『小学館の図鑑NEO 21 危険生物 DVDつき』
小学館、2017年
けっこうワタクシ、好きなクチなのでありますよ、図鑑が。
フツーの書籍に比べるとそれなりに値が張る上にスペースも取りますので、そうそう買って読めるというわけでもございません。ですが、子ども向けのもの大人向けのものを問わず、掲載されている豊富な図版の数々を見ているだけでもワクワクしてまいりますし、知らなかった知識や情報にいろいろと接することができるのも、実に楽しいものであります。
中でもわたしが大好物なのが、ちょっと変わった生き物類の図鑑。なかなか目にすることもなく、その存在すら知らなかった生き物たちの姿形にワクワクすることができるのも楽しいですし、生物の多様性がいかに豊かなものなのかを実感することができるのも、変わった生き物系図鑑の大きな魅力です。
これまでにもいくつか、値段の高さも顧みずに購入した魅力的な生き物図鑑がございますが(それらもまた、いずれ機会をつくってご紹介したいな、と)、子ども向け図鑑の中でも高い人気を誇る『小学館の図鑑NEO』シリーズの最新刊として刊行された『危険生物』も、勤務先である書店に入荷した実物をパラ読みしてたちまち取り憑かれ、即買いさせられた物件であります。
この『危険生物』は、人間にとって何らかの危険性を有する、陸と海の動植物約750種を、その危険の種類(刺毒、咬毒、食中毒、防御毒、吸血・病気媒介、刺咬傷の6種類)ごとに分類して紹介していきます。
取り上げられている生物の種類も実に多彩です。ハチやアリ、サソリ、クモ、カ、ダニなどの昆虫および節足動物。ヘビ、カエル、ワニなどの爬虫類や両生類。キノコ、トリカブト、ウルシなどの植物類。クマやゾウ、ライオンなどの哺乳類。クラゲやウニ、フグなどの魚介類。そしてサメ・・・。
いまは夏休み真っ最中ということで、海山川にお出かけになる方も多いことと思いますが、いまの時期に注意したい危険生物の代表が、スズメバチ。この図鑑では、最も大きく攻撃性も高いオオスズメバチを筆頭に、全部で7種類が取り上げられております。攻撃に移るまでには「警戒」「いかく(威嚇)」「攻げき」の3段階があることが説明されているほか、野山で刺されないための予防法や、もし刺されてしまったときの治療法も、イラストとともにしっかり説明してくれています。野外で飲みかけのジュースの缶に入り込んでしまうこともあるそうで、気をつけたいところです。
海で注意が必要な危険生物といえば、クラゲです。本図鑑では、日本で最も危険なクラゲであるハブクラゲから、毒はあまり強くないミズクラゲなど、全部で13種が紹介されています。沖縄では、ハブクラゲに刺された2歳の子どもが呼吸が止まり、危うく命を落としかけた事例もあったとか。
そして、いまの時期に悩ましい存在である「カ」。おなじみのヒトスジシマカから、2010年に新種と認められた種まで、国内に生息する11種(および、海外に生息する2種)がラインナップされています。「カ」が危険なのは血を吸うことよりも、感染症の原因となる病原体を媒介する点にあり、世界では「カ」が運ぶ病気で毎年70万人ものヒトが死んでいるという「地球上で最も危険な生物」でもあるんだそうな。ううむ、これはより一層「カ」には神経「カ」敏にならざるをえんなあ(暑い日々が続いておりますが、コレで少しは寒くなっていただけましたでしょうか)。
しばらく前から、日本の複数の港で発見されるたびに大きなニュースとなっている、熱帯地域に生息しているアリの一種、ヒアリもしっかり取り上げられておりました。英名はファイアーアントで、毒針で刺されると火のように痛いということから、その名がついたのだとか。ヒアリに刺されて腫れ上がった皮膚の写真も掲載されていて、これがいかにも痛そう。「特に危険」を示す赤ドクロマークがついているくらい、危なっかしいヤツのようであります。
ヒアリはこの図鑑では、海外に生息している危ないアリの一種として取り上げられているのですが、こいつがこの先日本に居つくことがないよう、願いたいところです。
いかにも危なっかしい感じの生物たちに交じって、「えっ?これも危険生物なの?」と思うような意外な生きものも取り上げられています。たとえば、ジャイアントパンダ。滅多にヒトを襲うことはないものの、鋭い爪や牙によって大けがをした例があるとのこと。また、ムラサキイガイ(ムール貝)やホタテガイ、アサリといった食用としてお馴染みの二枚貝も、有毒なプランクトンを食べることで毒化し、下痢や麻痺を引き起こすことがあるということで、けっこう大きく取り上げられております。
その名の通りヨーロッパに生息するヨーロッパアカヤマアリの群れが、近づく敵に反応して一斉に蟻酸を上に向けて噴射している光景や、見た目に反して実はアフリカでは特に獰猛で、足も速いカバがヒトを追っかけている光景など、思わず見入ってしまうようなオドロキの写真もいろいろと掲載されているので、めくっているだけでもけっこう楽しめます。
取り上げられている生物の多彩さやオドロキの写真の数々もさることながら、本書の真骨頂といえるのはその情報量の多さでしょう。危険生物によって生じるケガの実例とその対処法をはじめ、危険生物によって起こった実際の事件・事故の紹介、豆知識などを、たくさんのコラムを設けて盛り込んでいます。
ケガの実例と対処法を説明した「救急コラム」は、多数のケガの症例写真もオールカラーで掲載しています。中には、マムシに噛まれて皮膚が壊死している指先や、オニダルマオコゼに刺されて大きな水ぶくれができた手の写真といった、ちょっとギョッとするようなものも。
危険生物による事件・事故を紹介した「事件ファイル」では、昨年(2016年)秋田で起こったツキノワグマによる死亡事件や、岐阜でのマラソン大会で100人以上がスズメバチに刺されるといった新しい事例から、さまざまな小説や映画の題材にもなった1915年の「三毛別ヒグマ事件」のような歴史的事例までを豊富に網羅。驚くような事例もいろいろと載っていて、興味を掻き立ててくれます。
さらに「ものしりコラム」では、取り上げた危険生物についての補足知識をはじめ、江戸時代の外科医・華岡青洲がトリカブトなどを配合した麻酔薬を使って成功させた世界初の全身麻酔手術のことや、ホホジロザメをモデルにした映画『ジョーズ』のエピソードなどといったトリビア的なことまで、危険生物にまつわる幅広い情報が満載されています。中には、東北地方では「春先のアワビの内臓をネコに食べさせると、耳が落ちる」という言い伝えがあるということ(毒がたまったアワビの内臓を食べることでアレルギーが出てかゆくなり、掻きすぎて耳がなくなってしまった、という意味)など、初めて知るようなことが数多く記されていて、拾い読みすると大いに楽しめます。
このように、大人でも知らないような知識や情報がたくさん詰まっているので、子どもはもちろん大人にも大いに役立ちそうです。
付属のDVDは、ドラえもんとのび太のコンビとともに危険生物の生態を学ぼう!という内容で、オトナが観るには若干の気恥ずかしさが伴うのですが・・・。それでも、ゾウの上に乗っている人めがけてトラがジャンプして襲いかかる瞬間など、アメリカのナショナルジオグラフィック提供による迫力の映像がふんだんに使用されていて、思いのほか見入ってしまいました。
とりわけ、長時間かつ瞬発的な活動を支える2種類の筋肉や、正確な距離感覚で獲物を捉えることのできる目や感覚器官を持った、ホホジロザメの驚異的な身体能力を解説したパートは、ちょっと驚嘆ものでした。
人間にさまざまな害を与える「危険生物」を紹介したこの図鑑。活用する上で頭に置いておきたいのは、たとえ危険な生物であっても、それらは同じ地球でともに生きている「仲間」でもあるのだ、という認識でしょう。
それぞれの生物の特徴と危険性についての正確な知識を持ち、「正しく怖がる」ことで住み分けと共存を計り、生物の多様性を守っていく・・・そんな知恵を養うためにも、この図鑑を一家に一冊備えて活用することをオススメしておきます。