★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリング&アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団のブラームス:ヴァイオリン協奏曲

2021-05-06 09:42:47 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:アンタル・ドラティ

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1975年

LP:日本フォノグラム フィリップスレコード

 このLPレコードでヴァイオリン演奏をしているのは、ポーランド出身のヘンリック・シェリング(1918年―1988年)である。7歳の時に同郷の大ヴァイオリニストのフーベルマンに見いだされ、その紹介でカール・フレッシュの下で学び、パリに出てティボーとブーランジェに師事した。同時にソルボンヌ大学で人類学を専攻している。第二次世界大戦後、メキシコ市立大学に音楽部が創設されることになり、シェリングは招かれ、教師としての道を歩み始める。1946年には、メキシコの市民権を獲得し、同地に永住することになると同時に、以後、世界的な名ヴァイオリニストとして、世界各国での演奏会活動を展開することになる。1964年には、初来日も果たしている。シェリングは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲について3つの録音を遺している。1958年にモントゥーと、1962年にドラティーと、1973年にハイティンクと共演したのがそれらである。このLPレコードは、1962年にドラティーと共演した2番目の録音に当たる。ブラームス:ヴァイオリン協奏曲は、ブラームスが、あたかも交響曲のようなヴァイオリン協奏曲を目指して作曲した作品で、このため最初は4楽章形式で構想され、最終的には協奏曲のスタンダードである3楽章に修正されたという経緯がある。このため、この曲では、スケールを大きく取ったヴァイオリン演奏が求められる。第1楽章は、シェリングはあまり力まず、悠然としたテンポで弾き進む。音色も優美な香りを漂わせ、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の美的要素を最大限に追い求めているようでもある。しかもその姿勢は、繊細な美しさというより、骨太な美しさを、極限まで追求するかのようである。第2楽章に入ると、この傾向は、ますます強まる。テンポは非常にゆっくりと取り、アンタル・ドラティ(1906年―1988年)の伴奏も自然の流れの中に身を漂わす風情がある。何か、武骨なブラームスの世界というより、幻想的なシューマンの世界に近いのではとさえ思わせるほど。この辺は、リスナーの好みで、その評価は分かれよう。第3楽章は、歯切れの良いヴァイオリンの響きがリスナーに伝わり、心地よい。しかし、シェリングの、この曲から美しいヴァイオリンの響きを発信させようようという姿勢は一貫して変わらない。そして、シェリングの真摯なヴァイオリン演奏のスタイルが、このブラームス:ヴァイオリン協奏曲のLPレコードにおいても、シェリングの特徴が如何なく発揮されているのである。(LPC)

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