ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

さよならバードランド

2007年04月05日 | 見る聴く感じるその他
 
 1950~60年代にかけて、ニューヨークのジャズ・シーンで中堅どころのベーシストとして活躍したビル・クロウ氏による、自伝的交遊録です。
 ジャズに詳しい村上春樹氏の訳(新潮文庫)によるだけあって、温かみのあるテンポよい文章で綴られています。500ページ以上もある本ですが、楽しく一気に読み終えてしまうことができました。


 ビルはスタン・ゲッツ、ジェリー・マリガンらのレギュラー・ベーシストを務めた中堅どころのベーシストです。決してスター・プレーヤーではありませんが、頼りになる名バイ・プレーヤーでした。
 彼は60年代後半からは次第にジャズの現場から遠ざかることになりますが、その後はニューヨークのミュージシャン・ユニオンの代表として演奏家の権利保護のために活躍するかたわら、ジャズ評論にも手を染め、そのユーモアとウィットに富んだ文章で幅広い読者の人気を得ました。


 この本には、ゲッツ、マリガンをはじめとして、テリー・ギブス、マリアン・マクパートランド、ズート・シムズ、デューク・エリントン、ベニー・グッドマン、チャーリー・パーカー、サイモン&ガーファンクルなど数多くの名ジャズ・ミュージシャンとの交遊が描かれています。この本には彼らたちいろんな仲間と演奏できることや、ジャズという音楽を通じてひとつの時代を築き上げることの喜びに満ちていて、読んでいるこちらもとても楽しくなるのです。


 読んでいて感じるのは、ビルの人間に向ける目の温かさです。ジャズにありがちな破滅的な話はほとんど出てきませんが、その温かい目で、ジャズ界に生きる人々の暮らしを、時にはしんみりと、時には笑えるエピソードを交えながら、いきいきと魅力的に描いています。
 訳者の村上氏自身が深いジャズ・ファンなだけに、その文章はできるだけ原著の雰囲気に忠実であろうとし、かつ愛情をこめて翻訳しているのが伺えます。


 とくにジャズが好きでなくても読み通せる本だと思います。
 楽しく読めるうえに読後感もさわやかで、読み終えてから思わずジャズを聴きたくなります。
 この本が評判となったおかげで、ビルは70歳近くなってから本と同じタイトルの、初のリーダー・アルバムを発表することができました。

     
     ビル・クロウ・カルテット「さよならバードランド」



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