読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【雑誌閲読】『月刊たくさんのふしぎ』2016年3月号「家をせおって歩く」

2016-03-06 16:41:38 | 雑誌のお噂

『月刊たくさんのふしぎ』2016年3月号「家をせおって歩く」
村上慧著、福音館書店、2016年


いや~~、これはマジでやられたわ。面白すぎる!

『こどものとも』シリーズをはじめとした、福音館書店から出ている月刊絵本雑誌の数々。その中の一つが、『たくさんのふしぎ』です。
先月(3月)に発売されていた、その『たくさんのふしぎ』3月号がやたら面白い!と熱っぽく教えてくれたのは、わが勤務先である書店の同僚でした。なんでも、作者であるアーティスト、村上慧さんを取り上げたラジオ番組もあったんだとか。それを聞いたわたしは、ふーん、と軽い気持ちでパラ読みしてみました。
村上さんが、発泡スチロールなどで自作した一人用の「家」をかついで、東京から東北各県を回り、日本海側から関西を経由してフェリーで九州に渡り、大分県やわが宮崎県にまで至る・・・という、2014年4月から1年間にわたった旅のことを、写真とイラストで綴っていくという内容でした。むむむ、確かにコレはかなり面白そうじゃないか!ということで即買いし、帰宅して晩酌かたがた読みました。じっくり読んでみると、パラ読みしたときに感じた以上の圧倒的に面白い内容で、すっかり引き込まれました。
小さな「家」を背負って各地を回るという行動自体も実に面白いのですが、何より面白かったのは、「家」の構造から持ち物、「家」を据える場所を確保する過程、食事、睡眠などなど、「家」とともに歩く旅(村上さんいわく「移住」)のディテールが事細かに伝えられているところでした。

発泡スチロールをベースに、骨組みとなる角材などで組み立てられた「家」には、郵便受けつきのドアや窓があり、屋根には瓦が乗っかっていたりしていて、小さいながらもなかなか本格的なつくりです。中で寝ることができるよう、マットと寝袋も据え付けられています。
とはいえ、好き勝手な場所に「家」を置いて寝るわけにはいきません。お寺や神社、お店などを訪ねては、土地の一部を借りて「家」を置いていいかどうか交渉します。もちろん断られることもありますが、どの町にも協力してくれる人がいて、中には「我が家へ立ち寄りませんか?」とメールで連絡してくれた人もいたのだとか。
場所を確保することができたら、トイレを借りることができる場所やお風呂(銭湯)の場所を描き込んだ「間取り図」をつくります。その場所がある町全体を大きな「家」と考える、というわけなのです。
本書には、1年間に「家」を置くことができた場所180カ所の写真が(写真を撮り忘れた1カ所を除き)ズラリと掲載されております。民家の庭やカーポート、集合住宅の階段の下、お寺の本堂の一角などなど。そうかと思えば橋の下や、周りに何もない空き地のような場所にぽつんと置かれていたり・・・といろんな場所があって、1カ所1カ所の写真を実に面白く見ることができました。

食事は基本的に、コンビニで調達したカップラーメンや飲料ですが、道ばたで農家の人から野菜や果物をもらったり、土地を貸してくれた人が食事に呼んでくれたりすることもあったそうで、その一部も写真で紹介されています。
そこにはのっけから、わたしの地元である宮崎県宮崎市の家庭での食事も出ていて、食卓の上には宮崎発祥のチキン南蛮と、南九州で食べられている「ガネ」とよばれるサツマイモとニンジンのかき揚げが。いかにも宮崎って感じの取り合わせで嬉しいですな。また、大阪の家庭でご馳走になったという、たこ焼き器で作るアヒージョも面白かったなあ。
ほかにも、接近してきた台風から「家」を守ったという話や、神戸から大分へ渡るフェリーでは「家」は手荷物扱いとなり追加料金は要らない、と言われたという話・・・など、綴られている内容にいちいち「ほほ~~」と感心したり、はたまた大笑いさせられたりして、読んでいてまことに楽しかったですね。

各地を移動し、「家」を置くための土地を借りる交渉を重ねる過程で、村上さんは地域の中に入り込んで、普段は知り合えない人たちと出会うことになります。
大阪で出会ったのは、村上さんの活動に刺激を受けて、自分が背負えるような「家」をこしらえたという小学2年生の男の子。まだその中で寝たことがない、という男の子に、村上さんは一晩その中で寝てみることを勧めます。
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大船渡市越喜来(おきらい)では、派手な外観の建物に出くわします。津波で流されてしまった家の柱や梁、窓、小学校の非常階段などで組み立てられ、滑り台やブランコを備えたこの建物。それは津波で遊ぶ場を失ってしまった子どもたちのために、地元で建設業を営む男性が自力で作り上げたものでした・・・。
そんな、旅先で出会った人々とのエピソードも、また実に印象的であります。

勤務先が福音館書店の特約店ということもあり、これまで商品としては馴染み深いものではあった月刊絵本雑誌。ですが、中身をちゃんとチェックしていたわけでもなかったので、この『たくさんのふしぎ』もまったくノーマークでした。
それだけに、こんな面白い題材を取り上げていたこともまったく知りませんでした。いやほんと、やられましたわ。これは子ども以上に、オトナが面白く楽しめる内容だと思いました。
これからしっかりチェックしとかなきゃいかんなあ、『たくさんのふしぎ』。ちなみに、発売されたばかりの4月号の題材は「昆虫の体重測定」。これもなんか面白そうだなあ。