読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(前半)

2014-04-13 11:43:05 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
1「調べよう!世界の本屋さん」
2「調べよう!日本の本屋さん」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2013年


「教育の宝庫」という視点から本屋という場所を捉え、その歴史や活用法を子どもたちに向けて解説していくというシリーズが、『本屋さんのすべてがわかる本』。昨年11月に刊行が始まり、今年の2月で全4巻が完結しました。
子ども向けのシリーズ、しかも30ページほどで一冊2000円(本体価格)ということで、最初は買うことを躊躇っておりました。ですが、やはりちょっと見てみようかなと思いつつ第1巻を購入してみたところ、想像していた以上に充実した内容で驚かされました。
オールカラーで収録された豊富な写真や図版に加え、盛り込まれたトピックも「えっ?こんなことまで!」と言いたくなるくらい多岐にわたっておりました。書店づとめが20年近くになるわたくしですが、恥ずかしながら初めて知ったこともけっこうありました。
そんなわけで、これは続巻もすべて購入しておかねば!ということになり、今月初めに全巻が手元に揃えました。通読してみてあらためて、その内容の充実ぶりに満足した次第です。
子どもはもちろん、大人にも役に立つところが多いこのシリーズを、2回にわけてご紹介したいと思います。まずは前半の2冊を。

第1巻は「調べよう!世界の本屋さん」。まず、紀元前の古代ギリシャ時代に始まったという本の売り買いから、欧米で近代的な本屋のしくみが確立されるまでの歴史が綴られます。
詩人や演説家による演説が書きとめられ、その写しを販売することから始まった本の売り買い。やがて、印刷技術の発明と発達によって、「本屋」の基礎が出来上がっていきました。そして19世紀になって印刷・出版と問屋、小売の分業が進んでいき、今に至る出版流通のしくみが確立した、というわけです。
現在、出版流通において大きな役割を果たしている、全世界共通のISBNコード(国際標準図書番号。本の裏表紙にバーコードとともに記されている、あの番号のことです)。これを発明したのが、世界初となる本屋のチェーン店でもある、イギリスの「W・H・スミス」であることを初めて知りました。ここでは、ISBNコードの数字が持つ意味としくみも詳しく解説されています。

続いて、ヨーロッパやオセアニア、イスラム圏、アジアの主要な国々の代表的な本屋が、豊富な写真によって紹介されていきます。
2008年にイギリスのガーディアン紙によって選出された「世界の本屋さんトップ10」。1位となったイギリス「ハッチャーズ」に続いて2位となった、オランダの「セレクシス・ドミニカネン」は、ゴシック建築の教会を修復して生まれた本屋さん。その外観といい内部といい、実に重厚でいい感じで、これはなんだか行ってみたくなりました。
ちなみに10位には、日本から恵文社一乗寺店(京都)が選ばれております。ここも魅力的なところのようですね。

各地の本屋さんを紹介した写真と文章からは、それぞれのお国柄もちょっと見えてきそうで楽しいものがありました。
とりわけ印象的だったのが、「古本の村」として知られているという、ベルギーのルデュ村の話でした。
人口がわずか20人にまで減ってしまい、地図からも消えようとしていたルデュ村でしたが、古本の収集が趣味という実業家がこの地に古本店を開業。さらに「古本祭り」を開催したことがきっかけとなって、空き家を改装してさまざまなジャンルの古本専門店が50店以上もできていき、今ではヨーロッパ中から人びとが押し寄せているのだとか。この話、もっと詳細を知りたいなあ。
「『一党独裁国家』の本屋さん」という項目もあり、ここでは中国や北朝鮮の本屋を紹介。中国でもネット書店の伸長により、本屋の倒産が相次いでいるとか。また、秦の始皇帝やナチスなどによる「焚書」や、エジプトとイギリスで起こった本屋の放火といった、時の権力者に都合の悪い本が焼かれてしまう事例についても言及されています。

第2巻は「調べよう!日本の本屋さん」。この巻では、日本における出版活動と本屋の歴史が語られていきます。
鎌倉時代から室町時代にかけて、寺院により行われた仏教書の開版(出版)から始まった日本の出版活動は、江戸時代に入って寺院が多かった京都を中心にして発展していきました。
この頃誕生した本屋さんには、現在でも販売や出版を手がけている老舗がいくつか存在します。現存する最古の本屋である永田文昌堂や、仏教書の出版でもよく知られている法藏館などがそうです。法藏館にある、江戸時代当時の版木の保管室も写真で紹介されていて驚きました。昔の版木をまだ保管していたとは!
やがて、徳川家康による学問の奨励により本屋と出版活動はますます盛んとなっていき、その中心は京都から江戸へと移っていきました。
そして、明治の文明開化による学習意欲の高まりを背景にして、さらに出版活動は盛んとなり、今も営業を続けている本屋や出版社が次々と誕生。印刷・出版と小売の仲立ちをする取次(問屋)も設立され、現在の出版流通システムが確立されていったのです。

本巻では、日本最古の書物『法華義疏』(ほっけぎしょ)をはじめとした古文書も、数多く写真で紹介されています。
中でも、漢詩をつくる際の参考書として寺院から開版された『聚分韻略』(しゅうぶんいんりゃく)や、江戸末期に「日本の活版印刷の父」こと本木昌造によって印刷・出版された、商人のための英会話表現集『和英商賈(しょうこ)対話集』などは、存在自体を知りませんでしたので大変興味深いものがありました。
初めて知ったことといえば、日本で最大の教科書出版元・東京書籍や、アンパンマンの版元として有名なフレーベル館は、印刷大手の凸版印刷のグループ会社であることも本巻で知りました。もしかしたら、ギョーカイでは常識に類することなのかもしれないのですが•••(汗)。

他には、本がまだまだ高価だった時代に、庶民へ読書を広める役割を果たした貸本屋のことや、神田神保町の古本屋街の成り立ちについても言及されています。
また、現在の出版流通システムを支えている「委託販売制度」(新刊本を預かって販売し、売れなかった本は返品できる販売制度)と「定価販売制度」(新刊本は全国どこの本屋でも同じ定価で売らなければならないという制度。「再販制度」ともよばれる)についても解説されていて、その長所と短所も挙げられております。

2冊を通読すると、知ってるつもりだったけれども実はよくわかっていなかった、ということがたくさんあって、ギョーカイの端くれにいるわたくしにとっても、大変勉強になりました。
まして、ギョーカイの外におられる皆さんにとっては、収められている写真を見るだけでも、けっこう興味深く面白いものがあるのではないかと思います。

後半の2冊は第3巻「見てみよう!本屋さんの仕事」と第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」ですが、この2冊については次回ご紹介させていただくことにいたします。