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谷崎潤一郎『神童』

2011-05-16 06:05:00 | ノンジャンル
 石井輝男監督・共同脚本の'75年作品『実録三億円強奪 時効成立』をスカパーの東映チャンネルで見ました。元同事件捜査本部キャップ・平塚八兵衛へのインタビューから始まり、実際の住所や時間が字幕で示されるなど実録風の作りでしたが、金子信雄の刑事の怪演が目立っていました。

 さて、谷崎潤一郎の1915年作品『神童』を読みました。
 木綿問屋の一番番頭の瀬川欽三郎を父に持つ春之助は幼少時から神童の名を思うままにし、学校の教師を驚嘆させるほどで、非常に生意気でしたが、高等二年で四書五経を読み始めてからは謹厳になり、哲学を志すようになります。将来は聖人になりたいという春之助は、奉公にやろうとする両親に秘して中学を受験し、それを知った校長は知人で春之助の父の主人でもある吉兵衛に頼んで、吉兵衛の息子で出来の悪い玄一の家庭教師を住み込みでやることを条件に、彼の学費を援助してもらうことになります。春之助は次第に傲慢になっていき、やがて玄一を虐め、殴るようになり、学校の授業も馬鹿にして聞かなくなるようになります。試験は教師の思い込みで首席を守りますが、それによって増々増長し、唯一彼に注意していた女中のお辰も女主人に叱責されたことで辞めてしまい、それもまた増長に拍車をかけることになります。玄一に対して碌な教授もしなかったにもかかわらず玄一が及第点を取ったことも、世の中が出鱈目で、自分は天才であるという春之助の考えを強化することになります。しかしやがて、主人夫婦は女中たちも含めて夜毎に宴会を催すようになり、彼はそれの走り使いをさせられているうちに、主人夫婦のところへ出入りする商人の面白おかしい生き方に惹かれるようになっていきます。次第に自分の容貌の醜さを気に病むようになると、それが肉体を軽んじてきたこれまでの結果と考えて後悔し、やがて顔中を面皰(にきび)で覆われてしまいます。授業中には居眠りするようになり、哲学書の内容も頭に入らなくなり、健忘症に悩まされ、それは夜毎の悪習慣のせいだと分かっていてもそれを止められず、演劇の俳優に憧れるようになっていくと、最後には聖人になるのを諦めて、詩と芸術に没頭するようになっていくのでした。
 聖人を志していた春之助が次第に世事に馴染み、堕落していく様子が丹念に描かれていて、面白く読ませてもらいました。人間のドロドロした部分を書かせると、谷崎の右に出る者はそういないと思います。隠れた秀作としてオススメです。
 
 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/^m-goto)

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