令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

黒人編(4)船泊てすらむ

2009年08月20日 | 黒人編
【掲載日:平成21年8月26日】

何処いづくにか 船泊ふなはてすらむ 安礼あれの崎
             み行きし 棚無たなな小舟をぶね

【安礼の崎 音羽川河口】


ひと月半に及んだ 三河行幸みゆきから 戻り
心知れた 従賀人じゅうがびとの 別れうたげが 持たれていた
留守居の 誉謝女王よさのおおきみ 長皇子ながのみこも 同座 
なごやかな 一時ひとときが 過ぎていた
長奥麿ながのおきまろが 座を仕切る
〔それがしの歌 一番と思うにより  真っ先の披露といたす〕 

引馬野ひくまのに にほふ榛原はりはら 入り乱れ 衣にほはせ 旅のしるしに
《引馬野の はんの林で 木にさわり 衣に色を 染めて土産に》 
                         ―長忌寸奥麿ながのいみきおきまろ―〔巻一・五七〕
〔どうじゃ なかなかのものであろう さあ 次じゃ 舎人娘子とねりのおとめ殿〕

大夫ますらをが 得物矢さつや手挿たばさみ 立ち向かひ 射る円方まとかたは 見るに清潔さやけし
的方まとかたの 海はえなあ え男 弓構えたに 清々すがすがしいて》 
                          ―舎人娘子とねりのをとめ―〔巻一・六一〕
〔これは これは 伊勢の 的方まとかた 思い出すのう さあ 誉謝女王よさのおおきみ殿〕

ながらふる 妻吹く風の 寒きに わが背の君は 独りからむ
《長い旅 ころもの端に 風吹いて 寒いあんた 一人やろか》 
                         ―誉謝女王よさのおほきみ―〔巻一・五九〕
〔おお そなたは 婚を結んで 間無しであったのう  衣のつまにことよせ 早く帰れとの 妻の吹く 溜息風ためいきかぜか〕
〔それでは ご妻女を 行幸に出された  長皇子ながのみこ殿 心境は 如何いかがかな〕

よひに逢ひて あしたおもみ なばりにか ながき妹が いほりせりけむ
《長旅を 続けたお前 名張来て ここで泊まりの 宿を取ったか》  
                         ―長皇子ながのみこ―〔巻一・六〇〕
新妻にいづまの 夜明けの恥じらい これは まいった 長皇子ながのみこ殿も 新婚で あられたか あついあつい〕 
〔ところで 黒人殿も 婚儀も近いとか  相手は誰じゃ 婚儀は何時いつじゃ〕
〔来春 早いうちに 相手は 鶴女たづめと申す〕
〔ああ 越の国から来たという 
 いつぞやの猪名野・敏馬みぬめむつまじさ 名高いぞ
 それにしても 長く待たせたものじゃ 
 無理もない 
 黒人殿 出世が いま一つであったからのう〕 
口さがない 奥麿おきまろ 黒人は 苦笑いする
〔それにしても めでたい それで 黒人殿の歌は どうした〕 

何処いづくにか 船泊ふなはてすらむ 安礼あれの崎 み行きし 棚無たなな小舟をぶね
《あの小舟 どこで泊まりを するんやろ さっき安礼崎あれさき 行ったあの舟》 
                         ―高市黒人―〔巻一・五八〕
〔これは 聞きしに勝る 暗い歌  まあ はじけるように笑う 鶴女たづめと いい取り合わせじゃ〕

ほろ酔いで 我がに戻る 黒人
思いもかけぬ 知らせが 待っていた 




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