★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシックLP◇リリー・クラウスのシューベルト:ピアノソナタ第16番/第13番

2024-05-13 09:44:19 | 器楽曲(ピアノ)

 

シューベルト:ピアノソナタ第16番op.42(D.845)         
       ピアノソナタ第13番op.120(D.664)

ピアノ:リリー・クラウス

発売:1976年

LP:キングレコード SQL 2023

 シューベルトは、歌曲の王と言われるほど多くの歌曲の名作を作曲しているが、このほか宗教曲、交響曲、室内楽曲、ピアノ曲でも多くの傑作を生み出した。ピアノ曲では即興曲や楽興の時、さすらい人幻想曲などがポピュラーな曲として知られているが、忘れてはならないものに21曲のピアノソナタがある。特に後期のピアノソナタは、ベートーヴェンのピアノソナタにも匹敵する名作として専門家からは高い評価を受けている。このLPレコードは、シューベルトの遺したピアノソナタのうち、ピアノソナタ第16番と第13番の2曲が収録されている。ピアノソナタ第16番は、1825年(死の3年前)に作曲され、短調と長調の調性の転調の多い4つの楽章からなっている。一方、ピアノソナタ第13番は、シューベルト21歳の1819年夏に作曲された作品。3楽章構成の小規模ソナタで、優雅な味わいがあり、愛好者も多い。このLPレコードで演奏しているリリー・クラウス(1903年―1986年)は、ハンガリー出身の名ピアニスト。 17歳でブダペスト音楽院を首席で卒業し、ウィーン音楽院に入学した。1923年、20歳の若さでウィーン音楽院の正教授に就任。1930年、クラウスはアルトゥル・シュナーベル(1882年―1951年)に師事するために夫と共にベルリンに移住した。モーツァルトやベートーヴェンの演奏で名声を得ると共に、ヴァイオリン奏者のシモン・ゴールドベルク(1909年―1993年)と室内楽の演奏・録音を行い、国際的な称賛を得た。第二次世界大戦後にイギリス国籍を取得したが、最終的に米国に定住。全盛時代、世界最高のモーツァルト弾きと言われた。今遺された録音を聴くと、表面的には、いかにも楽しく、エレガントで、聴いている人の心をうきうきと弾ませる躍動感を持っているが、一方、その内部には、情熱と哀しさを湛え、即興的な閃きがあり、聴くものに大きな感動を与える。シューベルトでは即興曲や楽興の時の録音が有名であるが、このLPレコードに収められている第13番や第16番などのピアノソナタも得意としていた。これら2つの演奏とも、リリー・クラウスの特徴がよく出ている録音と言える。軽快なピアノタッチの裏に、構成力の整った強靭な力強さが感じられる。その一方、抒情的な香しさにおいては、到底他のピアニストでは真似のできない、独特の境地に立ち至っていたことが、このLPレコードからは窺える。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン:「コリオラン」序曲/シューマン:交響曲第1番「春」(ライヴ録音盤)

2024-05-06 09:40:16 | 交響曲(シューマン)


ベートーヴェン:「コリオラン」序曲
シューマン:交響曲第1番「春」

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1951年10月29日、ミュンヘン、コングレス・ホール(ライヴ録音)

発売:1978年

LP:キングレコード(LONDON) MX 9011

 このLPレコードは、フルトヴェングラー(1886年―1954年)が遺したライヴ録音盤といういうことで大変貴重な録音であり、また、発売された当時は、新たに発掘されたフルトヴェングラーの録音であるということで、フルトヴェングラー・ファンが小躍りして喜んだLPレコードでもあったのだ。LPレコード化に際しては、バイエルン放送局のテープが使われたという。録音時の1951年は、まだ第二次世界大戦の惨禍が癒えていない時期であり、フルトヴェングラー自身、戦時中のナチとの協力関係をいろいろと疑われ、演奏禁止処分を受け、1947年にようやく無罪判決を受け、自由な身となったばかりである。そして1951年7月29日、今でも語り草となっているバイロイト音楽祭再開記念演奏会でベートーヴェンの交響曲第9番の指揮を行い、その後、10月29日に、このLPレコードに遺されている演奏会が開催されている。ベートーヴェン:「コリオラン」序曲の最初の出だしから、その異様な力強さに圧倒される。幾重にも重なって押し寄せてくる大波のようでもあり、コンサート会場全体が唸りを挙げているようにも感じられる。名指揮者と凡庸な指揮者とに違いは、そのオーケストラに如何にして統一した響きを出させるか、ということに尽きるように思われるが、このベートーヴェン:「コリオラン」序曲を演奏するウィーン・フィルから、フルトヴェングラーの棒は、一糸乱れず、しかも腹の底から湧き出すような重厚な響きを、適切なリズムを伴って引き出していることに改めて気づかされる。シューマン:交響曲第1番「春」は、もともとは、シューマン独特のロマン的情緒を伴った交響曲なのではあるが、フルトヴェングラーはそんなことには一向にお構いなしに、この交響曲に対し、ベートーヴェン的な構成力の逞しさを求める。フルトヴェングラーは、シューマンの第4交響曲の名録音も遺しているが、交響曲第1番の演奏もこれと同じく、アポロ的なものよりデモーニッシュ的な感覚が先行している演奏内容なのだ。特に、第1楽章から第4楽章にかけて徐々に深みと力強さを増していく指揮ぶりは、フルトヴェングラー以外に求めるのは、今もって不可能だ。このライヴ録音は、フルトヴェングラーの独特な視点に立ったシューマン:交響曲第1番「春」の超名演盤といっても間違いなかろう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スーク・トリオのシューベルト/メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番

2024-05-02 10:32:00 | 室内楽曲

 

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番

ピアノ三重奏:スーク・トリオ                    

         ヴァイオリン:ヨセフ・スーク          
         チェロ:ヨセフ・フッフロ          
         ピアノ:ヤン・パネンカ

LP:日本コロムビア OQ‐7045‐S

 ヨセフ・スーク(1922年―2011年)は、1950年にプラハ音楽院を卒業した2年後に、自らが中心となりスーク・トリオを結成。スークのヴァイオリン演奏は、プラハ音楽院のヴァイオリン科に流れる、ボヘミアの弦の長年の伝統に裏付けられた、しっとりとした音色と端正な形式美に特徴を持ち、これがそのままスーク・トリオの演奏の特徴ともなっていた。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年―2009年)は、1959年にメキシコで行われたカザルス国際チェロ・コンクールの優勝者であり、安定感のある浪々としたチェロの音に特色があった。ピアノのヤン・パネンカ(1931年―1999年)は、チェコで行われたスメタナ・コンクールで優勝、そのピアノ演奏は、しっかりとしたピアノタッチに加え、美しい詩情を湛えていた。この3人は、ほぼ同世代の演奏家であり、その意味からも互いに気心が知れ合い、そのため、淀みのない、流麗な音のつくりが実現でき、当時、その演奏内容は、他のピアノ・トリオでは得られないものとして高く評価されていた。シューベルトは、ピアノ三重奏曲を2曲作曲しているが、このLPレコードでは、明るく軽快な曲想が広く一般に親しまれている第1番が収録されている。この第1番は1827年に作曲され、作曲された当時は歌曲集「冬の旅」や3曲のピアノソナタ(第19番、第20番、第21番)が生み出された時期でもあった。公開初演は同年の12月26日、シュパンツィヒ四重奏団員によってウィーンの楽友協会で行なわれた。初版譜は1836年にウィーンのディアベッリ社から出版された。一方、メンデルスゾーンもピアノ三重奏曲を2曲残しており、このLPレコードではピアノ三重奏曲の屈指の名曲として有名な第1番が収録されている。この第1番は1839年9月23日に完成し、この時はメンデルスゾーン自身がピアノ、ヴァイオリンは友人のフェルディナンド・ダヴィッドが担当した。この曲を聴いたシューマンは「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」だと評したという。このLPレコードでのスーク・トリオの演奏は、スークの伸びやかで優雅なヴァイオリン、ヤン・パネンカの軽快で澄んだピアノ、それにヨセフ・フッフロの大きな広がりをもったチェロと、3人の奏者の息がぴたりと合っている。これら2曲のピアノ三重奏の名曲を、LPレコードの持つ柔らかな音色により、心ゆくまで堪能することができる。(LPC)

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