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黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』第三話・その2

2018-06-05 06:06:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 チャイムの音。タツオ、ベッドから玄関へ。「エツコ」。鍵を開ける。真壁が入って来る。「山際君、病気なんだって。どう具合は?」「いや」「大丈夫みたいじゃない」「ああ」「じゃ、出かけよう。次は恐怖だ。恐怖って奴が欲しい。案内してくれよ」。
 エツコ、急いで帰宅。“ちょっと出てくる。すぐ戻るから心配しないで”のメモ。呆然とするエツコ。“葉子、さっきはごめん。私、やっぱり相談相手が欲しい。会社で待ってる”とメールを送信。
 エツコの職場。現れたエツコに上司「ちょっと話していいかな」「はい」「こんな話、うかつにしゃべっても頭がおかしいって思われるだけだけど、でも誰かに伝えなきゃいけない。ひょっとして君なら」「話して下さい」。
 倉庫。上司「浅川君を差し出したのは私だ」「そうですか」「あんなひどいことになるなんて思ってなかった」「笠谷さん、ガイドですよね」「知ってたのか?」「ええ、その手。(中略)私の夫と同じです」「まさか君が?」「いえ、私は普通の人間です」「分かるよ。君にはちゃんとした人間の良さがある。旦那さんの苦しみもきっと理解できるだろう」「はい」「わたしゃね、誰でもいいから近くにいる気にいらない人間として、なぜか浅川君を選んでしまった。別に彼女を嫌いだった訳ではない。ただ彼女は会社で一番若い。だから、つい。私を馬鹿にしてるに違いないって思ったんだろう」「誰が笠谷さんを?」「妻だよ。妻が私をガイドにしている。前から頭が上がらなかった」「ガイドを辞めることはできないんでしょうか?」「分からない。ただわたしゃほとほと嫌になった。妻にはっきり言うつもりだ。こちらの意思を正直に伝えれば、案外簡単にこの悪夢を終わらせることができるかもしれない」「そしたら笠谷さんは?」「自由だ。地球がこの先どうなるか知らないけど、でも少なくとも最後の日まで私は自由でいられる……また明日話そう。君の旦那さんも強い意志さえ持てば、きっと自由になれる」。
 車の中。真壁「早く選んでくれよ」タツオ「待って。今決めるから」「僕は別に誰だって構わないだけど」「ひとつ聞いていいか?」「何?」「侵略っていつ始まるんだ?」「へへへへ、何だよ、それ」「やっぱり気になるじゃないか」「まもなくだよ」「何日後だ?」「さあね、決めるのは僕じゃないし」「じゃ、10年先ってこともありえるんだな」「それ知ってどうする? 何が変わる? たった今僕たちはこういうふうにうまくやれてる。それで充分だろ」。男、車の脇を通り過ぎる。タツオ「見てろ。麻酔剤だ」。タツオ、車から出て男の許に。「あっ、すいません。市役所まで行きたいんですけど、カーナビ壊れちゃって」。男、地図を見る。真壁、そばにやって来る。
 車のトランクを開けると、口と手足をテープで巻かれた男がもがいている。男を車から降ろし、森の中で穴を掘るタツオと真壁。真壁が男の口のテープを剥がすと男「何かの間違いだろ? 人違いだって。僕の財布に免許証が入ってるからさ。それをよく見て」「何を怯えてるんだ?」「え? あんたらにだよ! だから人違いなんだって!」「山際君、掘れた?」「ああ」。2人で男を穴の中へ運ぶ。男「おい、止めろよ! やめて、やめて」「今から君を埋める」「やめて下さい。お願いです。何でもしますから」「ああ、分かった。君は死が怖いんだ。死ぬことに怯えてる。そうだろ?」「これ、何かの冗談か! ハハハハハ」。また口にテープ。真壁「埋めて、早く」。2人で埋め始める。もがく男。「これが死ぬ恐怖か。押さえて。もらった」。男の額に指先を置く真壁。「もういい」「これ、死んだのか?」。タツオ、必死に埋める。
 トランクに座る2人。「そうだ。今日君の奥さんに会ったよ。エツコさん、あの人はすごいなあ。特別な人間だ。サンプルにすることにした」「サンプル?」「何人か生かしておく。前にも言ったろ?」「ああ聞いた」「よかったな。君の奥さんは助かるんだ」。歩き、立ち止まる真壁。その後頭部をスコップで殴るタツオ。真壁は失神。車で去るタツオ。
 自宅のエツコ。タツオ帰宅。「タツオ」。倒れ込むタツオ。「エツコ、終わりだ。俺は人を殺した」「え?」「いつかこうなると思ってた。でも引き返せなかった」「何があったの? 真壁さんと一緒?」「そうだ、真壁。奴はきっと来る。どうしよう」。頭を抱えて怯えるタツオ。「心配はない。あたしが守る」「エツコ」。抱きつくタツオ。エツコ「あの男の好きにはさせない」。(第四話に続きます……)

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