★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン&ベルリン・フィルのベートーヴェン:交響曲第4番/第8番

2021-05-03 09:48:50 | 交響曲(ベートーヴェン)

ベートーヴェン:交響曲第4番/第8番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1962年1月23日(第8番)、3月14日(第4番)、11月9日(第4番)、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE 7812(ドイツグラモフォン MG4003)

 ベートーヴェン:交響曲第4番は、1806年に短時間でつくられた交響曲だ。第1番や第2番に近い性格の曲で、シューマンは、「二人の北国の巨人(第3番と第5番)に挟まれたギリシャ娘のよう」と言ったと伝えられている。古典的な形式を持ちながら、豊かな情緒も併せ持ったロマンチックな優美さが特徴の曲だ。一方、第8番は、1812年5月から書き始め、リンツに滞在中の10月に完成させた。ベートーヴェン自身、「第7番を大交響曲と呼び、第8番を小交響曲」と呼んでいたということでも分かる通り、コンパクトで幸福感の漲った作品だ。演奏は、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルである。この録音がなされたとき、カラヤン(1908年―1989年)はどのような状況にあったのであろうか。1954年、ドイツ音楽界に君臨していたフルトヴェングラーが急逝し、カラヤンは、翌1955年にベルリン・フィルの終身首席指揮者兼芸術総監督の地位に就任している。さらに1956年にはウィーン国立歌劇場の芸術監督に就任したことからカラヤンは“帝王”と呼ばれるようになって行った。そして1965年には前人未踏のクラシック音楽の映像化事業にも着手している。つまり、このLPレコードの録音が行われた頃カラヤンは、その絶頂期にあったわけである。まず、ベートーヴェン:交響曲第4番。ここでのカラヤンの指揮ぶりは、カラヤンの特徴である絢爛豪華で歯切れの良く、テンポを早めに取った、鉄骨を思わせるような、お得意のスタイルを披露し、万人が納得する音づくりを徹底する。そこにはディレッタント(趣味人)的な要素を少しも差し挟まない。このような姿勢は、どこから来るのか。私は最近、このようなカラヤンの演奏スタイルは、クラシック音楽の行きずまりを何とか解決したいというカラヤンの意識がそうさせたのではないかと思えてならない。20世紀に至るまではクラシック音楽は、音楽の王者として君臨することができた。ところが20世紀に入り、ジャズをはじめ、ポピュラー音楽が大衆の人気を博し、クラシック音楽の相対的な凋落が見え始めてきた。カラヤンは、そのことをいち早く嗅ぎ取り、クラシック音楽からディレッタント的要素の排除に向かったのではないのか。一般的に第4番は情緒たっぷりに演奏されるが、カラヤンはそんなことは一切お構いなしに、第4番という曲の骨格を客観的に表現する。一方、ベートーヴェン:交響曲第8番の演奏は、そんなカラヤンの音づくりの傾向と曲自体とがぴたりと合い、万人を納得させる演奏内容となっている。第8番の躍動感溢れるベートーヴェンの楽想が、カラヤンの指揮で生き生きと蘇る。やはりカラヤンは“永遠のスター”なのだ。(LPC) 

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