マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

自伐型林業

2016年04月28日 | ラ行
              
高知県四万十市の宮崎秞(ゆう)ちゃん(6)には欲しいものがある。ショベルカーだ。お父さんが最近使い始めた姿が格好良く、乗りたくなるのだという。

 お父さんは先週の「eco活プラス」で紹介した宮崎聖さん(37)。自分の森の木を自ら伐採、搬出して森を持続的に生かす自伐型林業を3年前に始めた。秞ちゃんの様子について聖さんは「うれしいですよね。山を守りながら、長く続けていかないと」と話す。

 林業の世界に変化が起きていることを遅まきながら知ったのは昨秋、宮城県気仙沼市で木質バイオマス発電を取材したときだった。長年放置された山に次々と人が入り、間伐材を運び出していた。戦後の林業で主流の大型機械は使わず、搬出も普段使いの軽トラック。効率は悪そうだが誰も気にしていない。むしろ「山とじっくり向き合える」と前向きだった。

 自然の中で自分のペースで働ける。しかも工夫次第で食べていけるとなれば、関心を抱く人が出てくるのは当然だろう。

 「特に東日本大震災の後、意識が変わった。大きな組織やものに頼らず、身の丈に合った生き方を求める人が林業に飛び込んでいる」と九州大の佐藤宣子教授は話す。衰退産業という従来のイメージとは違う、持続可能な自然とのつき合い、という林業の姿だ。

 新しい林業は行政も動かしつつある。高知県は昨年から小規模な林業家を後押しする仕組みを取り入れている。小さな森林を持つ人が間伐する際の補助金制度や、森林を持たない人に提供する用地の取得費を県が市町村に補助する独自施策。人口減少率が全国3番目に高く、IターンやUターンを増やしたい、との思いが先駆的な事業を後押しした。

 こうした地方で始まった林業の挑戦を社会としてどう育てていくか。それは「人と自然」や「都市と地方」のあり方を考える際の試金石にもなりそうだ。(朝日、2016年04月12日夕刊。野瀬輝彦)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 評注・許萬元作「ヘーゲル哲... | トップ | 許萬元論文の評注、第3弾 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ラ行」カテゴリの最新記事