ヘリコプター救助活動を行う場合、着陸場が露出地面がい多いと、ヘリコプターのダウンウオッシュで砂塵んを巻き上げて危険になります。このため、路面の状態に応じて散水してこれを防止するわけですが、この時活躍するのが、地元消防団の方々が行う散水です。写真(NEA AVN Gp提供)はその瞬間を見事にとらえています。かつて阪神淡路大震災の際に、着陸場の周辺にテントを張って避難していた方のテントが着陸寸前のヘリコプターの風圧で飛ばされそうになり、危険を感じたことがありました。その後のヘリコプタ災害救助活動では、その教訓が生かされて、地元消防団の皆様の力などで、周辺の飛散物の除去・安全確認と、砂塵防止のための散水が行われるようになっています。やはりここでも「Joint Operation」が大切であることがわかりますね。関係機関の航空部隊などから、「消防団のみなさんありがとう!」という声が聞こえそうです。
6月15日の夕方堰止湖の排水などのために緊急に空輸される重機です。重量は約4tあるようですが、陸上自衛隊の大型ヘリコプターCH-47はこのような重機を空輸することができます。しかし空輸する隊員は、事前の準備に万全を期します。空輸に際して最も大切なことは、重機の重心がどこにあるのかを承知して、空輸間の風圧も考慮して、どこの部位につり上げ用フックを掛ければ安定するのかを判断することです。そのために隊員は、何回も地上のクレーン車でつり上げてみてその位置を決めます。もしそれを怠ると、ヘリコプターで吊り上げても、空中で揺れたり、回転してしまい、結局は空輸困難になります。最悪の場合は、航空機そのものがダッチロールの状態に陥り、重機を中途で投下する等の緊急処置をせざるを得ない場合がありますから、急いで時間が少ない中でも慎重に冷静にこの準備作業を行わなければなりません。このような作業をしっかり行うからこそ、堰止湖の排水も可能であったわけですね。防災関係者も、空輸可能な重機は何か、その重心位置はどこか、つり上げ用のフックはどれを使用するのか・・・など、事前に準備できることを自衛隊などとの訓練を通じて確認しておくことが重要です。写真(NEA AVN Gp提供)は、15日19時過ぎ(日没の頃)に堰止湖に向かうCH-47です。間に合ってよかった・・、空輸後隊員が日頃の厳しい訓練をしてきたことに誇りを感ずる瞬間です。
道路途絶などで孤立した住民のヘリコプター救助活動は、夜も行われていました。夜間のヘリコプター救助活動は、相当訓練を積み重ねておかないと、危険なこともあり、自衛隊が主として担当していたようです。写真(NEA AVN Gp提供)はUH-1で空輸した際のものです。夜間の空中からの捜索活動(偵察)については、陸上自衛隊第二対戦車ヘリコプター隊が24時間体制で飛行し捜索していました。もちろん、警察や、消防防災のヘリコプターも昼間の捜索活動は地域を分けるなど相互に緊密に連携して行われていました。夜間の捜索活動は、超低空をホバリングする程度の速度で、NVG(夜間暗視装置)を使用して飛行し、赤外線を照射しながらFLIR(赤外線暗視装置)で、熱源の存在を確認する手法で生存者などを捜索するもので十分な訓練をしていなければ、危険ですからその行動を映像で記録することさえ困難なため、多くの人には知られていません。今回の地震に際しても、陸上自衛隊東北方面航空隊はすぐに八戸からOH-1*2機とAH-1S*4機を行動させ、ヘリコプタや要員を交代させながら、14日から17日までの4日間昼夜連続の偵察を行っていました。孤立した集落での人員捜索や、乗り捨てられた車の中や周辺の捜索を行い重要な情報を提供していたようです。細部は伺えませんでしたが、NVGやFLIRを使用した偵察活動は、大変有効で成果も期待できるようです。しかしながら、連続して運用するには、日頃からの厳しい訓練で、スキルレベルの高い要員を確保しておくことと、操縦・整備・通信・航空管制要員などそれぞれの特技者の充足を高くして交代要員を確保しておくことが極めて重要であると感じました。災害初動における捜索活動は、それに引き続く救助活動と連携して、寸秒の時間を競って懸命に行われますので、今回の教訓を今後も活かして欲しいと思います。14日の発災当日から17日頃までの初動における捜索救助段階でOH-1,AH-1S両方で約15時間程度(時間は概略の数値)の夜間飛行任務を行ったようです。真夜中も地面すれすれのところを命がけで飛行して捜索・救助していた自衛隊の皆さんに改めて感謝。
毎日のように報道された「駒の湯温泉」の捜索救助活動は、泥流で地盤が悪いためなかなか救助活動が難航したようです。写真のような排水ポンプをヘリコプターで緊急空輸して水分を除きつつ、今も懸命の救助活動が続けられています。埋め立て地や、海岸周辺の砂地などで多発する液状化現象が起きた場合などもこの手法を使って排水して救助活動を行うことも多いですね。液状化現象が起きた場合の対処、泥流に伴う被災地での対処の参考になると思い掲載しました。また、大切なことは、このようなポンプを誰が管理して、どこに保管されているのかをしっかり把握できるデータシステムを持ち、機材の重量や容積、設置するための器材とチームとしての所要人員などの概要を承知しておれば、すぐにヘリコプターなどの手配ができるわけです。防災訓練でもこのような実際に行われたオペレーションの教訓を生かし、データの蓄積をするとともに、訓練を重ねておくことも重要ですね。写真は陸上自衛隊東北方面航空隊から提供いただきました。
岩手・宮城内陸地震災害でヘリコプター運用の中核を担っている陸上自衛隊東北方面航空隊を訪問してきました。現在も災害派遣は継続中であることから、昼休みの時間帯に航空隊長斎藤1佐にお目にかかり、貴重なお話を伺うことができました。隊員一人一人の不眠不休の熱意ある行動を語る航空隊長の目には自信が溢れていました。また、昼夜連続して救助活動を安全確実に実施するには、日頃の厳しい訓練が大切であることを付け加えることも忘れていませんでした。さらに今回のヘリコプターを中心とする救助活動は、関係機関の連携プレイが良かったとの評価が多いが・・と伺うと、関係各機関が参加する「宮城県ヘリコプター運用調整会議」などを通じて日頃から各機関が連携プレイを訓練した成果であるときっぱり。陸上自衛隊が災害地域周辺空域の低高度で救助活動をする航空機の飛行情報などを提供する旨の告知もこの会議の名前で関係各機関宛てに発出されており、これも今回安全かつ迅速に救助活動が行われている重要な要因になっている旨の発言がありました。(宮城県ヘリコプター運用調整会議についての細部内容は次のURLを見ると出ています。http://www.pref.miyagi.jp/kikitaisaku/torikumi/tiikibousai/pdf/3-09.pdf)
関係機関が日頃から大規模災害などの危機に際しての連携要領を定めて訓練をしているからこそ、今回のような災害に際しても迅速かつ効果的な活動ができると思います。まさに各機関の「Joint Operation」を行うための基盤ができていたわけです。写真(陸上自衛隊東北方面航空隊提供)は、宮城県防災関係者が陸上自衛隊の航空機の着陸誘導をしているところですが、これも日頃から訓練して信頼関係がなければなかなかできないことです。
あらゆる危機に際して事前の行動規範などを定める基準などの準備と訓練が重要なことを物静かに強調される航空隊長に改めて感服しました。
関係機関が日頃から大規模災害などの危機に際しての連携要領を定めて訓練をしているからこそ、今回のような災害に際しても迅速かつ効果的な活動ができると思います。まさに各機関の「Joint Operation」を行うための基盤ができていたわけです。写真(陸上自衛隊東北方面航空隊提供)は、宮城県防災関係者が陸上自衛隊の航空機の着陸誘導をしているところですが、これも日頃から訓練して信頼関係がなければなかなかできないことです。
あらゆる危機に際して事前の行動規範などを定める基準などの準備と訓練が重要なことを物静かに強調される航空隊長に改めて感服しました。
写真は新潟県中越地震の際に陸上自衛隊のCH-47で被災者を空輸した際のもの(陸上自衛隊提供)です。中山間地で発生した災害においては、学校の校庭など十分な広さの着陸場が確保できる場合は、大型ヘリによる被災者の同時大量の空輸が効果をあげます。もちろん、小さい集落が分散している今回の岩手・宮城内陸地震ような場合は狭い着陸場しかないところも多く、初動では、中型ヘリコプターも多用されました。それぞれのヘリコプターの大きさに応ずる着陸場の広さの目安は、「ヘリコプター災害救助活動」(内外出版)に書いてあります。従って、中山間地の地震災害などでの道路など地上ルートの寸断が懸念される地域では、予め防災計画に救助用のヘリポートを集落ごとに設置しておくことが極めて重要です。今後岩手・宮城内陸地震の教訓を活かして、今後各自治体などで集会所や公民館などの近傍に適切な広さの着陸場の準備が推進されることを願っています。また、阪神淡路大震災の場合は、ライフラインなどが回復するまでの約2週間にこの大型機で空港などから大量の救助物資(水・食糧・生活必需品など)を約900t空輸し、中・小型ヘリコプターがこれを小口に分けて小さな町のヘリポートへ直接空輸しました。孤立しやすい中山間地でも同様のことが重要であり、ヘリコプターなど空からの救助活動が迅速かつ効率的に可能なように、整備しておきたいものです。
地震災害による地滑りの状況などの調査に有効な装置の一つが、熱映像装置である。阪神淡路大地震では、当時導入されて、試験中であったOH-6用のFLIRが夜間の余震によるパニック防止のために、災害で初めて運用され、成果があった。その後新潟県中越地震における夜間偵察でもUH-1JやUH-60JAに搭載してあるFLIRを活用して、上越新幹線の脱線の模様など被害状況を撮影している。赤外線暗視装置は、被災地の状況を微小の温度差によって感知するもので、地滑りや、堰止湖の水位の変化、亀裂の調査などには有効である。陸上自衛隊の各種ヘリコプター(OH-6,OH-1,AH-1S,UH-1,UH-60,CH-47、AH-64D)の全機または一部に搭載されており、その能力を活用されることを願っている。阪神淡路大震災や新潟県中越地震の教訓から、各関係機関も赤外線暗視装置を保有するようになっているが、画像をしっかり分析して判読することが重要であるので、地滑りなどの専門家とともに解析し、運用することが重要である。
岩手・宮城内陸地震の初動救助活動は省庁を越えて迅速に開始され、今も救助活動も懸命に続けられている。しかしながら今後は、ライフライン、河川やダム周辺の危険箇所の復旧や、修復が焦点となろう。梅雨の時期の災害であり、地滑りによる堰止湖などの増水による二次災害も危惧されていることから、無人機の運用は欠かせないだろうと考えている。自衛隊をはじめ、気象庁や国土交通省はすでに無人機システムを保有し運用している。それぞれ保有する機材に能力の差はあるが、継続監視が必要で、他に手段が無いような危険な場所での無人機の運用は今後検討されなければならないだろう。三宅島の噴火活動では、気象庁が噴火口の調査のためにRPH2を使用した。また、最近の北海道でのがけ崩れ災害の調査でもRMAXを使用している。有人機や、固定カメラなどを運用するのはもちろんであるが、無人機による監視活動もこれと連携させて、死角となる場所や、接近が危険な場所の状況を把握し、2次災害の防止・被害の極限に活用されることを望んでいる。写真は陸上自衛隊が保有する遠隔操縦観測システム(FFOS)で、自動操縦で比較的長距離の監視活動が可能であると考えられる。各省庁が保有する能力を最大限に活用してこれら無人機も運用し、防災・減災に活用して欲しいものである。この際、安全確保上最も大切なことは、有人機の局地的な航空管制を担任する部隊への無人機の飛行計画の通報などであり、運用に当たっては有人機及び、地上作業チームとの常時通信連絡の確保(確保できない場合は有人機の飛行禁止区域などを設定)等の処置が実行されることが大切である。
岩手・宮城内陸地震でのヘリコプターを多用する山間地での孤立集落の救援活動が各関係機関の総力をあげて続けられている。幸いにして今のところ天候が良好で活動は順調のようである。今後は、救助活動を継続しつつ、ライフラインの復旧や、土砂崩れによる堰止湖、河川・ダムなどの復旧・修復が焦点になろう。中山間地で、道路交通網は完全に遮断されており、ヘリコプター以外に手段がない場所も多い。しかも時あたかも梅雨の時期に入ろうとしている。作業は時間と天候との戦いであり、夜間・天候不良の下でも継続してヘリコプターなどの運航が出来る体制の整備は急がなければならない。夜間・悪視程時などの運航を可能にするには、天候良好な時期に、谷間に張られている高圧線や索道などの線状障害物をしっかり確認しておくとともに、各種勤務員の交代勤務体制の整備、レーダーや航空管制装置の設置運用、緊急着陸場の確保などの運航環境の整備をするとともに、当該地域に適合する飛行要領などを創造・決定し、一元的にルール化して関係機関がそれを守って運航することが安全確保のために欠かせない。(首都直下型地震に対する安全対策については2008年3月に内閣府からその考え方が示されている。)さらに国としては、現在国土交通省などで検討されているGPSを利用する航法についてのルール化を急ぎ、災害時に臨時に設置する場外離着陸場などでもIFRの手法を活用した救助活動が行われるようにする等、夜間・悪天候に於いても最小限の救助活動が実施できる体制を整備したいものである。今回の地震を教訓に、中山間地でのヘリコプター救助活動を安全かつ効果的に24時間実施可能なように体制整備を加速する必要があると考える。国や自治体は、財政事情は苦しくても、このような国民の生命財産の保護のために必要な体制整備には万全を尽くす必要がある。災害の教訓は熱いうちに具体化されない限り、その本質を失いかねないことも多いので、心すべきことである。
平成20年6月14日午前8時43分頃、岩手県内陸南部を震源とするM7.2の強い地震『岩手・宮城内陸地震』が発生した。自衛隊・海上保安庁・消防防災・警察等各防災関連機関は地震発生直後から迅速に行動して山間地特有の孤立した地域での救助活動を、ヘリコプターを活用して行い成果を上げている模様である。わが国は国土の70%が山間地であり、このような救助活動のための備えは欠かせない。ヘリコプターも大型だけでなく、中型小型なども中山間地の救助活動では重要であることを知る必要がある。狭い山間の道路などに着陸できるのは、中型機以下で可能であることが多いからである。新潟県中越地震、中越沖地震などの教訓が活かされて、各機関の壁を乗り越えて、組織的かつ迅速に行動できるようになっていることを頼もしく思う一人である。このような中山間地域での情報収集に欠かせないのが、ヘリコプターとオートバイ・車両など地上部隊の機動力を組み合わせて運用することであろう。写真は山形で撮影した自衛隊の航空部隊と偵察部隊のオートバイの連携運用の訓練の一コマである。今回のような典型的内陸型地震において、日頃から厳しい訓練を行う各防災関連機関は、山間地での空地の機動力の連携運用を積極的に行って一人でも多くの市民を救助していただきたいものである。