ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ホリー・マザー (Holy Mother)

2008年05月24日 | 名曲


 誰しも辛い時はあるものだし、あっさり負けたくはないですよね。
 我慢しようとします。耐えようとします。
 自力でその辛さを乗り越えようとしたり、自分なんて本当に辛い思いをしている人から見るとたいしたことはないんだ、と己を責める。
 そして落ち込み、疲れ果ててしまいます。それでもなんとか這い上がろうとする。
 でも、精神的に追い詰められ、絶望した時は、ただただ楽になりたいと思うでしょう。
 自分の気持ちを、例えば神様(もし居るならば)に委ねたいと思うでしょう。


 「ホリー・マザー」はそんな気持ちをわかってくれる曲です。
 エリックが、旧友のギタリスト、スティーヴン・ビショップと共作した、ゴスペル色の強い、渋いバラードです。


     

        
 この曲を初めて聴いた時は、ぼくもいろいろと問題を抱えている時でした。
 自分の思いといろいろなものがオーバーラップして、思わず目頭が熱くなるような気がしました。


 クリアーなトーンの、静かで美しいアルペジオは、まるで祈りのようです。
 バックの演奏は、シンプル。そして温かい。文字通り「一体となって」エリックを支えています。
 低音で優しくうねるベースは、サウンドのゆるぎない礎と言っていいかもしれません。
 エリックのとつとつとしたボーカルもそうだけれど、まさに人生の辛さから解放されたいと願っているようなギター・ソロにも胸を打たれます。


             

 この曲の感動的な歌詞は、エリックの母をイメージして書かれたと言われています。
 エリックと、幼い彼を置いて家を出て再婚した実母との哀しい関係はよく知られていますが、その事実を踏まえて訳詞を読んでみると、胸がいっぱいになります。


 『オーガスト』が発表されたのは1986年ですが、その年の3月4日、交流の深かった「ザ・バンド」の名キーボード奏者、リチャード・マニュエルが自殺を遂げました。
 リチャードはピアニスト、オルガニストとしてだけではなく、「悲しみを帯びている」と称賛された歌声、リリシズムあふれる作風、そして穏やかな性格で仲間から親しまれていました。しかしいつしか酒とドラッグに溺れ、最期は精神的にも蝕まれていたといいます。
 『ホーリー・マザー』は、とくにリチャードに捧げられています。


     


 バックのメンバーについて少しだけ付け加えると、
 キーボードを担当しているG.フィリンゲインズはクラプトン・バンドやTOTOの一員で、「ウィ・アー・ザ・ワールド」のレコーディングにも参加しています。
 ベースのN.イーストもクラプトン・バンドや「フォープレイ」などのメンバーで、腕利きのセッション・マンとしても知られています。
 ドラムのP.コリンズは、「ジェネシス」のドラマー兼ヴォーカリストとして、あまりにも有名ですね。
 なおアルバム『オーガスト』には、ティナ・ターナー(vocal)、ゲイリー・ブルッカー(keyboard)、ランディ(trumpet)とマイケル(sax)のブレッカー兄弟などが参加しています。
 とくに、名曲「青い影」の作曲者として有名なゲイリー・ブルッカーの名前がクレジットされているのを見つけた時には懐かしさを感じましたね。



[歌 詞]
[大 意]
聖母よ どこにいらっしゃるのですか 今宵は胸が張り裂けそうなのです
空から星が落ちるのを見ました 聖母よ 涙がとまりません

あなたの助けが必要なのです この孤独な夜を乗り切るために
いったいどうしたら 見失った自分を取り戻せるのでしょう
 
聖母よ 私の祈りをお聞きください あなたの存在をはっきりと感じます
私の心に安らぎをもたらし この苦痛を取り除いてください

もう待ちきれない これ以上待てません
もう待ちきれない あなたが待ち遠しい

聖母よ 私の叫びをお聞きください あなたを罵ったことも数知れません
怒りが魂の中で荒れ狂っていました 私は救いの手を求めているのです

ついに終わりの時がきたようです もはや一歩も進めません
今宵 私はあなたの腕に抱かれます

もう指が動かない 声も出ない 私は消えてゆくのみ
聖母よ そして私は あなたの御許で安らかに横たわるのです



ホリー マザー(リチャード・マニュエルに捧ぐ)/Holy Mother(Dedicated To Richard Manuel)
 ■歌・演奏
   エリック・クラプトン/Eric Clapton 
 ■収録アルバム
   オーガスト/August  
 ■発表
   1986年11月24日
 ■作詞・作曲
   エリック・クラプトン、スティーヴン・ビショップ/Eric Clapton, Stephen Bishop 
 ■プロデュース
   エリック・クラプトン、フィル・コリンズ、トム・ダウド/Eric Clapton, Phil Collins, Tom Dowd
 ■録音メンバー
   エリック・クラプトン/Eric Clapton (guitar, lead-vocal)
   グレッグ・フィリンゲインズ/Greg Phillinganes (keyboards, backing-vocal)
   ラリー・ウィリアムズ/Larry Williams (synthesizar-programming)
   ネイサン・イースト/Nathan East (bass)
   フィル・コリンズ/Phil Collins (drums, percussion, backing-vocal)
   ケイティー・キッスーン/Katie Kissoon (backing-vocal)
   テッサ・ナイルズ/Tessa Niles (backing-vocal)


 『ホリー・マザー』 エリック・クラプトン&フレンズ  
  Live in Birmingham(July 1986)
  ・Eric Clapton (guitar, vocal)
  ・Nathan East(bass)
  ・Greg Phillinganes(keyboards)
  ・Phil Collins(drums)



コメント (12)
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