読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【閑古堂のきまぐれ名画座】「親切」と「仲間意識」の裏にある悪意を浮き彫りにしたカルト作『荒野の千鳥足』

2023-09-18 13:53:00 | 映画のお噂

『荒野の千鳥足』Wake in Fright(1971年 オーストラリア・アメリカ)
監督:テッド・コッチェフ
製作:ジョージ・ウィロビー
原作:ケネス・クック
脚本:エヴァン・ジョーンズ
撮影:ブライアン・ウェスト
音楽:ジョン・スコット
出演:ドナルド・プレザンス、ゲイリー・ボンド、チップス・ラファティ、ジャック・トンプソン
DVD発売元:キングレコード


クリスマス休暇を利用して、単身赴任先の田舎から恋人のいるシドニーへと向かっていた教師。その道中に立ち寄った町で、教師は町の住民たちから異様なまでの手厚いもてなしを受け、ビールを奢られまくる。やがて教師は、住民たちの娯楽であるギャンブルやカンガルー狩りにのめり込んでいき、転落への道をひた走っていく・・・。

『ランボー』(1982年)や『地獄の7人』(1983年)といったアクションものの印象が強いテッド・コッチェフ監督が、オーストラリアで撮りあげたカルト的作品であります。
カンヌ映画祭にも出品され、その後のオーストラリア映画界にも影響を与えた作品となったのですが、フィルムが行方不明となり、作品自体も忘れられた存在となっていました。その後、2004年になってアメリカでフィルムが発掘・修復され、巨匠マーティン・スコセッシ監督の推薦により、2009年にカンヌで「クラシック作品」として再上映されるという栄誉に浴しました。
どこかふざけた雰囲気の邦題からは想像もつかない、パワフルにして荒々しく、そしてどす黒い内容と映像には、けっこう圧倒されました。とりわけカンガルー狩りの場面は、本職のハンターによる実際の狩りの映像を巧みに編集したものとはいえ、けっこう刺激が強いものとなっておりました。
町の住民たち(町の名前が「ヤバ」というのが、作品の内容ともピッタリ合っていて笑えましたが)が教師に向ける、押し付けがましいまでの「親切」や「仲間意識」と裏腹にある悪意、そしてそれに否応なく飲み込まれていく教師の姿を通して、人間の闇の部分を浮き彫りにしていく本作のテーマと内容は、なにやら示唆的なものに感じられてなりませんでした。

なんといっても見ものなのが、『007は二度死ぬ』(1967年)や『ハロウィン』(1978年)で知られる、ドナルド・プレザンスの怪演ぶり。得体の知れない医者役で強烈な存在感を見せつけるプレザンスは、逆立ちしているところにビールを流し込まれるわ、椅子を振り回して大暴れするわ、挙げ句の果てにはコインを目に貼り付けるわと、よくぞここまでやったよなあ、と感心しきりでありました。また、腹に一物も二物もありそうな警察官を演じたオーストラリア人俳優、チップス・ラファティ(本作が遺作となったとか)も、印象に残る演技を見せてくれております。
そして本作で強く印象に残るのが、登場人物たちがやたらとビールをあおり、飲みまくる場面。それがまた映画の至るところに出てくるもんだから、観ているこちらもしきりに、ビールが飲みたくなってきて仕方なくなったのでありました。

けっこうクセのある内容と作風ゆえ、観る人によっては好悪が分かれそうではありますが、個人的には「観ておいて良かったかも」と思えた一本でございました。