読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【読了本】『ノンフィクションはこれを読め!2013』 2度3度でも面白い、至福にしてキケンなレビューの数々

2013-11-10 23:27:41 | 「本」についての本

『ノンフィクションはこれを読め!2013 HONZが選んだ110冊』
成毛眞編著、中央公論新社、2013年


実業界きっての読書人として知られる成毛眞さんが代表となり、おととし7月に開設されたノンフィクション系おすすめ本紹介サイト「HONZ」。
小説などの創作物以外の、ありとあらゆるジャンルの本のレビューを、ほぼ毎日更新し続けているこのサイト。成毛さんをはじめとする20人ほどのメンバーも、ビジネスマンや学生、編集者、医学部教授、タレントなどなど多士済々で、中には固定ファンを持つ人気レビュアーもいます。
小説をあまり読まなくなり、読むものはノンフィクション系ばかりになっている今のわたくしにとっては最良の情報源であり、選書にあたっても大いに参考にしているサイトであります。
•••といいますか、レビューに引き込まれた末に取り上げられた本を衝動買いしてしまうこともしばしばで、思わぬ散財を誘ってしまう実にキケンなサイトでもあるのですが。•••この一週間だけでも2冊、HONZのレビューを読んで勤務先(外商書店です)から注文しちゃったからなあ。怖いわホントに。どうしてくれる(笑)。

本書『ノンフィクションはこれを読め!2013』は、そのHONZに掲載された中から精選された傑作レビューを収録した書籍の第2弾です。昨年刊行された第1弾では150冊のレビューが収録されましたが、今回は110冊分のレビューが収められています。
まず最初に、ここ1年で多くの人たちに読まれたレビューが、PV数の多い順に10本掲載されています。
サイトがパンク状態になるほど、最も多いアクセス数を記録したのが、サイトの編集長でもある土屋敦さんによる『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』(高橋秀実著、新潮社)のレビュー。HONZにおいても異例であるかなり長文のレビューですが、単なるスポーツものにも、はたまたビジネスものにも収まらないようなこの本のユニークさを存分に伝えていて、読む者の9割9分9厘は買いたくなってくるのではないか、と思えるような力作レビューであります。現に『「弱くても勝てます」』はベストセラーにもなりました。

また、やはりPV数トップ10入りとなった、成毛さんによる『ランドセル俳人の五・七・五』(小林凛著、ブックマン社)のレビュー。通っていた小学校で壮絶ないじめを受け不登校になるも、俳句を心の支えとしていじめと闘っている少年の句と、その家族の手記をまとめた一冊を、成毛さんは「この本がより多くの人に読まれるよう、僅かばかりでも役に立たなければ、書評を書くものとしての矜恃が保てない」と、熱意と願いが籠ったレビューで紹介したのです。それは、初出のときに読んだわたくしの気持ちも動かし、即座に購入に至りました。あらためて読み直しても素晴らしいレビューです。
(余談ですが、購入した『ランドセル俳人~』を、わたくしはまだ読めずにおります。いじめられっ子だった身としては、これを読むと確実に気持ちが激しく揺さぶられそうなので。ですが、近いうちに必ず読ませていただくことにしたいと思っています)

PV数トップ10のレビューに続いては、数あるレビューから精選されたレビューがジャンルごとに収録されています。
歴史や民俗、ビジネス、社会、サイエンスから、アートやスポーツ、雑学ものまで。メンバーそれぞれの個性が発揮されたそれらのレビューは、ほとんどがサイトでも読んでいるものなのですが、こうして本の形で読んでも実に面白く、あらためてそれらレビューの質の高さを実感させられます。まさに、2度3度でも美味しい至福のレビュー揃いであります。
もっとも、それらを読んでいくごとに読んでみたい本は雪だるま式に増えていく一方で、その意味ではまことにキケンなレビューでもあるのですが•••。
ともあれ、レビューをまとめて読むことで、さらなる知的好奇心と読書欲が湧き上がってきました。読書によって自分の世界を広げたい向きには、ぜひとも読んでいただきたいレビュー揃いであります。

第1弾に比べて収録レビュー数は若干減りましたが、その分著者インタビューなどが充実していて、それぞれの著者から味わい深い発言を引き出したりしております。
思いのほか面白かったのが、大阪にある「レトロ印刷」なる印刷会社の探訪レポート。多様性を会社の理念としながら、あえて味わいの出る孔版印刷(プリントゴッコのように版に穴を開けてインクを押し出す技法)にこだわる姿勢には、ビジネスの上でも示唆するものがあるように思いました。

とにかく本が好き、という純粋さと、子どものような好奇心を併せ持つHONZメンバーの活動自体が誠に魅力的なのですが、それは今や出版界全体にも影響を及ぼしつつあり、小説に比べて日が当たらなかったノンフィクションの底上げにも寄与しているといっていいでしょう。わたくしはそこに、様々な立場の人たちの自由な語り合いの中から、新たな文化や芸術を生み出してきた、良質なサロン文化を勝手に重ね合わせたりしています。
HONZの活動から、さらに面白いノンフィクション出版文化が盛り上がっていけばいいなあ、と期待するところ大、なのであります。


【関連オススメ本】

『ノンフィクションはこれを読め! HONZが選んだ150冊』
成毛眞編著、中央公論新社、2012年

HONZレビュー傑作選第1弾。『理系の子』『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』『ナチスのキッチン』『さいごの色街 飛田』などなど、読む気をそそる150冊のレビューを収録。HONZの基礎知識はまずこちらからどうぞ。


『面白い本』
成毛眞著、岩波書店(岩波新書)、2013年

HONZ代表の成毛さんが、これまで読んできたノンフィクションから、文字通り面白い本を100冊厳選して紹介した一冊。簡にして要を得た語り口が誠に魅力的で、こちらからも読んでみたくなるような本をいろいろと見つけることができるでしょう。