「生命とは何か?」この命題を分子生物学が専門の著者がDNA発見の歴史などを織り交ぜながら、綴っていく。
生命科学が20世紀に到達した「生命とは何か?」のひとつの答えは「生命とは自己複製を行うシステムである」というものである。日本ではいまだに偉人で千円札の肖像にもなっている野口英世だが、実はその研究成果は今ではほとんど意味がないものだった、という自分にとっては驚きの話(生物学の研究者には当たり前かもしれないが)から始まり、DNAの発見にまつわる偉人達の業績を紹介しつつ、著者がアメリカで行っていたノックアウトマウスの膵臓にある細胞の研究に話は至る。
DNAが遺伝子だと示した、オズワルド・エイブリー
DNAの4文字の含有量を示した、アーウィン・シャルガフ
PCRの発明者である、キャリー・マリス
DNAの二重らせん構造を発見した、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック
X線結晶学からDNAの構造を解明しようとした、ロザリンド・フランクリン
このDNAの二重らせん構造発見に至る過程も充分に心躍る読み物だったが、それを遥かに超えてドキドキするような興奮をもたらしたのは、ルドルフ・シェーンハイマーによる新しい生命観、「生命は、要素の集合である構成物ではなく、要素の流れがもたらす効果である」というものである。
「自己複製するもの」として定義された生命は「動的平衡にある流れである」と再定義され、著者のノックアウトマウスの研究へと繋がる。今、こうしている自分の身体でも絶えず分子が入れ替わっているというのは全く実感がなく、にわかには信じがたいことだけど、一方で非常に刺激的な考え方であり、未知の世界のもっと先を知りたいという自分がいる。次は同じ著者の「動的平衡」を読んでみよう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます