新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

1月27日 その2 TESLAは中古でも1,700万もする

2018-01-27 15:28:15 | コラム
大久保通りに路上駐車した車を見れば

27日の昼過ぎに大久保通りを南の方向に歩いていた我が夫婦を追い抜いた白い練馬ナンバーの乗用車が停まったと思ったら、ガルウイングが上がって何名か降りてきて荷物を出して反対側に向かった。国産車にこんな車があったかと思って近付けば、自動車のことには暗い私にも解った、今を時めくアメリカ製のEV・TESLAだった。思わず「凄いなテスラーダ」と声を上げると、運転席から出てきた若者が「そうだよ」と誇らしげに頷いた。

如何に車に関する知識がない私でも解る事で、高級車というよりも高額車だとは解る。更に欧州では何年までだったかにガソリン車の走行が許されなくなりEV車のみとすると決めたとの報道もあった。更に我がマスコミは「我が国の自動車産業は明らかにEVという点ではアメリカにも欧州にも遅れている」と自虐的に報じていた。

そこで、帰宅後に検索してみると、先ほど見た車はXタイプとやらで、新車が1,041~1,780万円で、中古車では1,784万円もするとあった。実は「なるほど」と思ったのだが、それはPresident誌の2018.2.12号にテスラー社に関する「火の車の財務と“生産地獄”」と題する記事があり、そこには同社CEOのElon Musk(イーロン・マスク)現在10万台弱の年産量を「2018年までに50万台、20年には50万台にする」との壮大な計画をぶち上げた」との記事を読んであったから。

これでは如何にEV時代の到来が間近とは言っても、供給量が少なすぎて高値がまかり通る訳かと思った次第。President誌のこの記事でもマスク氏が「ガソリン車を超える高性能のEVを開発する」と言い放ち、いち早く米国でEVベンチャー「テスラ」を立ち上げて1,000万円を超える超高級スポーツカー「ロードスター」などを世界の市場に投入、EVブームの仕掛け人として一躍時代の寵児となった」と報じている。

だが、後半では「生産技術が量産レベルまで高められずに難航し、納車が大幅に遅れている。巨大電池工場などへの先行投資が膨らんで赤字経営からの脱却が難しく、“身売り説”まで急浮上。宇宙開発など常にロマンと夢を追い求めるマスク氏だが、火の車の財政状況と、生産地獄の危機をどう回避するか。残された時間は多くない」と結んでいる。

これを読んだ後で、意外な思いに囚われていたところに、好ましくない国際化が進んだ大久保通りでガルウイングのテスラに出会うとは、何かの巡り合わせかと驚いていた次第だ。正面から見たテスラはアメリカ製にしてはデザインが垢抜けしていないなと感じた。ところで、我が国の自動車産業界は来たるべきEV車化時代に如何に対応するのだろうか。テスラ社の「火の車の財政状況」は何に起因するかの調査は出来ているのだろうか。


英語のJobは「雇用」のことではない

2018-01-27 09:59:21 | コラム
マスコミは日米間の企業の文化の違いを学ぶべきではないか:

と言って採り上げるよりも「マスコミには誤訳が多いのが気になる」とした方が適切であるかも知れない。1月24日に久方ぶりに開催されて21世紀パラダイム研究会でもこの点を指摘した。「野外便所」で犯した誤りもそのうちなのでこの点をヤンワリと触れておいた。

具体例を挙げればSpecial Counselに任命されたMuellerを新聞もテレビも「特別検察官」で押し通しているが、これは強いて日本語にすれば「特別弁護人」辺りにしかならない。counselを辞書で見ておけが「検察官」ではないことは明瞭だったはずだ。誤訳である。以前に別の人物が「特別検察官」が任命されたことがあったが、その英語はSpecial Prosecutorだった。それと勘違いしたのだろうし、Muellerに与えられた使命がトランプ大統領の糾明だったので早とちりしたのだと思っている。

そこで jobを採り上げていこう。トランプ大統領は選挙キャンペーン中から“job”を増やすことを強調してきたし、それが最大のスローガンの一つだった。しかし、日本とアメリカの企業社会の間に存在する文化の違いを把握できていない模様の我が親愛なるマスコミは、何としたことか“job”を「雇用」と訳してしまった。これは明らかに誤訳であった。

「雇用」を和英辞典で見ると“employment”と出て来るのか普通だ。それではと employもOxfordで見れば to give ~ a job to do for paymentとある。雇ってから給与を払う為に仕事を与えるとなっている。Websterには the state of being employed esp. for wage or salaryとなっている。それではとjobをOxfordで引けば、“work for which you receive regular payment”となっている。何処にも「雇う」とは出ていない。ここまでを良く理解しておいて貰う必要がある。

そこで、あらためて日米間の企業の人事と採用の違いを述べていこう。

これまでに何度も解説してきたことで、アメリカの企業、特に大手の製造業などでは我が国のように始めに新卒者を雇って教育し、その会社の在り方を理解させた上で徐々にか直ぐにでも役に立つにしてから仕事というか職というべきか、既存の組織に配属していく慣行というか習慣はない。勿論、銀行・証券業界のように大量に大卒者を雇用する文化のある業種もあると言っておかないと片手落ちだろう。

アメリカでは既に営業(稼働)中の企業で新たに人を採用する場合はといえば

(1)その組織の事業が成長し営業担当者の増員が必要になった時、
(2)海外進出を実行するに当たって専門の担当者を雇い入れる、
(3)新規の事業部門を設ける、
(4)営業所乃至は事業所か工場を新設する、
(5)リタイヤーした者の補充をする、
(6)転職者(馘首された者を含めて)が出て欠員を生じた等のような場合、

人事と採用の権限を持つ事業本部長がその職権で即戦力となるべき者を会社の内外から募集し、自らがinterview(=面接試験)して採否を決定する。募集方法には時にはヘッドハンティングが使われることもある。適格者が出てこなければ、採用を見送ることだってある。

採用は上記のような場合のことであると考えて置いて誤りではない。これらは全て仕事、即ち jobであるとの認識が必要だ。要するにある仕事、職務、乃至はその地位に即戦力として使える新規採用者を充てるのである。何の当てもなく誰かを雇ってから職を与えるようなことはしない。これらの人事の権限はその事業本部長にあり、我が国のような人事部か人事課の仕事は彼(乃至は彼女)が持っている。ここまででお解り願えたと思うが、大卒の新規採用をしない根拠がこの辺りにある。

仕事即ちjobが先にあって採用されればそこで雇用は発生するということだ。このjobの難しさは、その組織の好不調、景気の変動、会社自体の業績次第で常に改編(増減)されるということにある。即ち、新規事業が予定したほど伸びなければ、いともアッサリと撤退し、そこに充当されていた人員は“Your job(position) is terminated as of today.”という一片の通告で解雇されるし、それが社会通念で受け入れられるのが彼らの企業社会の文化である。

換言すれば、jobは会社の経営方針または事業本部長の権限により、何時でも創り出されることであり、また彼の決断で排除される性質なのである。繰り返し言うが先に「雇用」があるのではない。今となっては1年前のことだったが、トランプ大統領の大号令で自動車産業が新規の工場を設立するようだが、そこでどのようなjobが会社側に設けられるのか、製造現場には如何なる職種の組合員が必要になるかは「やってみなければ解らない」ことではないか。

更に、既に指摘したが、アメリカの自動車産業はUAWの高賃金を回避する為にも人だけではなく、AIの導入を真剣に検討すべき時代ではないのか。飽くまでもアメリカの経営者の常識で一般論だが、最初から具体的な計画もなく数百人を雇い入れることなどあり得ないのがアメリカのやり方だ。

では、jobとは如何なるものを言うかを、具体例を挙げて解説してみよう。30年ほど前のことだったか、シアトルのNorthwest航空(現Delta)のチェックインカウンターの前に、預ける荷物を検査する台が置かれ、数名のアフリカ系の女性が配属された。その頃はアメリカにはテロの噂があった。私がその1人に「何故、こんな検査をする?」と尋ねた見た。彼女は言った“They gave me this job. But I’m not sure how long this job will last.”と、明らかに不安そうだった。事実、その荷物検査は旬日を出でずして廃止された。そこで女性は仕事が廃止され、雇用を失ったのだ。これはjobとはかくも不安定なものだという例だ。

私が度々採り上げてきたW社の技術サービスマネージャーのL氏の初期の任務は、諸般の事情があって多発した品質問題、回りくどいことを言わなければクレーム処理の担当だった。それは、組合員の意識改革が進み、業界最高の品質を達成するまでは多忙を極めた仕事で、年がら年中我が国を含めて世界中を飛び回っていた。ところが、品質が安定し、客先のとの間の信頼関係が確立されるや、彼は一転して暇な時が出て来るようになった。

その時彼が、勿論冗談だが、真顔で「どうもこれは好ましくない状態だ。ここまで品質問題が発生しないと私の“job security”が不安になってくる」と言ってのけた。これは確かに一理ある議論なのだ。製品の質が安定し、問題が発生しないのであれば彼のような「トラブル・シューター」は必要になってしまうかも知れないのだから。だが、勿論そんなことはなく、彼は常に得意先の現場を巡回訪問し、自社の製品に対する不平不満や改良等への要望を伺ってより一層の品質改良に努力するという重大な項目が“job description”には記載されているのだから。

再確認だが、アメリカでは先に人を雇うのではない、必要次第でその職務、仕事、地位に充てる人材を捜し求めて充当するのが彼らの企業の文化であり、習慣であり、伝統なのだ。マスコミの方々がこの一文を読むかどうか知らないが、間違っても“job”を「雇用」などと言わないことだ。一つの職種に数名を必要とする現場だってあるのだ。何ならアメリカの職場を訪れて見学してみれば如何か。