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ニュージーランド流酪農

2014年10月22日 | ラ行
                酪農学園大学教授・荒木和秋

 7月に「ニュージーランド(NZ)・北海道酪農協力プロジェクト」が発表された。NZ政府が道内4戸の放牧酪農家に技術者とコンサルタントを派遣して調査分析とアドバイスを行い、放牧経営の指標を作成する。海外の政府が直接、農家の指導に当たるのは極めてまれなことだ。

 日本とNZは、生乳生産量が20年前は共に年間860万トンと肩を並べていたが、昨年度は日本が745万トンに減少する一方、NZは2000万トンに迫る勢いである。なぜこのような違いが生まれたのか。

 NZでは、半世紀以上前に合理的な営農システムが確立した。大きな圃場(ほじょう)に長期間牛を放しておくのではなく、圃場を電気牧柵で区切り、毎日牧区を替えていく集約放牧が実践された。短い牧草は高栄養で穀物を不要とし、年間放牧で牛舎もいらない。省力的な搾乳場も簡素ながら早くから整備された。

さらに春から夏に伸びる牧草を産後の牛が食べられるよう分娩を春先に集中させる季節繁殖は、乾乳期となる冬の農閑期を作り、長期休暇を可能とした。それに加え、酪農民でも夕刻には仕事を終え、生活を優先する作業スタイルは若者を多く集めている。

 一方、日本では年間を通した繁殖と生乳生産が、酪農民の年中無休を作りだした。機械化や立派な施設は規模拡大を可能にしたが、長時間労働と負債の増大につながった。関税ゼロの輸入穀物の多給は安価な時代には多大な利益をもたらしたが、高騰すると裏目に出た。農協も販売手数料を得るため、飼料が売れなくなる放牧には否定的だった。

 だが、日本でも1990年代後半にNZ方式を導入した北海道足寄町旧開拓農協地区では8年間でコストが2割下がり、所得も増えて後継者が戻っている。道内では新規参入者の多くが放牧酪農を実践しており、道外でも入会牧野や耕作放棄地などを使って導入可能ではないか。

 NZで合理的な営農システムを築くことができたのは、少ない人口の下、いかに省力化するかを絶えず追求した結果である。国の行財政改革で補助金がほとんど無くされたこともあり、日本の4分の1という低コスト酪農の実践で生き残りを図ってきた。逆に日本では手厚い補助金行政が推進されて高コスト体質となり、酪農が裏返しているというのは皮肉な結果であろう。

 貿易自由化など将来への不安から離農者が増える中、納税者から支持される低コストで、かつ若者から支持されるゆとりある営農システムの構築が急がれる。(朝日、2014年08月24日)

 感想・ノルウェーの漁業とかドイツの林業とか、日本でも学ぶような動きがあるようですが、どれだけ広がっているのでしょうか。政府はこれらからどう学んでいるのでしょうか。

     関連項目

ノルウェーの漁業
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