【掲載日:平成21年8月28日】
何処にか われは宿らむ
高島の 勝野の原に この日暮れなば
【勝野の原 高島町勝野】
帰着の黒人に 官よりの命が 届いていた
《勤め 懈怠につき 今以降の出仕を 停止す》
黒人は 旅の空にいた
官の 拠り所を失くし
寄る辺は 心の支え 鶴女
黒人の足 近江から 湖西 越前へ
しなざかる 越への道
磯の崎 漕ぎ廻み行けば 近江の海 八十の湊に 鵠多に鳴く
《磯の崎 漕いで回ると 湖開け あちこち湊に 鶴の群鳴く》
―高市黒人―〔巻三・二七三〕
〔何処に 居ろうや 鶴女〕
かくゆゑに 見じといふものを 楽浪の 旧き都を 見せつつもとな
《そうやから 嫌や言たのに 近江京 見せたりしたら 寂しいやんか》
―高市黒人―〔巻三・三〇五〕
わが船は 比良の湊に 漕ぎ泊てむ 沖へな離り さ夜更けにけり
《夜も更けた 沖へ出らんと この船は 比良の湊で 泊まりにしょうや》
―高市黒人―〔巻三・二七四〕
率ひて 漕ぎ行く船は 高島の 阿渡の水門に 泊てにけむかも
《連れ立って 漕ぎ行った船 高島の 安曇の湊で 泊まったやろか》
―高市黒人―〔巻九・一七一八〕
己が心を 直に出さず 歌に心を通わせる
景を詠み 景を見せ 背後に 心が滲む
人恋しさ
自分恋しさの 世界
鶴女との 別れが 黒人の歌を 他の追随を許さぬ高みへと 導く
何処にか われは宿らむ 高島の 勝野の原に この日暮れなば
《日ィ暮れる 何処で泊まれば 良えんやろ 原っぱ続きの 高島勝野》
―高市黒人―〔巻三・二七五〕
加賀を抜け 雪深い 越中へ 黒人の旅は続く
婦負の野の 薄押し靡べ 降る雪に 宿借る今日し 悲しく思ほゆ
《降る雪が 薄を倒す 婦負の野で 宿を借るんは 悲してならん》
―高市黒人―〔巻十七・四〇一六〕
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