち着きです。

・私の忘れられない人は女性なんです、男性には興味ないんです、とにっこり逃げるネリ。福山たちはネリの裁き方に感動したと口々に言いますが、実際あの患者を黙らせるにはあれがベストの解答でしょうね。
しかし急に立ち止まったかと思うと意味ありげに笑いまた歩き出すネリの行動に、坂元は福山の服を引っ張って「あれってほんとか?」と気遣わしげな口調に。ネリはなぜわざわざ疑惑起こさせるような態度をとったんだか。これまたたちの悪い冗談、なのか?
ドラマでは省かれてますが、原作ではネリが詩文に同性愛的感情を抱いていたことが示唆されています(キスシーンまである)。英児と男女の関係になったりしてるので基本的にはノーマルなんでしょうが、ネリが英児に惹かれたのは彼が詩文の男である―詩文と同じ男を共有したい気分があった―ことが幾分影響してることは否めないでしょう。

・ネリにメールで自分が友人代表としてお別れしてくる旨伝えて、満希子は一人空港へ。親友のお悔やみに行くというのにちょっとわくわくしてる感じなのは、まあ普段一人で遠出する機会もないのだろうから無理もないところか。
一人でバスに乗ることを心配してたわりに、街並みに見入って携帯で写真とってみたり、乗客の黒人男性によろけたところを抱きとめられ、バス降りるときには荷物も降ろしてもらって「気をつけてお嬢ちゃん」と日本語で見送られたりとすっかりいい気分を満喫してます。
先の展開に向けて、家庭の主婦の枠を一時離れた満希子がどんどん開放的になってゆく姿を示してるようでもあります。

・メモを見ながら戸倉家へたどり着いた満希子を美波の夫が出迎える。「西尾ですこのたびは・・・」と神妙な声で挨拶を受け、さらに上の階から「おばさん」と娘の彩が駆け下りてくると満希子に抱きついて嗚咽する。さすがに満希子も浮わついた気分がふっとんだのでは。
この彩の態度からすると、満希子は美波の夫はともかく娘とは親しく交流してたみたいですね。

・奥から西尾さんと年配女性(美波の母親)が声をかける。今朝もう荼毘にふしたと聞いて「え ?もうお骨になっちゃったんですか?」と驚く満希子。
この後しばらく日本とアメリカでの葬儀の様式の違いや、娘や義理の両親にも美波の遺体を見せなかった美波夫の不自然な態度について説明がされるのは原作も一緒ですが、原作よりは幾分ソフトになっています。
そして深刻度が低い分満希子の下世話な好奇心が発揮されている(笑)。寝付けないからって美波の部屋のクローゼットを勝手に開けて服の写真とったりアルバムを開いたりするってどうなのよ。

・娘のゆかりに電話で留守中の家の様子を尋ねる満希子。下世話な好奇心に走りながらも家族のことをこまめに気にしてるのは根っからの主婦らしい。一つには彩を見てるうちに同世代のわが娘のことが気になったというのもあるのかも。
ゆかりは明の分のお弁当も自分が作って持たせたと報告。一応の家事はこなせるみたいですね。
しかしそんないかにも家庭的なしっかり者の娘らしい発言をしながら、原宿らしき街を歩くゆかりのファッションは頭に大きな黒いリボンをつけたもろメイド系。続けて地下ステージ的なところで踊るメイド服の女の子たちの姿が描かれますが、客のオタク男子の歓声を浴びながら先頭で踊ってるのは他ならぬゆかり。
親に内緒のバイトなのは明らかですが、これって非行になるのだろうか?水商売とも言い切れないしなあ・・・。

・翌日、一人花を手にフェリーに乗る満希子。手にはマロングラッセらしい箱も。
満希子は高校時代の美波のことを思い返す。セーラー服で草地に横になる美波を満希子が顔にかけてた上着?をはがして起こすと「河野さんと昨日もキスしちゃった」とテレくさげに告白する。ブッキには恋愛関係の相談事はできないからと詩文に相談をもちかけた(結果圭史を奪われるはめになった)というから満希子には圭史との付き合いの具体的なことは何も話してなかったのかと思いきや、結構喋ってますね。
「やらしい」と満希子が顔そむけると美波は「ブッキは恋をしたことないからわかんないのよ」と上着を顔に押し当ててまた寝転ぶと幸せそうにふふふと笑いつづける。満希子は憮然たる面持ち。この頃は本当に潔癖だったんですね。
今も表面は潔癖そうに振る舞ってはいますがその実妄想まみれなのは、若かりし頃の反動のようにも思えてきます。

・フェリーの上に並んで立つ大人の美波と圭史のビジョンを脳裏に描きつつ、満希子は花とマロングラッセ一個を海に投げ、「美波の好きだったマロングラッセよ。私も食べるね」と涙声で言いながら一個食べて手を合わせる。このへんのセンチメンタリズムは、少女がそのまま大人になったみたいな感じです。

・空港を荷物引いて歩く満希子を西尾さんと呼び止めたのは美波の夫である戸倉。二人はラウンジに移動するが、そこで「美波には男がいたようなんです」と切り出されて満希子は驚く。美波と圭史の不倫に関してはすでに知ってるわけですから、夫がそれに気付いてたことに対して、またその事実を何を思ってか自分に告白してきたことに対して驚いてるわけですね。
「西尾さんはご存知だったんじゃないんですか」と無表情に探りいれるようなことを言ってきた戸倉に、顔の前で手を振っていいえという満希子。戸倉の問いは美波から話を聞かされてたんじゃないかというニュアンスぽいので、何も聞いてない(自分で気付いた)という点ではこれはまんざら嘘ではないですね。

・満希子の言葉を信じたのかどうか、美波と一緒になってから心の中に他の男がいるんじゃないかという気がしてた、娘が生まれて僕と生きていこうとしてもどこかうつろで、と内心を吐露し始める戸倉。
それは違いますよ戸倉さん、と満希子は否定しますが、違うという根拠は何かと聞かれたらどう答えるつもりだったんでしょう。戸倉がそこを突っ込まないでくれたからよかったものの。

・ここで戸倉はビニールに入った手帳を出し、遺品のバッグの中にあった、この中に何もかも書いてある、この事故で死んだ人の中に美波の男がいると思うとまで言い切ったうえで、この手帳を持って帰っていただけませんかと切り出す。
万一彩が見たらと思うと恐ろしいし自分も辛い、捨ててしまおうとも思ったがこの中には僕の知らない美波の人生が息づいてる、だから親友だった満希子の手元に置いて欲しいと頭を下げてくる。
これはまた・・・確かに持っているのは怖いけど捨てるに捨てられないとなったら、“信頼できる誰かに預ける”くらいしか選択肢はない気がしますし、となれば妻の親友というのは順当な相手なんですが、正直ハイエナにエサを投げ与えてやったようなもんだよなー。

・詩文が店で電卓を叩いていると満希子が尋ねてくる。ちょっとお時間いただける?という満希子に今仕事中なんだけどと文句を言いながらも結局一緒に喫茶店 ?へと出向く。タイミング的にバンクーバーの話なのはわかりきってるので、さすがに詩文も興味があったんでしょう。
満希子もネリでなくまず詩文に話を持ち込んだのは、詩文が圭史の元妻で美波から圭史を奪った経緯があり、ネリよりずっと彼らに縁が深いからかと思います。
しかし「あの時、君を選ばなかったことが間違いだったと言って、あの人は泣いた」なんて文章を詩文に見せるというのはさすがに残酷なのでは。これは満希子らしい無神経さの表れなのか、それとも美波の親友として積極的に詩文に復讐する意図があってのことなのか。美波が幸せだったことが私にもわかったわとかちょっと嬉しそうに満希子が言うのも、どちらにも取れますね。

・美波の部屋や服の写真見せて「着るものまで変わったのよ河野さん好みに!」とまたはしゃぎ気味の満希子にふーんと気のない返事をする詩文。ここまでくるとただの出歯亀趣味ですからね。
このDDとかDMLとか何のことだと思う?と手帳中の謎の記号について聞いてきた満希子に、詩文はDDはダーリンとデート、DMLはダーリンとメイクラブじゃないかとあっさり読み解いてみせる。何だかこんな暗号を使う美波も、それを二人して覗き込み謎解きしてみせる二人も、女子高生に戻ったかのようなノリです。

・詩文の携帯が鳴り、英児からのメールが表示される。内容は「計量パス」のみ。実に短いものの詩文にしてみれば一番聞きたかった一言ですね。
かくて詩文は「あーあ、あたしも男と会いたくなっちゃった」と携帯をしまって立ち上がる。「男いるの?」と尋ねる満希子を「コーヒーごちそうさま」と軽くはぐらかしてさっさと外へ出てしまう。
本来現実の恋に忙しい詩文は、相手が元夫とはいえ他人の恋愛沙汰など基本的には関心が働かない。退屈を紛らわすように妄想にひたるしかない満希子とのコントラストが鮮やかな場面です。

・さっそく英児のところへ直行するかと思いきや、詩文はまず家へ向かい、河野母にもらった封筒から一万円抜く。詩文が勝ち取った金に等しいとはいえ、冬子の養育費名目のお金を自分の恋愛沙汰にあっさり使い込むのは・・・。
減量後のステーキ肉以外でも、日頃から詩文が買い物して英児の食事を作ってる形跡があるので、詩文堂の貧乏は詩文が英児に貢いでる影響も多少あるのでは。

・そのころ満希子は夫に美波の恋愛沙汰をしっかりこっそり打ち明ける。「誰にも言わないでくれって言われたんだろ」「パパだけよ」「本当に僕だけにしときなさいよ」なんて会話してますが、とっくに詩文にバラし済みではないですか。やはり戸倉氏は信用すべき相手を間違った。
美波は幸せだったかもしれないけどやっぱり不倫はよくない、旦那さんはこれからずっと傷抱えて生きてかなきゃいけないという満希子に、案外さっぱりしてるかもしれないぞ、旦那だって何してるかわからないし、などと案外シリアス顔で応じる武。
これは武自身が「何かしてる」ことの伏線でしょう。こんなこと言ってる満希子の方もその後結局は不倫に走るわけですし。

・肉屋で100グラム2300円の上肉224グラムを景気良く1万円で買う詩文。そのまま英児の家へ行き料理していると、英児が後ろから抱きしめてくる。それもいきなりエプロン脱がせにかかる性急さ。
詩文は普通の声で「今日は最高級のステーキよ」と大人の余裕を見せたと思ったら「もう死にたいって思うくらいいい気持ちにして」と結局そのまま料理は中断して向こうの部屋で行為に及ぶ。顔だけは守ってよ、明日勝ったら思いっきりいかせてやるよ、あの世までいく ?、といった睦言を交わしあい、やがて彼らの声も音もすぐ外を走る電車の音に紛れていく。
満希子が夢想し、のちに大森と体験するお洒落な恋愛(ごっこ)とは対極の、60年代70年代的泥臭さ・生活臭にまみれた“愛”の形。しかし半ば以上想像でしか描かれない美波のケースを除けば、ネリと英児の場合も詩文と澤田の場合も、彼らが結ばれるのは狭い畳の部屋ばかり。お洒落でスマートな恋愛など虚構にすぎない、泥臭い、生の身体のぶつかり合いにこそ真実があるというメッセージがそこに篭められている気がします。

・英児の試合。詩文は人のまばらなリングサイドで冷静に観戦している。気が乗らない顔をしてたものの結局詩文は試合を見に来た。付き合ってる男の本気の頼みをむげにしたりはしない、そのあたりが詩文のいい女たる所以でしょう。

・当初は完全に英児優勢に見えたものの相手は殴らせながら耐え切リ、次のラウンドではその相手のパンチが英児の顔面に入り、その一発で英児はマットに沈む。
あれだけ殴られながら耐え切った相手選手に比べずいぶん脆い印象ですが、それは原作でははっきり書かれてる英児のパンチの軽さ(相手に与えるダメージが少ない)と、ここまでの試合展開と“ボクサーにしては綺麗な顔”が示すように英児が殴られることに慣れていない、パンチをかわすのは得意でもいざパンチが入ってしまったときの耐久力が低いゆえでしょう。詩文がよく口にする「顔だけは守ってよ」が仇になってる部分もあるのかも。

・必死に立とうとする英児。まわりの英児コールの中詩文はじっと動かない。ついに英児は立ち上がったもののまた倒れ、そのままテンカウント。そこで初めて詩文は立ち上がる。
すぐに立ち上がらず声援も送らなかったのは、英児は自力で立つはず、まだ戦えるはずと信じていたからこそですね。全てが終わってからようやくアクションを起こした詩文の、無表情のようでいて悲しげな顔がそれを示しています。

・英児のアパート。詩文は横になっている英児の側によりそうように座って顔をタオルで冷やしてやっている。「あたしのために守ったのね、顔」「クロス受けてからはおぼえてない。負けたのかおれは」「・・・やっぱり試合はいや。もうこれからは行かないわ」。
少ない言葉を交わしたあと、英児は詩文の腕を引っ張り布団に倒して、上にかぶさり服をはだけようとする。「ムリよ今日は」とさすがに詩文がたしなめるものの「なにいってんだよ、死にたいくらいいい気持ちにしてやるぜ」と早口に言いながら英児はボタンをはずしていく。
この時の落ち着きない口調、早口っぷりに英児の性急さ、我慢できないという感情が溢れてて、なんかドキドキしてしまいました。詩文も無理しないほうがいいよ、と言いつつ抵抗はしない。そして英児は乱暴に唇を重ねてくるが、そのまま身体が横に倒れ目を見開いたまま全身を痙攣させはじめる。
これは怖い。顔面にパンチくらってノックアウトされて数時間だけに、明らかにヤバいのがわかります。英児の名を呼びながら身体を揺すり続ける詩文の動揺も全く無理ないところ。

・救急車がネリの病院へ。呼吸器をつけ意識ない状態の英児が運びこまれる。詩文も付き添いで一緒に病院内に。医師たちの手で英児が手術室へ運ばれたあと、一人残ったネリは詩文と無言で見つめあう。
ネリの視線は詩文の服の胸ボタンが一つ外れているのを捉えている。こんな時間に、家族以外の男の付き添いで病院に飛び込んできた時点で二人の関係はすでに察せられてるでしょうが、行為の最中に倒れたことを示唆する生々しい証拠を前に、相手が友人だけに複雑な気分でしょうね。

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『四つの嘘』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2012-09-08 03:00:20 | 四つの嘘
〈第一回〉

・「右手に灯台が見えるときは幸せだけど、左手に見えるときはこのまま船が沈めばいいのにって、思うわ」。美波の過激な発言の中に、船が行って戻れば二人は離れなければならない、訳ありのカップルであることが示されています。

・上の台詞から間もなく船は本当に衝突事故に遭遇。船は傾き、繋いだ二人の手が離れて美波だけが海に投げ出される。この時点では彼女一人が死んだ(男は助かった)のかと思いました。

・平凡ながらもそこそこ裕福そうな家庭の主婦に納まっている美波の高校時代の同級生・満希子。
椅子の上に落としたウインナーを一度は(おそらくは子供の)弁当箱に拾って入れたものの、やはり取り出して自分の口に入れてにんまり微笑む。この一連の動作に「床に落ちたわけじゃないし、まあいっか」→「でもやっぱり子供にヘンなもの食べさせるのはちょっとね。自分の分なら構わないけど」という気持ちの変遷、そこに表れた子供への愛情+それを口実に自分がつまみ食いしたかったというちゃっかりした考えまでが集約されている。
平凡な主婦というポジションにがっつりはまり込んでる満希子の性格を短いシーンでわかりやすく見せています。

・ここで23年前の女子高生時代の満希子が美波の語りで紹介される。学年一番の成績で学校一の美人で生徒会長で、と絵に描いたような完璧人間ぶり。「起立」の号令をかける凛とした表情にも彼女の自信のほどが漲っています。
お弁当のおかずをつまみ食いする主婦満希子の姿を見た直後なのでその落差がより印象づけられる。満希子の名札の姓が23年後の姓と同じことから、旦那の方が婿入りしたのだろうことがこの時点でわかるようになっています。

・そんな堂々たる満希子を斜め後ろの席から見つめる女子高生美波。肩の上で二本に結わえた髪型のせいもあって、不美人ではないけどもっさりした垢抜けない感じ。満希子のことを「みんなの羨望の的でした」と美波のモノローグは言うが、美波自身が満希子に並々ならぬ羨望と嫉妬さえ覚えていたのがその面白くなさそうな表情に窺えます。
この後二人が仲良しだった、というか美波が満希子の子分的存在だったことが明かされますが、美波の満希子に向ける感情は決してプラスのものばかりじゃなかった。むしろマイナスの感情が大きかったことが、美波が一時詩文に急接近する背景になったわけですね。

・階段を降りてくるなり弁当箱をかっさらうようにしてバタバタと登校してゆく子供二人に、牛乳くらい飲んでいけ、挨拶くらいしろと怒鳴る満希子。その一方でちょうど階段を降りてきた夫・武のことはまるで無視。「挨拶しないのー?」と不満げにつぶやく武。
子供のことは口うるさいほどに構いたがるくせに夫には無関心な妻、ごはんやお弁当を作ってくれる母の気遣いにまるで無頓着で無愛想な子供たち、妻に(おそらくは子供にも)軽視されることに不満を抱く夫、とおよそ仲良し家族とは言えない西尾家の様子。
といっても家庭崩壊してるわけでもないごく一般的な家庭の姿ですね。満希子は子供たちに怒鳴りつつも声の調子も言葉の選び方もなんかユーモラスだし、消しの不満の漏らし方にも深刻さは感じられない。むしろちょっとしたコントのようでさえあります。
ただ将来はニュースキャスターを目指してたはずの満希子は意気揚揚とした高校時代から比べると、セレブな主婦というならともかくずいぶん平凡な、そこそこのレベルに落ち着いちゃったなあ、という感はあります。美波の語りも言外にそう言ってますね。

・急いで一階の店を走り抜けながら、店番?の男性には「いってきます」と挨拶する子供たち。決して挨拶の出来ない子たちではない、親には素直になりにくいだけで今時の子としては礼儀正しい部類なのがこのワンシーンでわかります。
旦那さんの言う通り「二人とも上出来」。さらに西尾家が仏具店を経営してるのもここで示されています。

・夫がおならしたのではないかとあらぬ疑いで責める満希子。「空耳かしら。最近いろんな音が聞こえるのよ。・・・おかしい」。
特に深刻そうな口ぶりではないですが、年齢による体の変化(衰え)を満希子が自覚する場面がさりげなく入れられていて、後々彼女が若い男に言い寄られて(自分が女としてまだ魅力的なのか改めて考え自信を失いつつあっただけに)くらっとくることへの伏線になっている。旦那はいい人だけどただそれだけの人というナレーションも、満希子がアバンチュールに憧れてしまう下地になってますね。

・テレビのニュースでバンクーバーの船舶事故とそこで「河野圭史」が亡くなったと聞いてはっとする満希子。おそらくはこの男性が美波の相手の男だったろうこと、美波と高校のクラスメートだった満希子が彼の名を知ってるからには、彼と美波の付き合いは高校時代に遡るらしいことが匂わされている。

・病院の廊下をストレッチャーで運ばれる怪我人の映像に続けて、病院の廊下を白衣で颯爽と歩く美人の女医・灰谷ネリが紹介される。バレッタを口にくわえて手早く髪をまとめようとする仕草に、彼女が飾り気のない、バリバリ働いている男勝りの女なのが示されています。

・23年前の女子高生ネリの姿。一人で勉強ばかりしていたという美波による紹介をバックに、机で一人昼食中にも参考書を広げているところが映される。クラスに一人くらいいそうな、好んで周囲から孤立している偏屈なタイプを思わせます。耳栓までしてるところに周りに対する拒絶の意志がはっきり表れている。
当時彼女が何を目指してたかは言及されてませんが、女医といういわゆるエリートポジションなら勉強した甲斐があったというか、当時の彼女からイメージされる通りの大人になった感じです。先の満希子とのコントラストが効いています。

・手術室の電話が鳴り、助手の女性が不機嫌もあらわに「先生は手が放せません」と応対する。それに対し電話の向こうの満希子はむっとするでもなく穏やかに応答。例のニュースに驚いて同窓生のネリに電話したんでしょうが、美波はほとんど口を聞いたこともなかったというネリの現在の連絡先をちゃんと知ってるあたり、さすがに元優等生だけに顔が広いのかなーと感じました(別に当時から仲が良かったわけでなく、最近偶然からちょっと近しくなったことがあとで種明かしされましたが)。
しかし普通なら勤務中だろう時間に自分の都合で電話してしまうあたり、満希子の無頓着さを感じます。助手の無礼な応対に腹を立てるでもなかったのも寛容というより鈍感さゆえだった(助手はまさにそうした鈍感さにむかついてつっけんどんな態度になった)んじゃ。まあ女医さんだと夜勤も休日出勤もあるだろうから、いつ連絡するのが適切かわからない、というのはありますね。・・・メールにすりゃいいんじゃん。

・今度は住所録を取り出し、ちょうど問題の地・バンクーバーに住んでいる美波に電話をする満希子。美波の現在の名字は戸倉。名字が高校時代と変わってることから彼女が既婚者であること、そして船上での連れの男性が「河野圭史」ならば二人は不倫の関係の可能性が高いのがここでわかります。
思えば満希子は婿養子をとり、ネリは未婚、詩文もバツイチと、この物語の核となる女性4人は美波を除いて旧姓のまんまなんですね。

・バンクーバーの戸倉家。電話に出たのは美波の夫。美波は最近ダンス教室に通うようになり今は留守にしてる、という説明にもう視聴者は全員、習い事を口実に不倫してるのだと察したことでしょう。

・満希子のリクエストで父に代わり電話に出た娘の彩。父に呼ばれたときの「はい」という返事といい、電話での丁寧な応対ぶりといい、これまた実に優等生な子です。
そして「もうそっちは夜でしょ」との満希子発言に驚く。真昼のように外が明るいのだが?確かに見返したらバンクーバーに舞台が移ったところで現地時間午後7時半と出ている。なのにこの明るさ。白夜ですか?

・「お帰りになったら電話いただけるように伝えてくださる?」という満希子。電話して相手が留守ならごく当たり前の台詞ではありますが、この場合国際電話になってしまうわけで、折り返しじゃなくてこちらからかけ直すべきなんじゃないかなあ。
もうすぐ帰るだろうと言ってるんだから1時間後とか、あんまり遅い時間じゃ悪いから明日にするとか。このへんも満希子の無頓着さの表れのような。

・電話を切った満希子は何かを勘ぐってるような表情をしている。美波と河野の関係を知っているだけに、二人が同じバンクーバーにいること、美波が習い事のためにしばしば家を空けてるらしいことを結び付けて二人の不倫関係をうすうす想像してるのでしょう。まあこの段階では想像というより妄想に近いんじゃないかと思いますが。刺激に飢えてる人間が知り合いの事故死からさらにゴシップの匂いを嗅ぎ付けて喜んでいるような。
この後も満希子の言動は友人を心配し悼んでいるというより、暇な人間がうってつけの娯楽を見つけて夢中になっているようにしか見えません。23年前の満希子だったら、きっとこういう人間を軽蔑してたんじゃないかという気がします。
・線路沿いにある英児のアパート。いかにも安そうな、下手したらお風呂もなさそうな作りが英児のキャラと立場にはちょうどマッチしています。

・窓から差し込む光の中、俊敏な動作で起き上がる英児と、まだ両腕を伸ばした弛緩したポーズで横たわっている詩文。二人の運動能力のみならず若さの違いも何気なく表現されている。

・詩文登場のところで高校時代の映像が入る。これ見よがしに難しい本ばかり読んでいて好んでクラスから孤立していた彼女を「なぜか男の人はみんなこの女が好きで」。本に事寄せて話し掛けながらさりげなく手に触ってくる男性教師を蠱惑的な笑顔で見上げる。こりゃ同性には嫌われますね。特に昔気質のお堅い女子高みたいだし。
逆に男にとってはスキンシップにも嫌な顔せず笑顔さえ向ける詩文は大いに都合のいい存在。ただあそこまでモテまくるのはそればかりではない、天然のフェロモン出しまくってるんでしょうけど。

・英児の部屋のテレビで「圭史」の事故死を知る詩文。ここで彼と詩文が元夫婦だったという意外な事実が明かされる。そして現在の男である(のは描写からまず確実な)英児に躊躇せずそれを告げる詩文のさばけた性格と二人の関係性が、そのやり取りの中に示されてもいる。ついでに「シアトルってどこ?」の英児の無教養さ(この場合それは無教養→ワイルドに繋がるむしろプラス要素)もわかります。

・「16年も前だもの。関係ないわ」と笑う詩文とそんな彼女を再び布団に押し倒す英児。おいおい。元夫の死がかえって媚薬になってしまう詩文。確かに天性の悪女かも。その無言の誘いに当たり前に応じてしまう英児も英児なわけですが。

・かつて詩文に「圭史」を奪われた美波は、詩文と別れた彼と結果的に共に死ねた、恋の勝負に最終的に勝ったことを心で誇ってみせる。それを示すかのように遺体もうっすらと微笑んでいる。
ただ美波の期待するように詩文が敗北感を覚えるかははなはだ疑問。結婚中に略奪されたのならわかりますが、美波の存在とは無関係に別れたわけなんだから、“自分のお下がりに食いついた女”という感想になりそうな。まあ心情的に引っ掛かりゼロとまではならないでしょうけど。
それ以上に美波は不倫デート中に事故死したのだから、二人の関係が夫と子供にバレる心配が第一に来るのが普通な気がするのだが。“真実の愛の成就”の前には些末な問題ということでしょうか・・・?。「ごめんなさいね 誰よりも幸せになってしまって うふふふ」だもんなあ。

・カレンダーを見て「明日から減量か・・・」と呟いた詩文は、英児が減量するなら自分も禁欲する、だから当分会えないと宣言する。禁欲=会えないになるところに、二人の結びつきがきわめて肉体性の強いものだということがわかる。
そして「来たっていいぜ」「我慢、できるのかよ」と挑発的に言い放つ英児の言葉つきからすれば、よりセックスに執着が強いのは詩文の方らしいです。

・「英児が減量している間はあたしも禁欲するの。それがあたしたちのルールよ。」この台詞からして二人の間のルールを作ったのはおそらくは詩文。年上で、姉さんぶりたがる一面のある詩文のほうがイニシアティブを握っているのがうかがえます。
加えて恋人が苦しい思いをしているときに一人楽をしようとは思わない、苦しみを多少なりとも共有したいと考える詩文は結構ないい女なんじゃないかと思いました。それも深刻にならずにおどけたようにキュートな口調と表情で告げる――彼女が男性を惹きつけてやまないのも無理ありません。

・遠からず試合に望む英児に対して「顔は傷つけないでよね。あたしは英児の顔が好きなんだから」。殴り合いが仕事のプロボクサーを相手にこの要求は無茶な。でもこのはっきりしたところもかえって魅力的だと思えてしまう。
そして「顔が好き」の台詞には、「そりゃそうだよねえ、こんな美男子ならねえ」と思い切り納得してしまいました(笑)。

・詩文の“お願い”には何も答えず「死んだ人、娘の父親だろ」と真顔で尋ねる英児。詩文がバツイチともともと知ってはいても元夫の存在に無関心でいられないらしい。元夫の死にあまりに恬淡としている詩文の態度に道徳的見地から幾分苛立ってようにも見えます。
冗談で「英児みたいなの」呼ばわりされてむっとした顔で押し黙るところとか、そういうすぐ顔に出る単純さや妙にモラリストな部分―すれてなさを詩文は可愛く思ってるんじゃないかな。

・詩文が一人電車に乗っているころ、英児はボクシングジムでスパーリング中。前髪を半ば上げたやや大人びたヘアスタイルが、かえって童顔を際立たせているような。・・・顔は傷つけないでね、と私まで言いたくなります(笑)。

・日傘を差して街を歩く詩文。傘も服も白が基調となっている。対して、数秒挿入される西尾家の食卓で一人座る満希子はエプロンの柄やつまんで口に入れたトマト、調味料のフタや背景の観葉植物?など要所要所に入る赤い色が印象的。このへんコントラストを考えてやってるんでしょうね。

・古書店のガラス戸を開けて中へ入る詩文。美波のナレーションで本好きと説明されていた詩文なのでお客として訪ねてきたとも考えられますが、店のガラスに「詩文堂」と名前が入ってるので偶然の一致ではない、おそらく彼女の家なんだろうとわかります。店の名前にちなんで娘の名をつけたのかその逆だったのかは不明ですが(原作によると店の名前が先っぽい)。

・詩文が扉を開けるところで奥に座る年配の男性が電話で話す声が聞こえてくる。「月末にはなんとかいたしますので」という言葉に詩文の表情が曇る。
近年(番組本放映時もすでに)、街の古書店はチェーンの新古書店に押されて経営が苦しいとはよく聞くところ。さらに店主も年配で、声からして高齢というだけでなく覇気もなさそうとあれば、かつかつの状況なんでしょうね。
奔放に生きてるような詩文ですが、その実いろいろ悩みを抱えていそうです。まあ四十近くにもなればいろいろあるのが当然なんですが。特に当分英児に会えないとなればその間はそれらの悩みを直視する時間が増えるわけで・・・今後の詩文の多難さが予期されます。

・電話が終わったところで「ただいま」と挨拶する詩文に「お帰り冬子」と答える店主。え ?冬子って?と思ったら「詩文ですよ私は」とおどけたようにいう詩文の声に「ああそうか」とあっさり返事。声だけで判断したから、よく見えなかったから間違えたとかではないらしい。
慣れた風の詩文の対応からしても少しボケ気味なのかもという疑惑がわきあがってきます。だとしたらますます経営状態はやばいんじゃないかなあ。

・冬子がちゃんと学校にいっただろうかという話題の中で、冬子が詩文の娘で現在高校生ということ、あまり学校に行きたがらないこと、詩文はそのへん楽観視してるけど店主(詩文の父)は父親がいないことに原因があるのではと考えてるらしく、いまだに詩文に「圭史くん」との再縁を期待してることなどがわかってくる。
そんな父に詩文は圭史の死をあっさり告げて「だからお父さんの夢はもう叶えられないわ」とにっこり笑い「お腹すいたー」と気楽に言いながら奥へ入ってしまう。あまりに軽い詩文の反応ですが、別れて16年前経ってるとはいえさすがに軽すぎる感があるので、逆に無理して明るく振舞ってるようにも見えてきます。実際電子レンジで肉まんを暖める詩文の表情はいささか重いものがありました。
しかし詩文は冬子の世話をかなり父親に丸投げしてるぽいですが、その分外で働いてるとかなんでしょうか(店の手伝い程度なのが後で発覚)。今日はたまたま英児の所に泊まったからそうなっただけなのか。後者だと思春期の女の子的には母への反発から登校拒否気味になってもおかしくないですね。

・レンジの中の肉まんを見つめながら、その昔圭史からプロポーズされたときのことを思い出す詩文。やや性急な口調で結婚を迫る圭史に対して「どうしようっかなー ?」とのんびり気のあるようなないような返事をする詩文。昔からキャラ一貫してるなあこの人。
こういう恋愛に熱くならない、はぐらかすような態度が男を夢中にさせるんでしょうね。まさに小悪魔。

・圭史のことを思い起こしつつ肉まんを平らげた詩文は、一万円札を取り出し丁寧にしわを伸ばしてからどこかへ出かけていく。さっきと同じ白い傘白い服ですが、ひょっとして圭史の家(実家)にお悔やみに行く(一万円は香典)んでしょうか。
そのわりに服装が非常識な気もしますが、お通夜お葬式の席ではなし、訃報を知ってとり急ぎ駆けつけたということでこれでOKという判断か。お札のしわを伸ばしたあたり一応の配慮はしてるようでもありますし。しかし元妻の場合ってどれくらい包むのが順当なのやら。

・詩文回想中の教会での結婚式。さっきのプロポーズといい、なんだかんだ言っても思い出したくもない相手ではない、それなりに幸せな思い出は多々持ってるわけですね。花嫁姿の詩文、本当に嬉しそうな笑顔ですし。

・えらく大きい&モダンなつくりの豪邸のチャイムを鳴らす詩文。案の定圭史の実家。しかし離婚したとはいえ門前払いに近い対応に、二人が別れた時のごたごたが想像されます。
いきなりインターフォンを切られるのを恐れたか、お悔やみの言葉その他用件など普通は中に通ってから話すようなこともインターフォンでどんどん話す詩文は、自分は赤の他人でも「冬子は圭史さんの娘です。冬子のことでご相談がありまして」と相手のキツい態度も意に介さず続ける。詩文堂は経営危機、圭史はエリート外交官で実家も資産家・・・そうか、遺産目当てで来たのか・・・。

・詩文のことは気に入らない、かつその思惑は察していても孫の名を出されると弱かったか、圭史の母は詩文を中へ入れる。
仏壇に手を合わせた詩文は「お父さんもお亡くなりになってたんですか」と問いかけ、母親は背中を向けたまま「主人は最期まで圭史のことを心配しながら逝きました」と冷たい声で答える。詩文のせいで圭史が不幸になったと言外に責めてますね。
特に圭史はその後16年再婚しなかったというから詩文との結婚でそれだけ傷を負ったと両親が思ってたとしてもおかしくない・・・と思ったら直後に詩文のせいで女性不信になった、「外務省のキャリアは奥さんが良くないとダメなのに」と詩文とのことが出世にまで響いたとストレートに罵り泣き崩れてました。事故死まで詩文のせいにされてるし。実は亡くなった時女連れだった、しかも相手は人妻だったと知ったらこのお母さん驚くでしょうね(実際あとで驚いてた)。

・さんざん詩文を罵った圭史母ですが、お茶をすすって気持ちを落ち着かせると「時間がないわ。冬子のことで相談ってなんですか。手短に話してください」と向こうから切り出してくる。息子の死を深く嘆き詩文を恨んでもいるものの、感情に流されず物事をちゃんと仕切れる冷静さのある人物なのがわかります。
家の大きさや言動からしていわゆる「いい家」なんでしょうから、それを長年切り盛りしてきただけの知性や精神力は備えてるってことですね。

・しかしあまりにストレートに、しかもいつものしれっとした笑顔で、冬子には遺産相続の権利がある、離婚のときに大学卒業までは養育費月10万をもらう取り決めになっているから、今から大学卒業までの4年半分をまとめて先にもらえないかと要求を出してきた詩文に圭史母はまさに空いた口がふさがらないという表情に。
「相続の権利」のところでもう顔色変わってましたから、意外にも詩文がお金の話できたとは思ってなかったらしい。さすがに亡くなった直後にそんな非常識な真似は、とか思ってたのかも。
そして詩文は、圭史は冬子に愛情を感じてなかったなんて話を聞かされても一歩も引かず、ついには「恥を知れ!」とまで罵られても「お願いします」と冷静に頭を下げる。相手にどう思われようが傷つけようがかまわない、家族と自分自身を守るのだという詩文のしたたかな強さがうかがえます。

・総額540万を一度に払ってくれれば二度とここへはこないという詩文に、母親は「帰ってください」とついにお金を振り込む約束はしないまま香典まで文字通りたたき返す。詩文はそれでも負けずにポケットから取り出した紙を「口座番号です」とテーブルの上に置き、床に落ちた香典は拾ってバッグに入れて立ち去る。
香典を拾ったときに一瞬間があり、これも口座番号のメモと一緒に置いてくるかと迷ったものの結局持ち帰ることにした、プライドより目の前の小金を取らざるを得なかった詩文の辛さが浮かびあがってきます。ここでの女二人の勝負は総体としては詩文が一歩リードという感じですが(全額は無理でもいくばくかの金は得られると思われる)、詩文も無傷とはいかなかった。詩文の背中を見送る圭史母も詩文の必死さから原家の内情の苦しさは十二分に感じ取れたことでしょう。

・診察時間中のネリは看護婦から満希子の訪問を知らされ、急用らしいと聞いたにもかかわらず外来の診察が終わるまで待たせておくよう告げる。どうせ大した用でもないと思ってるのがわかります。以前処方した睡眠薬の話だろうと思ってたようだし。
実際、仕事が一段落し駆けつけたネリに、忙しいところごめんなさいでもなく「電話したのに出てくれないから来ちゃったー」と満希子が切り出した用件はバンクーバーの船舶事故で河野圭史が死んだ、美波との不倫疑惑があるというゴシップ話だった。河野圭史の名前さえ覚えてなかったネリにしてみればまさにどうでもいい話。
もしネリに多少利害関係が発生する話であったとしても、ネリのごく近しい身内が死んだんでもなければわざわざ仕事を邪魔してまで伝えることじゃない。しかも満希子の場合単に自分の推理、目のつけどころの鋭さを自慢したいだけだし・・・。どうにも満希子の言動にはいちいち突っ込まずにいられないイライラ感があります。ネリが「あなたみたいに暇じゃないの私は!」とストレートに怒ったのも、ネリがきっぱりした性格だからというだけでなく、満希子のように鈍感な相手にはこれくらいはっきり言わないとわからないからでしょう。
さすがに満希子もふてくされて(自分の態度を反省してではなく怒鳴られたことにすねてるだけ)即退散しましたが、きっとまた何かあれば平気な顔で押しかけてくるんでしょうねえ。

・若い後輩医師・研修医たちと居酒屋?で夕飯を食べるネリ。何か面白い話をしろとごねるネリに見るからに生真面目一方の研修医・福山は当惑というより不快そうな顔。
ネリがこうやって後輩医師たちに食事をおごるのはそう珍しくないようですが、本人は面倒見がいいつもりの行動だとしても、周囲からは独身年増女が立場を利用して若い男をはべらせてるみたいに見られてそうです。

・ネリの面白いこと言ってという要求に対して医師の一人から「灰谷先生ってバージンじゃないですよね」とすごい質問が飛ぶ。まわりも微妙な感じの反応(それって面白い話か?と突っ込まれている)だが「みんないつも言ってる」とその医師が続けるあたり、やはり男っ気のないネリはそれゆえかえって性的な話題の種にされてるらしい。
ネリは「0.5人くらいかなあ」と謎の答えを。数が「一人」に満たないあたり、暗にバージンだと言ってるわけですかね。

・こんな会話の中発言を求められた福山は「くだらないこと話すより食べてるほうが有意義でしょ」「ご不快なら帰りますよ」とにべもない言葉で空気を悪くする。そして本当にさっさと席を立つ。残った医師の一人が、福山は大学始まって以来の秀才だが教授にも平気で生意気な口をきくため嫌われて大学に残れなかったという話をするのをネリはさえぎり、「そんなやつのことどうでもいいから、お願い笑わせて」と胸の前で両手を組むぶりっこポーズ。
ここまでくどいと酔いのせいでも評判落としそうですね。いい年して男に甘えかかる、とか。ネリも酔ってるときは満希子とどっちこっちのうっとうしさかも。

・一人ややふらつく足でマンションへ帰ってきたネリ。いかにも高級マンション、もしくはホテルみたいな感じの部屋と調度で綺麗に片付いてますが(家には寝に帰るようなものだからそんなに散らからないってことでしょう)、なんとなく血の通わない雰囲気というか、ここに一人で住むネリの寂しさを感じさせます。
そして手紙の封を切ったネリは白い紙に大書された「貴女は殺人者」という文字に、小さく叫んで手紙を取り落とす。これは怖い。そこへさらに電話が。出るのをためらうネリですがやがて留守電に吹き込まれた声は満希子のものでほっと安堵。仕事中に訪問した失礼を一応詫びていたので多少は頭が冷えたものか。

・晩酌しながら野球中継を見る夫に、まだ連絡のない美波にもう一度電話をかけるべきかと尋ねた満希子は、向こうは旦那さんだっているんだからこっちで気を揉むことじゃないと言われて案外素直に納得する。
そこへちょうどやってきた息子は満希子の赤に近い鮮やかなピンクのバスローブを見て「げ、なにそのピンク。最低」とキツい言葉を。外国ではピンクは大人の色なのよと満希子は反論しますが、思春期の子供としては親の年甲斐もない格好は見てられない気分になって当然でしょう。夫や息子の反応を見るに普段はこれ着てないようなので、圭史と美波の不倫疑惑に刺激されて、女っぽく装いたくなったんでしょうねえ。

・満希子は妙にはしゃいだ様子で夫と子供たちに、自分にパパ以外に好きな人がいるって言ったらどうする?と聞いて回るがみな全く相手にせず。夫はまだしも子供にまで聞きますかこんなこと。親友と連絡がつかないのを案じるような顔しながら、とことんゴシップ的興味で面白がってるだけなのがあまりにあからさま。美波はともかく圭史は確実に死んでるってのに不謹慎な。
直後に娘のゆかりが弟の明にトイレの便座上げてないと文句言うのを受けて同じく明に説教してる(でも相手にされない)あたり、猥雑な日常から離れたロマンスに憧れるそばから日常にどっぷり漬かりきってるのが表れています。美波のナレーションじゃないですが、本当つまらない女に成長しちゃったものです。

・そのころの原家。冬子が「おじいちゃんボケてる。あたしのことを詩文だって」というのに、詩文も「このくらいで止まってくれたらいいんだけどねえ」と父のボケを否定しない。会話の感じからすれば親子仲は良さそうな感じ。冬子の面倒を父に任せきりみたいな発言から親子仲は冷えてるのかと思ってました。

・一人でカップめん作って食べる詩文に、普通は子供の分も作ってくれるもの、いいけどねうちは普通じゃないからという冬子。普通じゃない=母子家庭と取ったのか詩文は圭史の話を切り出す。
「冬ちゃんにお父さんのこと話したことなかったけど」「亡くなったのよ今朝」。最初は「いいよ別に」と気を遣ってか興味なさげにふるまった冬子もさすがにはっとした顔で振り向く。でも事故死したこと話しても「病気で死ぬよりいいんじゃないの」と淡白な反応を返す。
顔も名も知らない父に本当は興味あるけど母親に遠慮してるのか本当にどうでもいいのか。いかにも現代っ子らしいドライな雰囲気を持っている子だけに微妙なところ。

・関係ないって言ってもあなたの父親だった人だからこの際伝えておきたいこともあると詩文が言い、「捨てた人でも?」「捨てたわけじゃないの、上手くいかなかっただけよ」「ママは好きな人とは絶対に別れない。絶対にその人のこと手放さない」「あたしを犠牲にしたって」といった会話に。冬子は父と別れた後の母の恋愛遍歴を(程度はともかく)ちゃんと知ってるんですね。

・「あなたを犠牲にしてまで欲しいものはないわ」とすこしむきになった詩文は、圭史のエリートぶりを話す。そのDNAを受けついでることは誇りに思っていいというと「ママのDNAも受け継いでるよ。魔性のDNA」。冬子も詩文同様男をもてあそんだりしてるんでしょうか。美人ですしね。
圭史の葬式に出たいなら向こうのお母さんには話しとくといっても、どうせ姑にも嫌われてるんでしょ、頭下げなくていいよとさばさばした態度でそれとなく母を気遣ってもいる。「魔性は魔性同士仲良く生きていけばいいよ」「頼もしい娘だわ」。この二人の会話は母子というより友達同士のようでもある。
西尾家の息子が母の女の部分を見たがらないのと対照的に、詩文を女、性的存在として相対している。満希子のように男に相手にされてるでもないのに一人色気づいてる痛々しさと違い、詩文は本当に男にモテモテなので、ある意味男に騒がれる魅力的な母を自慢に思う気持ちもあるのかも。

・一人リビングで退屈しのぎにか雑誌を取り上げた満希子はバンクーバーを紹介したグラビアに見入る。買い物中偶然圭史と行き逢い彼を熱っぽく見つめる美波。気づいて見つめ返す圭史。カーテンの隙間から外を見つめつつ満希子はそんな妄想にふける。
さらに二人のデートの光景、ホテル?の部屋で抱き合う二人(ベッドシーンの寸前)まで想像して自分の胸を押さえ顔をほころばす。欲求不満の主婦の姿をこうも赤裸々に描き出す脚本の冷徹な冴えに驚きます。
我に返ったようにパジャマ ?のボタンの一番上をとめ、二階へ上がっていった満希子は胸ときめかしつつ寝室に入るが、いぎたなく眠る夫の姿に幻滅という表情で出て行く。こっちからアプローチかけるつもりだったんですかね。しかし行方不明中の親友と死んだばかりの男の情事を妄想して欲情するってのもひどい話です。

・ビル二階のボクシングジムで練習にはげむ英児を路上からガラス越しに見つめる詩文。減量期間が終わるまで会わないと決めてもこうしてこっそり姿だけは眺めにくる。魔性の女と言われますが一つ一つの恋には真剣なのかもしれません。むしろそうだからこそ独特の吸引力を発揮するのかも。

・携帯が鳴り、画面を見ると「恵成女子学校」の表示が。母校の番号なんか登録してるんだ?詩文は同窓会も一切出席しない、母校の現状にも興味ないタイプかと思ってたので意外でした。
これはあとで冬子が詩文の母校に現在通ってることが判明して納得しました。たしかに娘の通ってる学校なら登録必要ですね。

・病院のロビー。かけつけてきた詩文はソファに座る冬子にジャージの上下を着た男性が上着を脱いで冬子の肩に着せ掛けるところを目撃する。
冬子の隣りに松葉杖があったので、おそらく学校の体育ないし部活中に怪我をした、男性は顧問で彼女を病院まで連れてきた、娘の怪我を学校から知らされた詩文は病院へやってきた、という状況なのでしょう。てっきり美波の死についての連絡かと思ってました。

・男性は体育教師の浅野と名乗り、冬子は先生にしごかれて転んだのとすねるような甘えるような口調。二人の会話の様子、浅野が冬子の肩に触る様子に目を留める詩文。ちょっと意味深な雰囲気です。自称「魔性」の冬子だけに。さっきジャージ着せ掛けるシーンでもすでに出来てる感出してましたからね。
これで学校に戻るという浅野に詩文も挨拶。去ってゆく背中を見送る詩文に冬子はいたずらぽく笑って「エロ教師なんだあいつ。マラソンなんてやりたくないから転んでやったの」。悪女全開な言い草です。てっきり冬子の方も気があるかと思いきや浅野の片思いなんでしょうか?
「あの先生は冬ちゃんのこと好きなの?」「男の先生はみんなあたしのこと好きだよ」というのもこれまたすごい自信です。かつての詩文同様そのぶん女子からは嫌われてそうです。

・冬子が渋谷で映画見てから帰るという(男と一緒に行くのを見透かした言い方を詩文はしてましたが、実際デートだったのか?)ので別れたところに、ちょうど患者を運ぶ関係でネリが通りかかる。やはり彼女の病院だったか。
お互いしばし見詰め合ってから「ネリ ?」「原?」。後に英児もこの病院に運ばれてましたから、この近辺じゃ何かあったらまずこの病院なんですね。

・25年ぶりの再会を語りあう二人。今日もう終わりだからご飯でも食べないというネリに人付き合いがよくなったと詩文は驚いてみせる。25年も経てば変わるのよとネリは言うが、確かに後輩医師を引き連れて食事行ったりもしてるし、人付き合いはよさげ。むしろ一人の食事がやりきれないことがあるからこそ人付き合いがよくなったんじゃていですかね。

・荷物取りにロッカーへ向かうネリは満希子から電話が入ってると言われるが、学会でいないと言ってと無視。満希子より詩文優先なのは久しぶりに会った懐かしさからか詩文は満希子のようにうざくないからか。
詩文と会ってなければ変な手紙で怖い思いした後だし、満希子とでも話したかったかもしれませんが。

・ところが病院を出ると満希子がそこに立っている。当然「学会じゃないじゃない!」と怒る満希子に溜息をつくネリ。本当に満希子は暇だよなあ。かくて三人でバール?へ。
詩文も満希子も自分の母校に娘を通わせてると聞いてネリは驚く。しかも二人はクラスメートだそう。優等生で学校にもいい思い出がたくさんありそうな満希子はわかりますが、勝手がわかってるにせよ詩文が母校に娘をやったのは確かに意外。
経済的には圭史から養育費を貰ってるから名門私立でも大丈夫だったんでしょうが、こうやって元同級生の子供と鉢合わせる可能性もあるし当時の先生たちもまだ残ってたりして、詩文の悪評が「あの人の娘なんだって」と冬子にまで及ぶ可能性がある。覗き趣味の満希子なんてまさに母親連中に世間話ついでに詩文の噂をばらまいてそうです。

・じゃあ二人は25年ぶりじゃないんだというネリに「25年ぶりよ。あたし父母会とか行かないから」「ブッキみたいに悠悠自適の奥様じゃないもの。父母会なんていってられないわ」と詩文は答える。父母会ってそんなにお金かかりますかね。終わった後の食事会とか付き合うはめになると確かに懐が痛むでしょうけど。
これはお金の問題以上に母親たちの間で悪評立ってそうなのを警戒してじゃないかという気がします。数少ないお父さんたちが詩文になびいてしまって他の母親陣から敵視されるなんてことも起こりそうだし。

・ちなみに詩文は悠々自適の奥様じゃないと言いつつ、外で働いてるのではなく家の商売手伝ってるだけらしい。零細古本屋を父と二人で管理するより外で働いたほうがお金になると思うんですが。
ボケかけた父親を一人にしとくと危ない(父が店番だと万引きが多いなんて話もあったし)から?それにしては英児がらみなどで店番父親にまかせて家開けてることも多いんだよなあ・・・。

・満希子の娘は生徒会長だそう。子供たちも夫もまじめで上手くいってると何気に家族自慢、というか見栄を張る満希子。しかしブッキってニュースキャスターになりたいって言ってたわね、と過去の話を振られるとそれには触れられたくないのか、詩文の娘も魔性と呼ばれてると話をすりかえてしまう。
それなり裕福ではあってもごく平凡な主婦にすぎない現在の自分は、頭脳・美貌・人望を兼ね備え将来を期待されてた(自分でも期待してた)頃からみれば堕落してることを本人もわかってるからでしょう。

・高校時代の三人の回想。合唱コンクールの練習風景。指揮をする満希子は伴奏のピアノをとちった美波をきつく叱責。居丈高な怒りように呆れた顔のネリと詩文はその隙に練習から脱走する。
練習サボるやつは非国民って雰囲気だったのだとか。優等生の満希子一人がキレてるわけじゃないんですね。たかだかクラス対抗のコンクールなのに。いかにも世間知らずの女の子たちが狭い世界で些少な優劣を争ってるという感じです。
そんな学校内では一番の美人で優等生だった満希子も所詮はお山の大将だった、だからこそ大成しなかったのがこのちょっとしたエピソードによく表れています。

・ネリは「今日ブッキは何しにきたの」と満希子に尋ねるが、詩文は河野のことでしょと鋭い。満希子は最近河野さんと連絡取ってる?バンクーバーには美波が住んでるって知ってた?と例の推理を詩文にも得々と話し、そのうち二人が美波のこと心配しないと怒り出す。はては圭史と美波が高校の時付き合ってたのを詩文が横取りしたせいで二人は死ぬはめになったと言い出す始末。
現時点では美波はちょっと連絡が取れないって程度なんだし、25年会ってない元クラスメートの行方をいちいち心配しなきゃならない理由はない。特にネリなど美波とはほとんど接点がなく「ブッキの子分みたいだった子?」程度にしか覚えていないというのに。
心配してるといいつつゴシップ的興味で美波のことをつつきまわす(ほぼ無関係のネリの仕事まで邪魔しながら)満希子より、無関心に近い態度の詩文やネリのほうがずっと美波に対して失礼ではない気がします。

・「美波は河野のことあたしに相談してきたのよ」と詩文は語る。こういうことはブッキには話せないと言ってたという言葉に満希子はショックを受ける。後の話を見ると結構美波は満希子にも圭史とキスしたとかのろけまくってるんですが、そのつど満希子が潔癖さを剥き出しにした応答をしたために、“ブッキには話せない”となり、いかにも男慣れした詩文を話し相手に選ぶに至ったのでしょう。
しかし圭史のことを自慢したさで詩文と引き合わせたというのはいかにもまずかった。詩文の男に対する異様な吸引力を知らなかったわけないのに。圭史が自分を裏切るなどまさかありえない、彼はそれだけ誠実な人だし私に夢中なんだ、とか無邪気に信じてたんでしょうか。恋は盲目ってことですね。

・「そのうち河野があたしのこと好きになっちゃったの」と、圭史との馴れ初めから二人の仲が美波にバレたきっかけまでを語る詩文。「後はなりゆき」「仕方がないじゃない」という二人の関係が回想の形で具体的に描かれますが、美波に二人で買い物する姿を目撃された場面が“買い忘れたリンスを買いに戻ろうと振り向いたら美波が立っていた”と妙にディテールが細かい。
無言で走り去った美波が満希子の家にゆき「リンス」と言い残して倒れたというオチもふくめ、いかにも生活感の漂う、ここぞとばかりお洒落感を排除した情けない小事件にまとめあげています。
しかし美波が走り去ったとき、思わず後を追おうとした圭史を詩文が腕をつかんで引き止めるシーンがありますが、なりゆき、仕方ないで付き合ってたかのような言葉に反する激しさ。美波を追いかけようとしたことへの嫉妬心が一瞬ほとばしった感があります。プライドゆえか別れた夫にもともとさほどの執着はなかったのごとく振る舞ってますが、本当は詩文なりに強い愛情を持ってたんじゃないのかな。

・友達の彼なんだから拒めばよかった、そうすれば圭史と美波は結婚してただろうし圭史も事故で死なずにすんだ、冬子も父のない子にならずに済んだ、全ては詩文のせいだと満希子は責め立てる。
このくらいストレートかつ言いがかりが過ぎてるとかえって怒る気もしないのか詩文は笑っていたものの、ふられたほうにも魅力がなくなったという重大な責任があるという詩文を満希子が怒鳴ったのを皮切りに、ネリが満希子に怒り満希子は学会なんて嘘つきとネリに水を引っ掛け、あなたがみんなを不幸にしてるのよという満希子に今度は詩文が酒を引っ掛け、ついにはもみあっての喧嘩に発展してしまう。そばの席の人たちはいい迷惑です。
そこまでも満希子が一方的に詩文に突っかかってはいましたが、決定打になったのは「ふられたほうにも魅力がなくなったという重大な責任がある」という一言。これまさに真理だと思いますが、“寝取られる”側の女(実際に寝取られたことはなくても心理的立場的に寝取られる側に肩入れしてしまってる)にとっては痛い言葉。ましてそれを“寝取る”側の女に言われたわけですからね。

・その時ちょうど例の船舶事故の犠牲者として戸倉美波の名がニュースで読み上げられる。思わず争いを止めてテレビに見入る三人。詩文は「負けてなんかいないじゃん、あの人」。
満希子の勝手な想像―二人の不倫関係―が事実を言い当ててたことが結果的に立証されたわけですが、満希子が美波を可哀想がるのと対照的に、詩文は(ネリも)奪われた恋人をその後再び手に入れた美波を勝利者と見る。だからといってすでに圭史と別れてる詩文が負けたことにはなりませんけども。

・ラストに「みんなが苦しむさまをあの世から観賞させていただくわね」という美波によるナレーション。他二人はともかく学生時代からの親友ポジジョンだった満希子も「みんな」に含むわけですか。やはり本心では満希子のこと嫌いだったんですねえ。いろんな意味で無理もないですが。

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『四つの嘘』(1)(注・ネタバレしてます)

2012-09-06 19:43:52 | 四つの嘘
2008年7月期放映。人気脚本家の大石静さん原作の小説を、大石さん自身が脚本化。それなのにというかだからこそなのか、放映開始前に読んだ小説とドラマ版では大胆な改変が成されていて、その違いっぷりに驚きました。
先に取り上げた『キャットストリート』も、主要キャラの一人を存在自体消してしまって代わりにオリジナルキャラを投入するという大きな変更を行っていて、それに比べれば『四つの嘘』はまだしも主要キャラ4人の顔ぶれは同じだし第一話の展開は比較的原作通りなんですが、その後の展開が後へいくほどオリジナル度を高めていく。原作を知っている人にもまるで先の展開が読めないという、なかなか特異な作品になっていました。

その改変具合の傾向として、原作に比べて全体的に作品の空気感が明るくなっていることが挙げられるでしょう。原作に比してコミカルな場面が増え、それは主としてメインヒロインの原詩文とサブヒロインの一人・西尾満希子のキャラクターの変化に負う部分が大きいと思います。
少女の頃から男たちをやたらと惹きつけ、41歳の現在もなお28歳のボクサーと恋愛関係―それも精神性よりもっぱら体の交わり、肉欲によって結ばれた関係―にある詩文は、原作ではその刹那的な生き方ゆえの孤独や年を取るにつれて生まれた焦り、友人への嫉妬などの暗い部分がしっかり描かれ、逞しさを感じさせる一方で後半では自殺を図ったりするような意外な脆さも露呈しているのですが、ドラマの詩文ははるかに明るい。
家庭の状態は父が痴呆症になったり娘を養女に出さざるを得なくなったりと原作以上に深刻化しているのですが、時に孤独感や経済的困窮に頭を抱え重い溜息をついても、少し後のシーンではしれっとした顔で食パンかじったり夜食食べたりしている。第三回で美波のナレーションが「やっぱり死ぬ気はないのね、図々しい女」と評したように、ドラマの詩文はどんな切羽詰った状況であろうと、自ら命を絶とうとするところなど想像もできない(原作の自殺未遂シーンもトラマではすっぱりなくなっていた)。
あまり重苦しい展開はテレビドラマには向かないという配慮もあったのかもしれませんが、ドラマの詩文の明るさと生命力は主として詩文を演じた永作博美さんに由来するもののように思えます。
原作もドラマも詩文は男心を惑わす魔性の女として描かれていますが、泣き顔に格別の魅力がある設定の原作の詩文がどちらかといえば陰性の色香を放っていたのに対し、ドラマの詩文は明らかに笑顔が印象的な女という位置付けになっている。
といっても慈母的微笑や無邪気な天使の笑顔ではなく、もっぱら小悪魔的な悪戯っぽい笑顔。それもにっこり系から目も口も大きく開いた肉食系の笑顔まで、視線や口元の微妙な動きも含めてバリエーションが豊富。
笑顔に劣らず頻繁に見せるわずかに憂いを含んだ物思わしげな顔が、上述のようなしれっとした顔やいたずらっぽい笑顔にすっと切りかわったかと思えばまたふっと真顔に戻ったりして、その表情変化の多彩さに思わず引き込まれないではいられませんでした。この永作さんの“陽の魔性”が、ストーリーの方向性をも原作とは別の方向に動かしてゆく牽引力になったんじゃないでしょうか。
また彼女が狙った男を落とすについても、原作ではいろいろと計算を用いているのが地の文で説明されていますが、ドラマでは映像で見せるだけなので(映像作品で地の文的役割をするのはナレーションでしょうが、死んだ美波の語りという形式を取ったナレーションは美波の主観を語りはしても詩文の内面に踏み込めるわけじゃない)手練手管が見えない分陰湿な感じがしないのも大きかったと思います。

一方、満希子のキャラの変化は「永作詩文」に引っ張られるように作品全体のトーンが明るいものに変わっていくうえで、その明るさをより明るく、コミカルに演出するうえで要求されたものだったのかなと想像しています。
原作にあっては41歳時点の四人の中で最も地味で暗い雰囲気(詩文のような色気にも通じる翳りではなく陰陰滅滅とした感じ)だった満希子が、欲求不満の専業主婦なのも家族に無視された存在なのも社会経験がないゆえの精神的鈍さも原作と同じでありながら、欲求不満ゆえにドラマティックな恋に憧れる様子や精神的鈍さの部分を戯画的なまでに強調して描かれることで、一気にコメディ的存在になってしまった。
その厚かましさ、反省のなさ、良識を振りかざしながらひたすら自己保身に汲々としてる姿など、もう言動のいちいちにツッコミを入れたくなるほどでした。きっと満希子役の寺島しのぶさんも、台本を見て「こんな台詞言うのー?」と思うことたびたびだったんじゃないでしょうか。
しかし視聴者をいらだたせるほどのその身勝手さゆえに、第一回から自分の名推理(実質ゴシップ的興味)を披瀝したさにネリの貴重な時間に図々しく割り込んできた満希子は、後半では旦那の浮気騒動や自身の駆け落ち騒ぎで詩文やネリ(とりわけ詩文)をさんざん振り回す形で物語を動かす役まで担ってゆくことに。
そして最終的には自分の浮気については見事に隠しきって旦那の浮気をのみ責める形で優位に立ち、ほころびが出そうな部分は全部詩文に押しつけて平然と元の生活に返ってゆく。そのあまりにもちゃっかりした態度には一周回っていっそ爽快感さえ覚えてしまいました。それは眉を寄せ歯を剥いた愕然顔や自身の妄想にうっとりする顔、拗ねた顔、哀願する顔など一つ一つの表情をコントラストくっきりと見せてくれた、ある意味悪役な満希子をふっきって演じた寺島さんの表現力によるところが大だったんじゃないでしょうか。

もう一人のサブヒロイン・灰谷ネリは大病院の脳外科医というポジションと英児との関係以外は、ストーカー被害や教授選の話などオリジナルエピソードが大半を占めていたキャラクターでした。演じてるのが高島礼子さんというのもあってか、原作よりさらにさばさばした印象でありつつ同時に円熟した色香があって、後輩医師たちに対する姉御肌なところも含め、長年男っ気がない設定に説得力がないほどでした。
だからなのか、英児との関係も一度のことに終わらずより深入りして不安定な恋に執着する、ボクサー復帰の夢を捨てられない英児に行かないでとすがるシーンなど、女っぽさが原作より強められている感触でした。
それも41歳の成熟しきった、むしろ早めの更年期障害に差し掛かってることに焦りを覚えてる状況からすればもっと女の情念を発散させててもおかしくないところを、ただひたむきに少女のような初々しささえ感じさせる演技でネリを健気な女として成立させ、先には説得力がないと感じた男性経験が少ない設定をも(初恋同然だからこうも計算抜きでひたむきなのだなと)納得させてくれました。64年生まれの高島さんは撮影当時、41歳のネリよりさらに年上の43~44歳だったはずで、それであの初々しさを出せるのだから見事なものです。

さてそしてわれらが勝地涼くん演じる安城英児。28歳という年齢設定、野性的・肉食系のボクサー、永作さん演じる年上女性との愛欲に溺れる役という前評判に、またえらくハードルの高い役が来たと思ったものです。というよりなぜこの役柄に勝地くんをキャスティングしようと思ったんだか?
勝地くんは当時まだ21歳(放映中に22歳に)で、外見的にも目力は強くとも全体としては優男の方で、これまでの出演作も愛欲に溺れるどころかせいぜいキス止まりの初々しい純愛路線ばかり(『1980』は例外ですが、あれもベッドシーンそのものは出てこなかった)。
むしろ上のような評判から想像したのは若かりし頃の渡辺裕之さん(勝地くんが主人公の少年時代を演じた『新・愛の嵐』で「旦那様」こと伝衛門を演じた方です)みたいな野性的なマッチョタイプだったんですが、原作を読んだら英児の外見は「ボクサーにしては美しい顔」「目も切れ長」と表現されていて、それならまあ納得できるかなと思ったのでした。
しかし実際ドラマを見てみると「やっぱりちょっと若すぎるかなあ」という印象は否めなかった。単純に年齢が若いということではなく、年上の女二人との過激かつ乱暴な(「暴れろよ、いつもみたいに、キャーキャーわめけよ」という台詞に象徴されるような)ラブシーンを演じるにはいかに美形設定とはいっても男臭さが足りない、勝地くんの持つ透明感がここでは仇になっているような感じをうけたのでした。
しかし作品を見返すうちに、これで英児のキャラは正解なんじゃないかという気が次第にしてきました。ボクサー稼業や乱暴な言動から男臭いイメージの強い役柄とはいえ、詩文やネリより13歳年下という設定は「年下の可愛い彼氏」というニュアンスを含んでいるのだろうし、さらに詩文を演じる永作さんが実年齢より相当お若く見える方なので、本当に28歳前後の役者だとこの「年下」感が出なくなる可能性がある。そう考えれば20歳すぎの俳優をキャスティングするのが自然な流れだったのだろうと。
加えて英児と性的関係を持つもう一人であるネリは男性経験が少ないわけで、いかにも男臭い男だったら生理的に警戒してしまい、自分の方から接近してゆく展開にはなりそうもない。ほぼ初対面から押し倒されるような目にあっているのだし、英児の意識が混濁してたといっても日頃から恋人(詩文)にあんなふうに振る舞ってる男には違いないわけで、それでもなお近付きたい気持ちにさせるような要素――ネリの恐怖心をさほど喚起しないようなどこか初々しい、可愛気がある男であってこそネリと英児の関係が成り立ちうるのだと気付いたのでした。

かくて当初の違和感が消え、“勝地英児”を全面的に受け入れてしまったら、彼が時折(特に詩文がらみで)見せるナイーブな表情の美しさにすっかり吸い込まれてしまいました。
洒落たことは言えない、基本的に拳と身体で語ることしか知らない英児は総じてぶっきらぼうで言葉も乱暴ですが、その眼差しが、切ない表情が英児の胸の内を伝えてくれる。言葉が少ない分を繊細な表情で補う、それはまさに勝地くんの得意とするところであり、勝地くんがキャスティングされた意図もそこにあったのかも。
試合中のケガがもとで現役続行不可を言い渡されるのは原作もドラマも同じですが、原作の英児が悩み苦しみながらも引退を決意しトレーナーとして再出発したのに対し、ドラマの英児は単身未知の国であるパナマに渡ってまで現役続行にこだわった。そんな原作以上の“青臭い”性格を示す展開も、もしかしたら勝地くんの“若さ”がもたらしたものだったりするのかもしれません。

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