アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19cチベット 朱子地”唐花繋ぎ連円文”モール錦

2016-06-09 00:45:00 | 染織









製作地 チベット  
製作年代(推定) 19世紀
使用地 インド ジャンムー・カシュミール州 ラダック
素材/技法 絹、天然染料、銀モール(撚銀糸) / 朱子地、緯紋織、縫取織
サイズ 緯(織幅)70cm×経58cm

古い時代からインドの高級絹織物のための絹糸はインド自前ではなく、シルクロードを通り陸路で或いは舶来品として中国・中央アジアからもたらされてきたものであり、チベット仏教の地”ラダック”においては、高僧・シャーマン及び富裕層が用いる高級絹織物はチベットや東トルキスタン(ウイグル)等で手掛けられたものが使用されることが一般的でした。

多色の絹糸を素材に手の込んだ錦(ブロケード)の織りで文様が表され、さらに銀モール(撚銀糸)による装飾が加えられた本布も明らかに高僧や富裕層が用いた特別な織物であり、チベットで製作されラダックの地にもたらされたものと考察されます。

経に緑の絹撚糸、緯に臙脂赤と黄(山吹)の絹不撚糸が配され、経朱子地の中に緯紋として”唐花繋ぎ連円文”及び”吉祥紋”が織り描かれ、さらに円の中央には絹を芯に細く裁断した銀箔を巻きつけた”銀モール(撚銀糸)”により密教法具を象った吉祥文字が織り込まれたのが本布で、ペルシャ的古代織物の意匠とチベット仏教的意匠が混交した、シルクロード交易織物の匂いを濃厚に薫らせる一枚となります。