ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

スティーヴ・ルカサー (Steve Lukather)

2008年05月07日 | ミュージシャン
 

 今ではあまり耳にすることがなくなりましたが、1970年代の終わり頃までは、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジを「3大ギタリスト」と呼んで、特別視する傾向がありました。
 よく考えると、この3人の共通点って、①ブリティッシュ・ロックのギタリストで、②ブルースに根ざした白人ギタリストで、③3人とも「ヤードバース」というグループに在籍したことがある、という幅の狭いものでしかなかったんです。


 冷静に考えると、その時代のギタリストではリッチー・ブラックモアやポール・コソフなどが抜けてるし、アメリカに目を向けると、カルロス・サンタナとか、デュエイン・オールマン、マイク・ブルームフィールドなど、名手と言われる人は他にもたくさんいたんですけれどね。


 「3大ギタリスト」の概念が薄れてゆくのは1970年代も後半になり、ポピュラー音楽界に「フュージョン」のブームが到来したことがきっかけではないでしょうか。
 ぼくもそうでしたが、周りのロック好きの友人やギタリストたちを思い出しても、「ギタリストとしてすごいと思える人」の枠が、1980年代からはぐっと広がったような気がします。
 さらに「3大ギタリスト以外にもすごいロック・ギタリストがいる」ことをぼくらに知らしめることになったのが、エドワード・ヴァン・ヘイレンと、スティーヴ・ルカサーの出現でした。


     
     1988年頃のステイーヴ・ルカサー


 スティーヴは1957年生まれですから、今年51歳。ハンサムだった若かりし頃からややポッチャリした顔をしてましたが、今では体つきまですっかりカンロク充分です。
 スティーヴは、10代の頃からロサンゼルスを中心にスタジオ・マンとして活動していて、すでに20歳になるまでに、西海岸でも有数のギタリストという評価を得ていたようです。
 ちなみに、その頃から現在まで、ジョージ・ベンソン、EW&F、マイケル・ジャクソン、ホール&オーツ、ダイアナ・ロス、ジョニ・ミッチェル、ポール・マッカートニー、リチャード・マークス、ライオネル・リッチー、エリック・クラプトンなどなど、数多くの大スターたちのアルバム録音に参加しています。
 これだけ見ても、いかに信頼されていたかが分かりますね。


 77年には、ジェフ・ポーカロやデヴィッド・ペイチらとTOTOを結成、翌78年にデビュー・アルバムを発表しました。そして、アルバム「TOTO Ⅳ」の大成功でバンドは世界的な成功を手にし、今に至っているというわけです。 
 最近ではラリー・カールトンやエドガー・ウィンターなどとコラボレートしたり、「Doves Of Fire」や「El Grupo」などのバンドでも活動しています。


 スティーヴが非常に高度なテクニックを持っていることは言うまでもありませんが、素晴らしいと思うのは、テクニックに溺れることがまずないということです。
 ぼくの好きなアルバムの中に、グレッグ・マティソン・プロジェクトの「ベイクド・ポテト・スーパー・ライヴ」という、よりポップなインストゥルメンタル・ハード・ロック、といった雰囲気の作品があります。このアルバムに参加しているスティーヴは思う存分ギターを弾きまくっている印象が強いのですが、よく聴いてみると、バックに回った時はバックに徹しているし、ギター・ソロの時でも速弾きの連発に終わることなく、メリハリのついた、起伏に富んだプレイを聴かせてくれます。
 もちろん、TOTOでのプレイも、とてもツボを心得たものだと思います。
 


     
     『ベイクド・ポテト・スーパー・ライヴ!』 (1982年)
      ☆グレッグ・マティソン(keyb)
      ☆スティーヴ・ルカサー(g)
      ☆ロバート・ポップウェル(b)
      ☆ジェフ・ポーカロ(drs)


 スティーヴのギター・ワークはとても滑らかです。滑らかであるがゆえに、ハード・ロック・ギターにありがちなとげとげしさやバイオレンス感は薄いのですが、それでもワイルドさは失っていません。スペーシーな感覚の音色もいいですね。それに、ギター・ソロの構成力が見事だと思います。短いソロの中にもちゃんと物語の起承転結が感じられるんです。


 スティーヴは、ロックはもちろん、ジャズやブルースなど、あらゆるジャンルに対応できるギタリストです。そのギタリストとしての引き出しの多さは、豊富なスタジオ・ワークの経験からもきているのでしょうが、やはりそれ以前に自分の深い探究心によるものでしょうね。また彼のプレイは、単に「ギタリスト」の枠にとどまっているものではありません。スティーヴのスタンスは、あくまで「ミュージシャン」なんだと思います。
 素晴らしいテクニシャンであるにもかかわらず、テクニックを披露するためのプレイはまずしません。ギターを歌わせる、あるいは生きた音楽を作り出すことを最優先としているのでしょうね。


 ジャズ・ギタリストのリー・リトナーとはとても仲が良いのは有名です。そのリーと共演している映像(リー・リトナー&フレンズ)を見たことがあります。ジェフ・ベックの名作、「哀しみの恋人達」というバラードを演奏していました。 
 これがまた実に素晴らしい演奏でした。リラックスしている中にも張り詰めた緊張感が感じられるのがいいですね。そしてとても楽しそうにギターを弾いている。スティーヴの演奏にいかにハートがこもっているのかがよくわかる映像だと思いました。(下の動画がその映像です)


     
     TOTO『フォーリング・ビトゥイーン』 (2006年)


 スティーヴはTOTOの一員として先頃来日しました。このライヴを区切りに、TOTOとしての活動はひと段落つけるそうです。
 さて、次はどんなユニットでルカサーのギターが聴けるのでしょうか。




スティーヴ・ルカサー&リー・リトナー『哀しみの恋人達』


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コメント (10)
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