マキペディア(発行人・牧野紀之)

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テロ(01、オランダ・モデル)

2009年06月06日 | タ行
 アフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)の国際治安支援部隊(ISAF)で、オランダ軍の取り組みが注目を集めている。住民の暮らし改善に力を注ぎ、双方の犠牲者を抑えている。「オランダ・モデル」はブッシュ前米政権から「戦わない軍」と批判されたが、対話を掲げるオバマ政権には一転「成功例」と評価されている。

 オランダは2006年夏から南部ウルズガン州に約1800人を派兵している。同州はカンダハル州、ヘルマンド州と並び反政府武装組織タリバーンの勢力が強く、最高指導者オマール師の出身地。しかし、2年半余りでオランダ軍の死者は19人。同期間の死者数で比べ、ヘルマンドに約8300人を送る英軍(140人以上)やカンダハルに約2800人を出すカナダ軍(約100人)より際立って少ない。

 最大の理由は軍事行動より住民との相互理解に力を入れる点だ。国防省のリートディック作戦本部長は「敵は住民の中にもいる。直截戦えば敵意をもたれて、タリバーンに協力されてしまう」と話す。

 地元の有力者との信頼関係を元に民生支援に力を注ぐ。「目標は住民自身による復興の手助け」と、外務省のアフガン担当コーディネーター、サストロウィヨト氏。地元の協力を得て学校や保健センターを整え、就学する子供は1万数千人から約5万人に、医師は2人から31人に増えた。

 兵士は「オランダ・モデル」を理解するため事前に半年の訓練を受ける。責任者のセンツ少佐は「住民に敬意を払い、敵にも中立に振る舞うよう訓練する」と強調する。

 オランダ・ヘルダーラント州の軍演習場。今年04月、200人以上が仕上げの演習に励んでいた。その1人の男性兵(36)は地元警察の助言役として07月に赴く。「アフガンも、助言役になるのも初めて」。警察の組織や現状だけでなく、現地の文化や宗教を学ぶ。

 クリントン米国務長官は03月末、ハーグでのアフガン支援会議で「オランダは注目すべき成功を収めている。我々の新戦略はこの考えの上に築いた」と持ち上げた。

 だが、一方で批判も根強くある。英軍やカナダ軍からは 「タリバーンを掃討してもオランダ軍の担当地域に逃げてしまう」と不満が上った。

 アフガンの情勢は悪化。オランダ軍も04月、キャンプ内にロケット弾を撃ち込まれ犠牲者を出した。国内世論に動揺が見える。03月の国防省の世論調査では派兵支持は2006年08月より15%減り21%、反対は9%増え35%となった。

 政府幹部は派兵期限の2010年08月以降のアフガンそのものからの撤退は否定するが、「一度に何人も犠牲が出ればその限りではない」(外務省幹部)との声もある。

   参考(主要国の派遣兵士数と犠牲者数

アメリカ、約4万人、683人
イギリス、約8300人、158人
カナダ、約2800人、118人
オランダ、約1800人、19人

 (ハーグ=藤えりか。朝日、2009年05月14日))
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