配当が株式の価値を左右するという地位を取り戻しつつあります。先進国の4大市場のうち3市場(日本、ドイツ、英国)では現在、株式利回りが長期国債利回りを上回っています。残る米国市場では、配当利回りが20年物国債の利回りさえしのぎます。
インカムゲインを得ることに必死な投資家にとって、株式を買う理由は明確です。配当収入が増えて困る人などいるだろうか。株価は変動するかもしれないが、企業幹部は無理してでも配当を維持しようとするものです。さらに好都合なことに、配当はインフレと連動して上昇することが多く、株価は長期的に見れば上昇する傾向があります。
当たり前なのかも知れませんが、こうした株式に関する一般的な仮説は、債券や配当自体の市場で作られた仮説と矛盾します。誰かが間違っているということです。
まずは、低位に沈む債券利回りから見てみます。これは相反するシグナルを投資家に送っています。一つは、世界経済の見通しは厳しい、すなわち今後はどの資産もリターン(投資収益率)が低下すると投資家は想定しなければならないというシグナルです。もう一つのシグナルは、国債の投資妙味が相当薄れているため、代わりにリスクがもっと高い資産に投資すべきというものです。英国債は2.1%、30年物の米国債は2.6%といった具合です。
これらの水準が経済成長率とインフレ率を正確に見通しているとすれば、どちらもあと数世代は大きな上昇が望めないということになります。配当の魅力はますます高まっているようです。
とはいえ、経済成長率とインフレ率が低ければ、配当にも打撃が及びます。投資家は近い過去に基づいて物事を予想する傾向があり、その近い過去には配当が好調だったのです。米国では昨年、S&P500種指数構成企業の配当が直近の景気の山だった2007年の水準を55%上回ったものの、企業収益は29%増にとどまりました。配当はこの5年間、年13%のペースで増えています。
しかし、配当自体の市場はそうした成長を織り込んでいるわけではありません。プロ投資家のみが参加する配当スワップや配当先物では、S&P500種構成企業の配当が今後10年間は年1%の伸びにとどまり、欧州企業の配当は年間5%近く減少すると織り込まれており、欧州の配当先物は大きく下落しています。「自動償還型」として知られる仕組み商品が人気を集めた影響で大量の売りが出たためです(同商品は組成した銀行が配当リスクを引き受ける)。しかし、これを十二分に考慮した場合でも、配当の見通しはこれまでほど良くありません。
最も基本的な株価評価手段である「配当割引モデル」にとって、これはありがたくない話です。同モデルでは、将来得られる配当額を現在価値に割り引いた合計額が理論株価となる。配当の見通しが悪化すれば、それだけ株価は下がることになります。
長期的なリターンを考える上では、近い過去や配当以外の要素を考慮することが不可欠となっていて、事実、エール大学のロバート・シラー教授がまとめたデータによると、1982年7月と1901年6月の米国株価はインフレ調整後では同水準となります。この期間のリターンがインフレ率を上回ったケースはいずれも配当の再投資が原因だったのです。配当再投資の威力の大きさはよく知られていて、ロンドン・ビジネス・スクールのエルロイ・ディムソン、ポール・マーシュ、マイク・ストーントンの3教授によると、1900年に米国株を購入した投資家のキャピタルゲインは年2.1%でしたが、配当を1度再投資すれば、これが年6.4%へ拡大するのです。
1980年代に始まった長期上昇相場が定着したことで、配当の重要性は大きく低下しました。それ以降、キャピタルゲインはトータルリターン(キャピタルゲインとインカムゲインの合計)の約3分の2を占めるようになりました。
もっとも、30年間続く強気相場は債券利回りの低下が追い風となり、同じ事はもう期待できません。債券利回りは多くの市場で過去最低かその近辺を付けているからです。そのおかげで、配当利回りは債券利回りを上回るという1950年代まで維持していた地位を取り戻しました。強気相場が勢いを失うにつれ、トータルリターンに配当利回りが占める割合も再び上昇しそうです。S&P500種構成企業の配当利回りは2.2%ですが、これが示唆しているのは、将来のリターン水準は年金基金の運用利回りに多くが期待している水準よりも低くなるということです。
債券利回りが低水準にとどまる一方、配当は(比較的)高い水準を維持すると予想している投資家は株式を買っています。株式が割安だからではなく、債券よりも高いリターンが見込めるからです。投資家が配当を重視する姿勢は、株式に代わる投資先がないという見方を裏付けています。
配当の見通しが怪しくなれば、株式を買う理由はもっと怪しくなります。経済の先行きは厳しいという債券投資家の見方が正しく、配当先物も将来を正確に織り込んでいるとすれば、株式の魅力は債券に比べてかなり劣ることになります。ゴールドマン・サックスによれば、その場合でも株式の見通しはまだ債券よりも明るいが、想定外の悪材料を吸収する能力は大幅に低下するだろうと言っています。
債券市場や配当市場の織り込みが間違っていると考える投資家は、利回り目的での株式購入を正当化できるでしょう。ただこうした投資家は、過去の水準と比べて割高に見える米国株を買うより、債券を売るか配当先物を買った方が持論をうまく表現できそうです。(ソースWSJ)
インカムゲインを得ることに必死な投資家にとって、株式を買う理由は明確です。配当収入が増えて困る人などいるだろうか。株価は変動するかもしれないが、企業幹部は無理してでも配当を維持しようとするものです。さらに好都合なことに、配当はインフレと連動して上昇することが多く、株価は長期的に見れば上昇する傾向があります。
当たり前なのかも知れませんが、こうした株式に関する一般的な仮説は、債券や配当自体の市場で作られた仮説と矛盾します。誰かが間違っているということです。
まずは、低位に沈む債券利回りから見てみます。これは相反するシグナルを投資家に送っています。一つは、世界経済の見通しは厳しい、すなわち今後はどの資産もリターン(投資収益率)が低下すると投資家は想定しなければならないというシグナルです。もう一つのシグナルは、国債の投資妙味が相当薄れているため、代わりにリスクがもっと高い資産に投資すべきというものです。英国債は2.1%、30年物の米国債は2.6%といった具合です。
これらの水準が経済成長率とインフレ率を正確に見通しているとすれば、どちらもあと数世代は大きな上昇が望めないということになります。配当の魅力はますます高まっているようです。
とはいえ、経済成長率とインフレ率が低ければ、配当にも打撃が及びます。投資家は近い過去に基づいて物事を予想する傾向があり、その近い過去には配当が好調だったのです。米国では昨年、S&P500種指数構成企業の配当が直近の景気の山だった2007年の水準を55%上回ったものの、企業収益は29%増にとどまりました。配当はこの5年間、年13%のペースで増えています。
しかし、配当自体の市場はそうした成長を織り込んでいるわけではありません。プロ投資家のみが参加する配当スワップや配当先物では、S&P500種構成企業の配当が今後10年間は年1%の伸びにとどまり、欧州企業の配当は年間5%近く減少すると織り込まれており、欧州の配当先物は大きく下落しています。「自動償還型」として知られる仕組み商品が人気を集めた影響で大量の売りが出たためです(同商品は組成した銀行が配当リスクを引き受ける)。しかし、これを十二分に考慮した場合でも、配当の見通しはこれまでほど良くありません。
最も基本的な株価評価手段である「配当割引モデル」にとって、これはありがたくない話です。同モデルでは、将来得られる配当額を現在価値に割り引いた合計額が理論株価となる。配当の見通しが悪化すれば、それだけ株価は下がることになります。
長期的なリターンを考える上では、近い過去や配当以外の要素を考慮することが不可欠となっていて、事実、エール大学のロバート・シラー教授がまとめたデータによると、1982年7月と1901年6月の米国株価はインフレ調整後では同水準となります。この期間のリターンがインフレ率を上回ったケースはいずれも配当の再投資が原因だったのです。配当再投資の威力の大きさはよく知られていて、ロンドン・ビジネス・スクールのエルロイ・ディムソン、ポール・マーシュ、マイク・ストーントンの3教授によると、1900年に米国株を購入した投資家のキャピタルゲインは年2.1%でしたが、配当を1度再投資すれば、これが年6.4%へ拡大するのです。
1980年代に始まった長期上昇相場が定着したことで、配当の重要性は大きく低下しました。それ以降、キャピタルゲインはトータルリターン(キャピタルゲインとインカムゲインの合計)の約3分の2を占めるようになりました。
もっとも、30年間続く強気相場は債券利回りの低下が追い風となり、同じ事はもう期待できません。債券利回りは多くの市場で過去最低かその近辺を付けているからです。そのおかげで、配当利回りは債券利回りを上回るという1950年代まで維持していた地位を取り戻しました。強気相場が勢いを失うにつれ、トータルリターンに配当利回りが占める割合も再び上昇しそうです。S&P500種構成企業の配当利回りは2.2%ですが、これが示唆しているのは、将来のリターン水準は年金基金の運用利回りに多くが期待している水準よりも低くなるということです。
債券利回りが低水準にとどまる一方、配当は(比較的)高い水準を維持すると予想している投資家は株式を買っています。株式が割安だからではなく、債券よりも高いリターンが見込めるからです。投資家が配当を重視する姿勢は、株式に代わる投資先がないという見方を裏付けています。
配当の見通しが怪しくなれば、株式を買う理由はもっと怪しくなります。経済の先行きは厳しいという債券投資家の見方が正しく、配当先物も将来を正確に織り込んでいるとすれば、株式の魅力は債券に比べてかなり劣ることになります。ゴールドマン・サックスによれば、その場合でも株式の見通しはまだ債券よりも明るいが、想定外の悪材料を吸収する能力は大幅に低下するだろうと言っています。
債券市場や配当市場の織り込みが間違っていると考える投資家は、利回り目的での株式購入を正当化できるでしょう。ただこうした投資家は、過去の水準と比べて割高に見える米国株を買うより、債券を売るか配当先物を買った方が持論をうまく表現できそうです。(ソースWSJ)
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