- 松永史談会 -

   こんにちは。ご機嫌如何ですか。

反ユダヤ主義キャンペーンの現在

2011年12月31日 | ローカルな歴史(郷土史)情報
イスラム急進派とイスラエルの極右勢力を捉えて、あるアメリカ人(rtah_2000sunshine)は次のように彼らを冷笑する
”Both Muslim and Jew are responsible for all the hatred in this world. Both have spread out around this world with their hatred for each other and dragging us TRUE peace lovers and those that know the TRUE GOD into their conflicts. Jew and Muslim gods are a thought in each of their minds and on paper. Nothing more. The TRUE GOD will some day punish cut throat jews and muslims and the TRUE LOVE OF MY GOD will be supreme and the hate monger god of the jews and muslims will never be remembered. NEVER, NEVER, NEVER AGAIN WILL SUCH HATRED BE ALLOWED ON THIS EARTH. MY ALMIGHTY GOD HAS TOLD ME SO”

   今ではジャップって言われてもその意味が解せない日本人も多いのではないかと思われるが、これは褒め言葉ではない。気にするのが愚かしく思えるほどの他愛無い、日本人に対する蔑称だ。この種のいじめをうけると気の弱い人間はひどく傷つくもんだが、同様のことが西洋社会ではユダヤの人々に対して長年行われてきた。ここで話題にする反ユダヤ主義の風刺画はそういう次元のものだ。

落書き(Graffiti)や差別-これらは人間の幸せとは対立する、罪深い代物だ。英国では2005年6月に前者を規制する法律(Clean Neighbourhoods and Environment Act 2005 、通称「近隣環境浄化法 The Clean Neighbourhoods Act」)が出されたので気をつけろ。条文はこちら
reference:Flickr情報:モスクワでの右派政治集会050212(ロシアにおけるpolitical street artについて紹介) 
  ところで、イスラエルには反ユダヤ主義の風刺画(Anti-Semitic cartoons/picture)を掲載し、世界の反ユダヤ主義・イスラエル批判(ユダヤ人の差別)の動向を小まめに監視する御用団体がある。ユダヤ人のための人権擁護協議会だ。 ここのHPには日本人を捉えて”よお、ジャップ!”って感じでユダヤ人たちを侮蔑する行為の痕跡(証拠写真)が掲載されている。
写真はドイツのユダヤ人墓地での光景-


ナチスドイツの党章ハーケンクロイツ Hakenkreuzを墓石に落書き

ユダヤ人はシェークスピアの喜劇『ベニスの商人』にも高利貸しとして登場するから、彼らを異端視するその根は深い。ここに掲示されたものは2003年以後における落書き・風刺漫画・墓地荒らし・放火などの嫌がらせ行為70数件ー場所と報告件数だが、南米(エクアドル・ベネズエラ・ブラジル・アルゼンチン・ボリビア・チリ)-15件、西欧(英仏、スペイン・ベルギー・イタリア)-21件、北欧(ノルウェー・スウェーデン)-2件、東欧(ロシア・ウクライナ・ハンガリー・チェコ・モルドバ)-12件、オーストラリア・NZ-14件を中心にアメリカ合衆国・トルコ・香港-3件とグローバルナな広がり。対人口比をみると、アジア・アフリカ(・アメリカ合衆国)では少なく、オーストラリアに多い。国によっていじめの中身には違いがあって、南米ではシナゴグSynagogueなどへの落書き(反米とパレスチナ紛争への反感 下の写真

)が多いが、ヨーロッパ諸国では風刺漫画、墓地荒らしや店舗の放火など陰湿さ・悪質さが増す。

 ブリュッセル大学のDr. Joël Kotek(1958-) は近著Joël et Dan Kotek, Au nom de l'antisionisme: L'image des Juifs et d'Israël dans la caricature depuis la seconde Intifada 『反ユダヤ主義の由来:漫画に見る第二次インティファーダ以後におけるユダヤ・イスラエルのイメージ』(Brussels: Éditions Complexe, 2003). [French]の中でアラブ社会で流通してきた反ユダヤ主義の風刺画に関する興味深い分析を行っている。その紹介は別途(「漫画の文化政治論」(Cultural politics of the Cartoons)-ユダヤ人迫害の現在 ②~-)に行うとして、彼を特集したJerusalam Centre for Public Affares(1976年に設立された、前の国連大使Dore Gold氏率いる政策研究所)もユダヤ人を巡る間違ったイメージ(世界の脅威・戦争屋そして”'the Eternal Jew”)は再生産をされ続け、それはアラブ社会だけに留まらず、EU域内(キリスト教社会)、いな汎世界的規模の広がりを見せているという。

参考
戦争と平和(Arms and gown)・・・・・かくも戦争I(戦時思想と)は人間精神を細らせるのかぁ(The war makes the human spirit shabby. )
                        
参考 
もう一つのアラブ(UAEに代表される成金趣味@Flickr)②FlickrにおけるCartoon関係画像Cartoon関係のClustersMuhammed 関係のClusters
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再録)漫画の文化政治論(2)

2011年12月31日 | 断想および雑談
漫画を政治的イデオロギーやプロパガンダと関連つけながら論じた書籍に小野 耕世 (著) ドナルド・ダックの世界像―ディズニーにみるアメリカの夢 、 中公新書がある。こういう類のもの(Cultural Study関係)はたくさん出版されていて枚挙に暇がない。中には田河水泡『のらくろ総攻撃』(昭和12年、1937)を捉えて帝国主義入門等と言う大風呂敷や日本の周辺国の政治風刺漫画に愚痴を溢(こぼ)すのもあって迷惑するが、poko_9はそういうレベルのものには全く興味がない。

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Dr. Joël Kotek(政治学/歴史学、1958~)はアラブ系メディアの出してくる反ユダヤ的カ-トゥーン(政治風刺漫画)2000余を分析し、それらは反イスラエルだけでなく全世界を視野に入れた反ユダヤ的なメッセージ性を含んでいるという。しかもその種の言説を中心的に形成するのが、 cartoon(イラスト版の政治戯評、新聞の社説の漫画版)。これは世論の操作に大きく関与しているという。
  Manfred Gerstenfeld はこのJoël Kotek兄弟の言葉を引用しつつ次のような懸念を表明。すなわち、Kotek says: "The main recurrent theme in these cartoons is 'the devilish Jew(漫画の繰り返し使われるテーマは魔性のユダヤ人).' By extension, this image suggests that the Jewish religion must be diabolic(ユダヤ教=邪教), and the entire Jewish people evil(それが増幅されユダヤ人=悪魔のイメージが流布される). I even found a Greek Orthodox cartoonist of Lebanese origin(レバノン出身の東方正教会系の漫画家は), who conveys the message that the Jewish religion has caused the State of Israel to be so 'evil.'(ユダヤ教が災いしてイスラエルを邪悪なものにしている) The cartoons convey the idea that Jews behave like Nazis(彼らはユダヤ人がナチスのように振舞う存在だと言う観念を民衆たちに植え付け), leading readers to conclude that the only logical solution is their elimination(ユダヤ人を排除することこそが、唯一の筋の通ったやり方だという形でアラブの読者たちをミスリードする). As the Arab world is becoming increasingly convinced of these ideas, they have no inhibitions showing them on a multitude of websites."(アラブ世界がその方向で確信を強めていく中で、益々ネット上でのその種の言説の流布に対して歯止めが利かなくなっている)と。
Kotekはネット上を駆け巡っている数百の反ユダヤ風刺漫画をテーマ別に以下のように10に分類する。

① 古くからあるユダヤ人は邪悪な存在で、アラブ社会では、キリスト教社会のそれ同様にユダヤ人を二等市民だとするもの。実際、アフリカ諸国にいるユダヤ人は奴隷的な地位に追いやられてきた。それは彼らが日系のフィリピン人と同じ被差別民だったからだ。


漫画の中では左側の背が低くて見るからに異様な風体の人物として形象化されている。
②キリスト教起源のものだが、ユダヤ人はGodの殺害者である。
③イスラエルをナチスドイツと同一視するもの。


④ 動物形象(zoomorphism)、これは世界的にみられる現象だが、例えばナチスドイツやソ連・ルーマニアではユダヤ人をクモに喩えて邪悪視。よく使われたのはユダヤ人を蛇、豚、ゴキブリ呼ばわりするものだった。

ここではオクトパス+「ダビデの星」(イスラエルor ユダヤ人を象徴する紋章)で表現
⑤ユダヤ人は世界制服を策略している。
⑥破壊的力としてのユダヤ人のイメージ。ここからはお金の力で世界を支配しようとしているとか、ブッシュ大統領はユダヤ系の銀行や人脈と結託しているといった言説を生む。


⑦(血を偏愛し、血に餓えたユダヤ人) bloodloving or blood-thirsty Jew. 前掲(下図)
⑧際立ったものだが、ユダヤ人に殺人、とりわけ子殺しのイメージを付与。
⑨イスラエルは平和を望まない不誠実な国-古くよりイスラム教徒たちが言い習わしてきた'the perfidious Jew' の変形。
⑩自爆テロ擁護論(apologies for suicide bombers)に関係したもので、ユダヤ人を市民としては捉えず、兵士か厳格なユダヤ教の信仰者ultra-orthodox Jewとして描く。

 
イスラエル軍のヘリとそれを文字った爆弾を身に纏ったアラブの女性の対比によってイスラエル軍の残虐性を表現。

預言者ムハンマドの風刺漫画と「表現の暴力」(Cultural violence and the Muhammed Cartoons) から政治風刺漫画について幾つかの事例を紹介してみたが、私がいま感じることはイスラム教徒だってあからさまにユダヤ人やユダヤ教の風刺漫画を出しているじゃないか、ということではない。そうではなくて、今回紹介した中東地域には「表現の自由」を認め、そこでのCartoonistsによる辛らつな風刺と皮肉を、民衆の心の叫びとして素直に受け入れるとか、芸術活動の場と現実の政治とを分離して考えるといったことがなく、逆に相手方の風刺漫画に対してのみ一方的に腹を立てるといった硬直した精神が広がっているという部分だ。

引用文献Manfred Gerstenfeld(聞き手”)Major Anti-Semitic Motifs in Arab Cartoons:An Interview with Joël Kotek ”,Post-Holocaust and Anti-Semitism No. 21 1 June 2004 / 12 Sivan 5764 .

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再録)漫画の文化政治論(1)

2011年12月31日 | ローカルな歴史(郷土史)情報
  怨讐の彼方-愛と憎しみを越えた平和の構築(Peace Making beyond Love and Hate)を目指さなければならない時代だが、E.サイードによるとイスラエルは「パレスチナ人の抵抗運動はすべて「暴力とテロ」に還元され、イスラエルこそが罪のない被害者であるという途方もない認識を広める「現実管理」を行っている。これはまさにジョージ・オーウェルの世界」の制作だという。


オサマビンラディン
 他方、Manfred Gerstenfeld らはイスラエルのシンクタンク Jurusalem Centre for Public Affairsのサイトにおいてアラブ社会における反ユダヤ・イデオロギーと団体による組織的宣伝活動=プロパガンダ(Propaganda)の不条理さを告発する。ここでは”Major Anti-Semitic Motifs in Arab Cartoons-An Interview with Joël Kotek-を紹介しつつ後者の言い分を拝聴してみよう。

  
彼の意識の根っこには他者(イスラム)の論理に対する不信感がある。アラブの漫画のライトモチーフには”the devilish Jew”の観念があって、ユダヤ人たちはナチスドイツのように血に餓えた狼で子殺しであって、このイメージがアラブの民衆に生理的嫌悪感を植え付け、かれらを大量殺戮に向かわせているという。



漫画(上の資料はイスラエル兵が搾油機にかけて搾り出したアラブの人の血をユダヤ教徒たちが美味そうに飲んでいるシーン)などのイメージは社説と同じくらい、読者に大きなインパクトを付与する。パレスチナの漫画家たちは盛んに"ritual murder" of children(ユダヤ人=子供に対する儀礼的殺戮者)のイメージを流布させ、民衆の反ユダヤ意識を掻き立てている。そしてクモ・吸血鬼・タコのイメージを動員してユダヤ人の非人間性を宣伝。アラブ社会発のこの種のイメージは今日、ヨーロッパ社会にも浸透しているという。

アラブ人によるユダヤ人に対する大量虐殺の下地(Genocide's Groundwork)とは?
Manfred Gerstenfeldの見方はこうだ。アラブの漫画家たちが生産したイスラエルやユダヤ人たちに対する誤ったイメージがアラブの民衆をして「大量殺戮」に走らせる潜在意識を植え付けているのだと。

本当にそうなのだろうか?

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今昔物語;インドネシアにおける聖戦論の残酷

2011年12月30日 | ローカルな歴史(郷土史)情報
 
 インドネシアのマルク(Maluku,モルッカ)地方といえば16-17世紀の世界経済に大きなインパクトを与えた香料(丁子、ナツメグ、メース)産地。18世紀になると英仏によって世界各地の植民地へ盗木移植が進む一方、香料貿易の独占の崩壊と香料価格の値崩れを恐れた、オランダによって香料生産地の制限措置が強化された。南モルッカ地方ではオランダによる植民地支配が長く続き、その間に住民のキリスト教への改宗が進んだ。
  インドネシア独立(1950)後はジャカルタ政府の支配が強化され、ジャワ島やスラウェシ島など外部からイスラム教徒が多数送り込まれた。両者(旧島民と来住者と)の対立はスハルト政権(1968-98年)崩壊後、周知のごとく一挙に表面化。
写真はアンボン島のパソにおけるイスラム教系住民の警備小屋(Laskar Jihad" target="_blank">`Post)とそこに貼り出されたオサマ・ビン・ラデン(Osama bin Laden)のポスターだ。


 
インドネシアのLaskar Jihad, or ‘Holy War Warriorsは2000年にジャファ・ウマル・タリブによって結成されたもので、彼は1980年代後半にパキスタンでイスラム教神学を学び、1980年代後半にはアフガニスタンのムジャヒディンと共に侵攻してきたソ連軍と戦っていた(Laskar Jihad, or ‘Holy War Warriors,’ was founded in 2000 by Jafar Umar Thalib, who spent several years studying in Pakistan and fighting alongside the mujahidin in Afghanistan in the late 1980s.)
モルッカ地方全域で繰り広げられた民族浄化(Ethnic Cleansing)にもグローバル・ジハーディズム→Global jihadism(聖戦の論理のグローバル化)の影がちらついている。
この悲惨な実態を調査した報告書『Indonesia:Poso and Maluku』(2002)・・・・(現在リンク切れ)』がこれ。実に綿密に調べ上げているので感心させられた。
セラム島中部(Maluku州Maluku Tengah県)にTeon Nila Serua郡という奇妙な名前の郡がある。       図中の赤丸が当該郡、紫色の■印はインドネシア内での位置関係
1979年の火山噴火で離島を余儀なくされたTeon島、 Nila島、 Serua島の島民(キリスト教徒、セラム島出身、漁民)たちの集団移住地(1982年)だ。彼らも1999年以後セラム島で迫害の洗礼を受けた。モルッカ地方の人たちの歴史は災害や戦争などによる定住と移住の繰り返しだったという部分もあるが、その悲惨さはこのレポにあるとおりだ。
バリ島やジャカルタでの爆弾テロといい、このマルク(モルッカ)地方における民族浄化といい、大義のない抗争を繰り返す、もの騒がせなラスカル・ジハードLaskar Jihadという組織である。

この島は南蛮貿易時代は日本人傭兵が活躍し、また第二次世界大戦中は日本軍の基地が置かれたところ(敗戦後はオーストラリア軍が日本兵の捕虜収容所として利用)The Japanese Invasion of Ambon Island, January 1942
2001アンボン島におけるイスラム教徒とキリスト教徒との抗争:
A Village in Maluku
AMBON: The Battle of Waai and the Ambon Demo.2001
アムステルダム熱帯研究所(KIT)のサイトよりある程度入手可能。検索方法はこのBlog内にて言及している。

以上の話題は、今は昔ということで、スハルト政権崩壊直後のインドネシア各地で起こった出来事だった。


参考文献

判りにくいイスラム教徒のエートス
インドネシア・アンボン島におけるテロ
Laskar Jihad and the Conflict in Ambon
JIHADISM IN INDONESIA: POSO ON THE EDGE
スラウェシ中部posoの地方政治と宗教(邦文)
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