『空気人形』『リンダリンダリンダ』など、日本での活躍も目覚ましいペ・ドゥナが2年ぶりに韓国映画に出演した作品。
不祥事を起こして小さな海辺の村の駐在所長に左遷されたヨンナム(ペ・ドゥナ)。そこで養父のヨンハとその母から虐待を受け、学校でも苛められているドヒ(キム・セロン)と出会う。ヨンハの暴力から守るためドヒが逃げてきたら匿い、夏休みには自分の部屋に住まわせるが、ヨンハの母親の事故死、ヨンナムの元恋人の来訪、外国人労働者が暴れるなど様々な問題が起きる。ヨンナムは不法滞在外国人労働者のブローカーをしていたヨンハを逮捕するが、ヨンナムの都会での不祥事を察したヨンハから逆に告発を受け収監される。ドヒは、ヨンナムを救い出すため危険な賭けに出る。。。
韓国社会が抱える社会問題のうち、大きく3つが取り上げられています。まず性的マイノリティへの偏見。ヨンナムは前の上司にはっきりと「それではダメだ」と言われ、ヨンハの告発を受けた時には本署の刑事から先入観ありまくりで訊問されます。年長者への礼儀など儒教の影響が色濃く残る韓国社会で性的マイノリティが受け容れられるには、まだまだ時間がかかりそう。香港や台湾とはだいぶ状況が違うなあ。
2つ目は家庭内暴力と児童虐待。これも韓国の伝統的な価値観なのでしょうか、他の韓国映画でも夫が妻に暴力を振るう場面はよく見ます。日本でも親の躾や体罰と暴力についてまだまだいろんな主張をする人がいるくらいだから、こちらも根深い問題です。さらに、明らかにドヒに暴力の痕があるのに村の大人が見て見ぬふりで何も声を上げないのは、ヨンハの影響力が強いのか、あまり他の家の事には首を突っ込まない習慣なのか。セウォル号の事故を見ても、社会全体で子供を守るという意識が希薄なのかもしれません。
そして3つ目が不法滞在外国人労働者の問題。これは過疎化や高齢化とも関連する、これまた一筋縄ではいかない問題で、事実彼らがいないと村の漁業は成り立たないのでしょう。日本では技能実習制度やEPAによる看護、介護職の受入のように、人手不足の業界を国が合法化して日本人より悪い労働条件で働かせることができるから、国家ぐるみという点ではより罪が重いかもしれません。ヨンナムは法律に則り対応しますが、村の人たちの本音は「そんなんじゃ働き手がいなくなる」というもので、簡単には解決策の出ない問題です。
ペ・ドゥナの制服姿は凛々しく、ドヒが憧れて頼りにするのも納得。そんなヨンナムが引越しで大量にペットボトルの水を持っていて何だと思ったら、お酒を移し替えてたんですね。他の人に知られたくないのか、飲むときの罪悪感が少しでも薄れるからなのか、韓国には大五郎みたいに大きな容器では売ってないのかな。
ヨンナムがドヒを受け容れた時、「女性が好き」という気持ちがゼロだったのかというと微妙なところだと思います。ヨンナム自身、それがわかっていたから一緒の布団では寝なかったんだろうし、ただ浴室の中にトイレがあって、ヨンナムがお風呂に入っているときにドヒがトイレに来るのは背徳的な絵柄でした。監督も女性だからこそ、そうした感情の機微に触れられるのでしょう。
ペ・ドゥナと同じように透明感のある女優というと、台湾の桂綸鎂グイ・ルンメイが思い浮かびます。いつか2人の共演を観てみたいなあ。
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