KERA作品をさまざまな演出家の手で立ち上げる「KERA CROSS」。そのラストをKERA自身が演出するので、KERAMAPと何が違うんだろうと疑問には感じるものの、まあそんな細かいことはどうでもよく、すごい役者が勢ぞろいして楽しみにしていた「骨と軽蔑」を見ました。やっぱりすごい舞台でした。
内戦が続くある国が舞台です。会社経営をしているその町のお金持ち家族と、その関係者が登場人物です。ただしその家族の主は途中で死んでしまい、結局舞台には現れません。その家族の娘に小説家の姉がいます。その姉と妹の仲が悪い。常に喧嘩しています。お互いに相手が先に悪いことをしたからいけないんだと主張して、常に水掛け論になってしまいます。この関係が戦争が頻繁に起こる現在の国際状況と重なります。
この芝居の特色は「異化」が頻繁に起きるということです。登場人物が観客に語りかけ、これはとある国の昔の話なんだよと現実とは違うことを意識させます。頻繁にそういう「異化」が行われることによって、この「異化」がなんのために行われているのかを意識させます。その結果、観客は現実の今の社会状況を意識するようになるのだと思います。
ウクライナの戦争にしても、ガザ地区の戦争にしても、それぞれはそれぞれの言い分はあります。しかし、戦争で苦しんでいるのは一般の住民です。それが見えてこないぬるま湯の日本の言論状況をこの芝居は痛烈に批判しています。
最後に姉と妹がどちらも死ぬであろうことが示唆されます。異化を繰り返しながら、観客は現実社会に同化していきます。そしてみずからがその当事者であることに気付くように仕掛けられています。その手際に感服するばかりです。
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