モーツァルト:ピアノソナタ第17番
ロンド K.485
ピアノソナタ第18番
ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュ)
録音:1974年1~2月、イイノホール
発売:1976年11月
LP:日本コロムビア OX‐7058‐ND
このLPレコードは、若き日のピリスが来日し、東京のイイノホールで録音したもので、日本で制作されたLPレコードとして、初めて海外での賞である1977/1976年度の「ADFディスク大賞」を受賞した記念すべきものである。ピリス(1944年生まれ)は、ポルトガル出身のピアニスト。16歳の時、リスボンのリスト・コンクールで第1位。リスボン音楽院を首席で卒業。その後、ハノーヴァーでカール・エンゲルに師事。1970年、ブリュッセルのベートーヴェン生誕200周年記念コンクールで第1位。1986年にロンドン、さらに1989年にニューヨークでそれぞれデビューを果たす。1990年モーツァルトのピアノ・ソナタ集の録音により、国際ディスク・グランプリ大賞CD部門を受賞している。2017年、ピリスは現役は引退し、以降は後進の育成に努めることを表明した。最初の曲、ピアノソナタ第17番は、1789年2月に書かれた。その頃は、三大交響曲に取り組んだ後であることもあり、モーツァルトの作品が少ない時期に当たる。このソナタは、モーツァルト晩年の簡素で、澄明で、しかも骨組みのがっちりしたスタイルを予示した作品となっている。次の曲、ロンド K.485は、1786年のはじめにウィーンで作曲された、明るい曲調の作品。一つの主題を中心としているため、一種の変奏曲風の作品と考えられ、正規のロンド形式に基づいているものではない。最後の曲、ピアノソナタ第18番は、モーツァルトが1789年4月から6月にかけて、北ドイツの旅へ出たあとに書かれた作品で、古風な対位法作法と新しい和声の融合の試みがなされているのが特徴だ。ピアノソナタ第17番でのピリスの演奏は、透明感のある躍動美が印象に残る。モーツァルトが晩年になって到達した、清明な音楽の世界が余すところなく披露され、リスナーは、若々しく、その余りにも純粋な美しいピアノタッチに、知らず知らずのうちにピリスの下へと引き寄せられてしまうようだ。ロンド K.485は、変奏曲風の明るい曲調の作品で、ここでのピリスの演奏は、屈託のない子供のように素直に曲に向かう。如何にモーツァルトらしい無邪気さが前面に立った演奏内容で好感が持てる。最後のピアノソナタ第18番のピリスの演奏は、がっちりとした構成美に貫かれた曲想を、力強く弾きこなす。しかし、そこには如何にもピリスらしい美感が存分に盛り込められており、ピリスでしか表せない限りなく透明で美しい世界が広がる。特に第2楽章の愁いを帯びたその演奏には、晩年のモーツァルトが到達した枯淡の心境がしっかりと刻まれている。(LPC)