★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇リリー・クラウスのシューベルト:即興曲op.90&op.142

2021-05-17 09:40:06 | 器楽曲(ピアノ)

シューベルト:4つの即興曲(第1番~第4番)op.90(D.899)
       4つの即興曲(第1番~第4番)op.142(D.935)

ピアノ:リリー・クラウス

発売:1976年

LP:キングレコード SOL 2025

 シューベルトのピアノ独奏曲としては、楽興の時やピアノソナタなどが遺されているが、中でも今回のLPレコードに収録されているop.90(D.899)とop.142(D.935)の全部で8曲の即興曲は、その白眉と言っても過言でないほどの完成度の高い作品と言える。限りなく美しい旋律と即興的な感興の高まりをピアノという楽器の美しさを最大限に引き出した天才ならではの作品といえよう。op.90の第1番(アレグロ・モルト・モデラート)は、全曲が寂しい孤独な一つのメロディーが何回も繰り返される。第2番(アレグロ)は、3部形式の曲で、8曲の中で最も美しい曲。第3番(アンダンテ)は、ノクターンのような抒情的な曲。第4番(アレグレット)は、これも3部形式の曲で、単独でも演奏される8曲の即興曲の中でもポピュラーな曲。一方、op.142の第1番(アレグロ・モデラート)は、悲劇的な要素と優しい慰めが交錯する曲。第2番(アレグレット)は、3部形式で書かれた愛と祈りの曲。第3番(アンダンテ)は、自作の音楽劇「ロザムンデ」から主題を取り、それに5つの変奏をつづけた曲。第4番(アレグロ・スケルツァンド)は、3部形式のシューベルト独特の転調の妙に彩られた展開を見せる曲。このLPレコードでこれら8つの即興曲を弾いてるのは、女流ピアニストのリリー・クラウス(1903年―1986年)である。ハンガリー・ブダペスト出身で17歳でブダペスト音楽院に進み、さらに、ウィーン音楽院でアルトゥル・シュナーベルに師事する。モーツァルトの専門家として知名度を上げると同時に、ヴァイオリン奏者のシモン・ゴールドベルクと共演して室内楽でも活躍。第二次世界大戦後は、米国に定住して演奏活動と後輩の指導に当たった。女流ピアニスト特有の優しさに加え、凛とした躍動感に溢れた演奏をすることで、他の追随を許さない存在であった。モーツアルトを最も得意としていたが、バッハ、ハイドン、シューベルトなどの演奏にも定評があった。中でもこの8つのシューベルトの即興曲の演奏内容は、人生の歓びと哀しみをしみじみと聴かせ、独自の演奏スタイル確立させている。このLPレコードの録音は、永遠不滅の演奏として、後世に長く聴かれ続けることになることを疑う者は誰もいないであろうと思われるほど、格調が高く、しかも説得力のあるものとなっている。まるで鍵盤から宝石が零れ落ちるような流麗な演奏内容だ。それも、単に美しいというだけではなく、哀愁をかすかに漂わすところが、これらの曲を何倍にも深みのあるものにしている。(LPC)

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