★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ケンプが弾くブラームス晩年の3つのピアノ小品集

2023-02-16 11:21:46 | 器楽曲(ピアノ)

ブラームス:3つのインテルメッツォ op.117
      6つのピアノ小品 op.118
       4つのピアノ小品 op.119

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

LP:日本グラモフォン SLGM‐1271

 ブラームスは晩年に、数多くのピアノ小品を残している。このLPレコードには、1892年に書かれた「3つのインテルメッツォ op.117」「6つのピアノ小品 op.118」「4つのピアノ小品 op.119」の3つのピアノ小品集が収められている。これらの曲は、いずれも寂寥さや諦観といった、ブラームスが人生の最後に行き着いた枯淡の境地が切々と綴られている。ベートーヴェンは、人生の最後までピアノソナタの大曲を作曲し続け、正に死ぬまでピアノと格闘したたわけであるが、ブラームスはこれとは全く逆に、ピアノに語りかけるように自らの心情を吐露し、独白的で瞑想的なピアノの小品を作曲した。ブラームス自身、晩年に作曲したこれらのピアノの小品を“自分の苦悩の子守歌”であると語っていたという。このLPレコードの3つのピアノ小品集は、そんなブラームスの晩年の心情を綴ったものだけに、静謐で深遠な内容は、他に較べようもないピアノ作品に仕上がっている。人生の淵に佇んで、これまで来た歩みを一つ一つ思い起こしているようでもある。これまで歩んできた自分の人生を一人で振り返りたいとき、深夜、一人で聴くことによってこそ、この曲の真価が光り輝くのだと私は思う。演奏しているのは、ドイツの名ピアニストであり、このLPレコードのジャケットに「来日記念盤」という副題が付けられていることからも分る通り、わが国へも度々来日し、ファンも多かったウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)である。ケンプの演奏は正統的でしかも誠実そのものであり、ブラームスの晩年のピアノ小品を弾くのには、今でもケンプをおいて他にいないと私は考えている。ケンプは、ドイツのブランデンブルク州の出身。幼時よりピアノ、オルガンを学び、卓越した才能を示した。ベルリン音楽大学で学び、1917年にはピアノ組曲の作曲によりメンデルスゾーン賞を受賞。つまり、若かりし頃のケンプは、ピアノのほか、オルガンを弾き、作曲にも才能を開花させた。シュトゥットガルト音楽大学の学長を務め、1932年にはベルリンのプロイセン芸術協会の正会員になるなど、ドイツ楽壇の中心的役割を担うようになる。第二次世界大戦後は、ピアニストとしての活動に専念する。ケンプの演奏スタイルは、1950年代の技巧と解釈が高度に均衡した録音に比べて、1960年代以降は、よりファンタジーに富んだ自由闊達なものとなり、現在多くの人がケンプの演奏を評するとき、この晩年のスタイルを差して、技巧よりも精神性を重視する演奏家とみなしている。ベートーヴェンのピアノ協奏曲が2種類、ピアノソナタの全集が4種類の録音を残している。ケンプは、1936年の初来日以来、合計10回も来日した大の親日家でもあった。1954年には広島平和記念聖堂でのオルガン除幕式に伴い録音を行い、被爆者のために売り上げを全額寄付している。1970年にはベートーヴェン生誕200周年記念で来日し、ピアノソナタおよびピアノ協奏曲の全曲演奏会を行った。(LPC)


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