- 松永史談会 -

   こんにちは。ご機嫌如何ですか。

ノーベル賞学者真鍋先生曰く「今日ジョギングしていて追い越されたので、抜き返したよ」

2021年10月08日 | 断想および雑談
真鍋先生の話題に触れる前に、今朝方しばらくぶりに『備後国名勝巡覧大絵図』を取り出してみて改めて気づかされたのが、当該大絵図の場合、例えば福山藩領沼隈郡内の情報は豊富だが、芸藩領備後国御調郡の情報は驚くほど少ないという点。逆に備後地方に於ける海上/陸上交通の難所を明示するなど輸送路情報提供には腐心の跡が伺える。こうした点は地図制作者の持つ知識の有り様や制作目的などの反映だろうか。
そうした偏りに関してそこには地図制作者の地理的知識(knowledge,ナレッジ)の地平の在り方とか地図的言説(discourse、ディスクール)編成の在り方の反映が見られると仮定して、あれこれ調べていくといろんな面白いことが浮き彫りにできる。わたしが予てより念頭において来た方法に近いのが文学作品などテクストを分析する際の物語論(Narrathology(「ナラトロジー」、字義的には物語学/物語論)的手法だ。

向島に関してはそもそも(島名としての「向島」の語は)無記載で、「属御調郡/歌島(訓:宇多乃之万)郷」とあるだけ。岡島=「小歌(おか)」と表記、加島は「歌島(かしま)」(ただし、歌島を歌の島と発音する場合、うたのしまとは現在の向島のこと。歌の文字を「うた」と発音するか「か」と発音するかの違いに注意が必要である)、尾道市向東町歌(うた)組だけを捉え、名所旧蹟を意味する▲印付き「歌浦(うたうら)」。あとは古城跡。島の名称である「白石」と「當木」の東方に図示された破線の帯は砂堆、そして「歌浦」沖合、尾道水道沿いの隠顕岩(「ゾワイ」「ソワ」/岩礁・・・黒い独特の山形記号)に「ヲイゾワ」との名称。さらには尾道水道部分には干満の差が激しく、潮流が甚だ急なりとの海事情報。⇒『備後国名勝巡覧大絵図』研究関連記事
御調郡部分の絵図表現を見ていくと、誤りを含め、例えば『芸藩通志』『西備名区』等の古地誌類記載の情報もカバー出来ていないのだ。『備後国名勝巡覧大絵図』は幕末期の福山藩側の人間(map-maker)にとって備後国の広島藩領側の事柄を他人事視する傾向があったのだろうかと感じさせるところがあり、その分、本大絵図はこの当時の地図としては少しく完成度が低いと断じざるを得ないのである。
◇別の公開サイト:『備後国名勝巡覧大絵図

ところでこんな2021年度ノーベル物理学賞受賞者真鍋淑郎先生関連記事を目にした。
「(前略)山中教授によると、真鍋さんは研究だけでなく、何事にも負けず嫌いで、60歳代後半だった当時、趣味としていたジョギングについて、「今日走っていて追い越されたので、抜き返したよ」と勝ち誇ったように話していたという。

 帰国した際に会うと、「論文を書きなさい。論文を書かないで研究者とは言えない」と諭された。一対一になると、ずっと研究の話をするのが常だった。(後略)」

商務省の外局アメリカ海洋大気庁内GFDLの真鍋先生紹介記事(Former NOAA scientist shares Nobel Prize in Physics for pioneering climate prediction)
そういえばわたしが学生時代も思考モードとしては統計解析全盛期が続いていて大いにその影響を受けた。
ところで2021年度の「ノーベル文学賞」はポストコロニアル文学の作家で現代の移民・難民問題に鋭くアプローチしたアフリカ系英国人のアブドゥルラザク・グルナ(Abdulrazak Gurnah、1948年12月20日 - )氏が受賞したようだが「ナラトロジー」というのは思考モード的にはこちらに近いかもしれない。わたしの言うナラトロジーの研究では地図的言説編成のpoliticalな側面poeticな側面といった意味論的な事象が検討対象となるのだが、その結果としてここでは地図学(Cartography)/図学(Descriptive geometry⇒例えば”Universalis cosmographia secundum Ptholomaei traditionem et Americi Vespucii alioru[m]que lustrationes.”は幾何学的研究対象としての比重大)的問題は捨象されるか背景的問題として脇に置かれることになる。
参考までに真鍋先生はこの方面の専門家でもあり、その大気科学/気候学関係の論文には地理的分布図が頻出。

真鍋先生の画期的業績とされるものがこちら1967年度の論文Thermal Equilibrium of the Atmosphere with a Given Distribution of Relative Humidity、May 1967Journal of the Atmospheric Sciences 24(3):241-259

◇真鍋淑郎先生の主要業績一覧


話は変わるがノーベル賞学者利根川進先生の父方の先祖は旧福山藩士(See⇒祖父:利根川守三郞)
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