アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

20c前 カミ族 片面縫取織&ビーズ織込・胸当て布

2018-02-03 00:50:00 | 染織









製作地 ミャンマー中西部 ラカイン(ヤカイン)州 Rakhaing
製作年代(推定) 20世紀前期
民族名 カミ族(Khami)
素材/技法 木綿、絹、グラスビーズ / 経地合、片面緯紋織、片面縫取織(フォルス・エンブロイダリー)、ビーズ織込み
サイズ 幅(緯)31cm×全長(経)68cm

ミャンマー中西部のラカイン(ヤカイン)州に生活する「カミ族(Khami)」の手による、片面縫取織及びビーズ織込の胸当て布“アケン(akhen)”、20世紀前期の準アンティークの作品です。

白・黄・山吹・灰・空・浅葱・緑・桃・紅・赤の十色もの絹・木綿を交えた色糸により緻密な文様が描き込まれておりますが、糸は縦・横・斜めと縦横無尽に配されており、一見すると”刺繍”としか思えないもの、これが刺繍ではなく”織り”であるという点に、まず驚かされる作品です。

この特殊な織りは”フォルス・エンブロイダリー(偽刺繍)”と呼ばれるものですが、この複雑な糸運びの織りなされつつ、織り裏には色糸(絵糸)がまったく現れない”片面縫取織”の技法が併用されている点、布裏を目にして一層驚かされるところとなります。

黒と紅の二色の経糸を引き揃えで配したタイトな”経地合”の織りの中に白・黄・紅の三色の緯糸が織り端から織り端まで通され、絵柄を描く箇所のみ表面に引き揚げられる“片面緯紋織”によりジグザグ状の地文のような文様が表わされ、上記の”フォルス・エンブロイダリー(片面縫取織)”により多彩な装飾が加えられ、更に緯糸の織り返し部分には直径1mm程度の極小のグラスビーズ(アンティークのトレードビーズ)が織り込まれるという、極めて手の込んだ技巧が掛けられ複雑な意匠が凝らされた、特殊なうえにも特殊な染織作品と言うことができます。

国・地域を問わず、少数民族の中には織物・刺繍・衣装の技術と意匠の特殊性(固有性)をアイデンティティとする場合があり、このカミ族の織物にも、他者が決して真似をすることが出来ない特殊かつ高度な技巧である点にアイデンティティと誇りが感じられるように思われます。

しかしながら特殊性は横に置いて、”純粋に美しい”という点が本布の最大の魅力と感じます。



























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