35『自然と人間の歴史・世界篇』年代測定と遺伝子解析の発展(遺伝子解析)
もう一つ、生物の痕跡を拾うものとして、DNA(デオキシリボ核酸)解析などの生物学的な知見があり、これの適用などにより、いわゆる生物学的情報が得られるという。というのも、DNAは、水、タンパク質、脂質、糖質などとともに、生物の身体を構成している。
ここに人(ヒト)の遺伝子は、二本鎖のDNAから成り立っている。ちょうど、紐(ヒモ)が二本の糸で絡み合うことでできている。沢山の横棒で梯子(はしご)のように繋がっている。これらの紐には糖とリン酸が交互に並び、それかの一つひとつが共有結合という強い結合で結ばれている。この結合は、2つの原子が「電子を共有」し合うことによって成り立っている。もう少しいうと、お互いの余っている不対電子(2個ペアになってない電子)を共有して繋がりを強めている訳だ。
そして、人(ヒト)の遺伝子が乗っかっている染色体も、二本鎖のDNAから成り立っている。巨大な染色体DNAの上にある人(ヒト)の遺伝子には、遺伝情報が組み込まれている。遺伝子がもっている遺伝情報は、人(ヒト)を構成するいろんなタンパク質を構成しているアミノ酸の配列を決める。使われるアミノ酸は20もの種類が知られる。その配列としてあるのがA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)と呼ばれる塩基であり、前に述べた各々の糖の部分にこれらの塩基が結合している。これらは、紐に対してほぼ直角に、梯子の中の方を向いている。言い換えると、前に述べた紐のうち一本をある向きに辿ると、A、T、G、Cによる文字列ができている。
これこそが遺伝子情報を担う暗号であり、生物は、これらの4つの塩基のさまざまな組み合わせ(配列の仕方)となって、高分子の化合物を構成している。つまり、A、T、G、Cの各々の組み合わせとは、生物の設計図にほかならない。実際のところ、こうした情報がタンパク質という別種の、やはり鎖状の高分子のアミノ酸配列へと翻訳、合成され、それぞれの生物を形づくるものとして発現するのである。
(続く)
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
34『自然と人間の歴史・世界篇』年代測定と遺伝子解析の発展(年代測定)
さて、自然界に存在する炭素(C)という元素の中には、「放射性同位体としてのC12やC13、C14といった仲間(これを「同位体」と総称しよう)がある。数字の14は、その炭素の陽子と中性子の合計数(これを「質量数」という)をいう。この14などの質量数は元素記号の左上に書かれたりする。
自然界の多くの炭素は、安定したC12として存在しているとのこと。12の内訳は、陽子6個と中性子6個なのだが、しかし、中性子の数が異なるC13やC14も存在しているとのこと。前に陽子の数が同じで、中性子の数が異なるものを同位体と述べたが、このC14は、安定的なC12と異なり不安定な状態で、放射線を出す性質を持っている。すなわち、放射能を帯びた、放射性同位体として存在している。
さて、これらのうちC(炭素)14を用いて物質年代を特定するものに「放射性炭素C14年代測定法」がある。1947年に、アメリカのシカゴ大学のウィラード・ウィラード・リビーらのグループが、この原理を用い、過去の遺跡や遺物の年代を推測する方法を発見した。それらから某かの試料を採取し、残っている有機物質を測定することで、それらが生きていた年代を割り出すのだ。それからこの方法は、各国において改良に継ぐ改良が重ねられ、考古学の「放射性炭素革命」と呼ばれる地平を切り開いてきた。
これの原理を極々簡単にいうと、こうなるだろう。まずは、C(炭素)14は、宇宙線がこれにぶち当たることでつねにつくられている。そして大気中でCO2(二酸化炭素)となり、光合成により植物に蓄積されていく。言い換えると、植物が光合成でその体内に取り込んでいる二酸化炭素の中にもC(炭素)14はちゃんと含まれている。そうでありながらC(炭素)14というのは、放射線を出しながら自分で勝手に壊れる物質にほかならない、つまり崩壊が進んでいるから、自然界には安定して存在しない。この二つの合成作用(蓄積される一方で崩壊も進むこと)によって、大気中のC14と他の同位体(C12やC13)との比率は、植物が生きている間はほぼ一定を保っている。
ところが、その植物が枯れるとかして死ぬと、その植物内での光合成が行われなくなることから、C14が増えることがなくなり、それからはC14成分が崩壊により減るだけとなる。この理屈は動物の場合も同様で、植物を食べる草食動物、草食動物を食べる肉食動物についても、彼らが生きている間のC14と他の同位体との比率はほぼ一定を保っているのだが、その生物が死ぬと体内のC14が減っていく。
そこで、観察者は、植物の死体や動物の死体から出るβ(ベータ)線を測定したり、C14と他の同位体との比率を調べたりして、放射性物質であるC(炭素)14がどのくらい残っているかを測定器で調べることができれば、どのくらいの年数が経過したのかがわかる、したがって蓄積の停止した時代がわかるのだという。
ちなみに、かくも便利に使えるC14の半減期は、約5730年もするというから驚きだ。ここに半減期とは、放射性物質(放射性同位体)は放射線を出して安定したもの(放射性物質でなくなる)になる、その際放射性物質が半分になる期間のことをいう。例えば、はじめにC14が1000個あったとしよう。最初の半減期の約5730年後には、これが500個に減る。半分は崩壊してN(窒素)14になってしまうとのこと。次の半減期の今から約1万1460年後には250個、さらにその次の半減期が経つと125個になってしまう。以下、1万7190年後には8分の1、2万2920年後には16分の1、等々へとなっていく。つまり、はじめのうちは多く減っていくのだが、後になるほど減る量は少なくなっていくので、その分検出するのは難しくなっていく。
もう一つ、ここにいうC14は、β線(ベータ線)という放射線を出す(この現象を「β崩壊」(ベータ崩壊)という)のだが、このβ線はエネルギーをもった電子のことで、原子核の中から飛び出てくる。原子核の周りにある電子とは別ものの電子であることに留意されたい(ただし、ここでは、かなり簡略化した説明になっている。実際は崩壊には種類があり、電子以外も飛び出るという)。
このβ崩壊では、原子核の中の一つの中性子から電子が飛び出て、その中性子は陽子となる。というのは、元のC14は陽子6個と中性子8個があわさってのものだ。それがβ崩壊が起こると、中性子1個からβ線(電子)が出て行き、陽子へと変わる。つまり、原子核の中性子が1つ減り、陽子が1つ増え、原子核は陽子7個、中性子7個となる。これは、陽子の数が変わっているので、炭素とは異なる元素になったということ、具体的には
陽子7個、原子番号7は窒素(N)となる、つまり、C14がβ崩壊すると、N14になり変わるのである。ただし、陽子と中性子の合計である質量数は同じなのであって、実際の質量も、減った電子はわずかな質量なので無視して扱うこととされる。
(続く)
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆