カンヌ映画祭で坂元裕二氏が脚本賞を受賞した映画『怪物』を見ました。私にとっては不満の残る作品でした。
私がこの作品の気に入らなかった理由は、学校がリアルではないということです。映画では息子に体罰を与えた教員を抗議するために母親が学校に行きます。そこでの学校側の対応が情けない。実際にああいう対応をするはずがないと感じたのです。
学校はトラブルだらけです。しかしいくらなんでも、保護者に対してああいう対応をする学校はありません。校長も逃げるようにいなくなる。担任もあやまる気力もないのに語りだけ謝る。他の教員はわざとらしくと見えるまでトラブルをさける行動をとる。確かに後半でそのいきさつは説明されるのですが、学校側の対応はありえないものでした。
学校と保護者のトラブルはもっと繊細な部分で生じています。学校職員だってトラブルを避けようと努力しています。確かに教師のなかには非常識と思われる行動をとるものもいます。しかしそれはもっと微妙なところでです。微妙な態度が生徒を傷つけそれが大きなトラブルに発展する。それがわかっているからトラブル処理には慎重になります。
学校は保護者トラブルがあった場合必ず教育委員会に報告します。少なくともマスコミネタになってしまうようなトラブルがあった場合、教育委員会が対応します。保護者も学校の対応がおかしいと思った場合は教育委員会に訴えます。こじれると長い時間かかる対応になってしまうのですが、さまざまな難しい要素がからんでいるからです。
この映画はステレオタイプの見方を批判しています。しかしこの映画の学校の描き方は明らかにステレオタイプです。そこが大きな欠陥です。
私は元学校の教員であり、現在の学校教育には大きな不満を持ちますが、学校教育はこの映画で描いているよりはずっとまともです。私が元教員でなければ、満足した映画だったと思います。しかし残念ながらリアリティのなさに失望しました。
この映画を作った人たちも「怪物」です。