玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

日本のイナゴは優しいイナゴ

2007年02月23日 | ネット・ブログ論
「ネットイナゴ」という文字が新聞に載ったのはこれが初めてかもしれない。

「ネット右翼」というより「ネットイナゴ」か|IT|経済|Sankei WEB
 ネットにはマスメディアに対する不信が充満している。小紙をはじめこのところメディア各社で相次いだ不祥事は、その傾向にますます拍車をかけた格好だ。

 その一方で、メディア側からの反撃と言うべきか、ネットの「闇」に焦点を当てた記事の増加も目立つ。いくつかの「炎上」や「祭り」は事件として取り上げられ、「匿名 群がる悪意」「ネット右翼」といった見出しが紙面に躍った。

 ただこれらの批判は、ネットでは今ひとつピントの外れたものとしてとらえられているようだ。取材の一面性、結論先にありき臭…反論はさまざまだが、要は悪でも善でもない事件の扱い方が不得手という、メディアの切り口への不満があるのは間違いない。

 硬直した構図に当てはめて描かれる分析は、取り上げた現象が悪意か善意か、右か左かという表層に気を取られ、「祭り」は「集団リンチ」あるいは「美談」に単純化される。原因の分析としては、上滑りしている感は否めない。

 昨年あたりから、「祭り」に群れ集う人々に対して「ネットイナゴ」なる言葉が用いられるようになったが、「ネット右翼」として若者の右傾化に関連付ける議論よりは、よほど適当な表現に思える。イナゴには悪意も善意もない。あるのはただ食欲のみだ。ネット界のイナゴも、「祭り」を消費せんとする貪欲(どんよく)な食欲こそ本質だろう。「事件」の枠を超え、こういうある種自然現象的に考える視点があれば、批判もより的を射たものになったかもしれない。

 もっとも、個人的にこうしたイナゴが好きかどうかは、また別の問題だ。かつて食料の強制徴発という悪癖を持った中国大陸の日本軍をくさすのに、「皇軍」をもじった「蝗軍」という言葉があったが、たとえば右方面の祭りで騒ぐイナゴ諸氏には、この称号を進呈してみたい誘惑に駆られるけれど。(磨)

ネットイナゴという言葉はこれまでマスコミで多く使われてきた「ネット右翼」という政治的立ち位置による分類よりも「付和雷同性・群集心理」に注目したものだ。こちらのほうがネット上の「祭り」「ブログ炎上」のメカニズムを分析する上でより適切に思える。 元アナウンサーのブログ炎上のときは「性犯罪における女性被害者の自己責任を問う」保守的な意見が批判された。この場合「右翼・左翼」でいえば元アナウンサーが「右翼」側で批判側は「左翼」に近い。
さらに元・産経新聞政治部長のブログが炎上したときはモーニング娘。の「。」の是非や彼女たちの歌や踊りがうまいか下手かといったことが問題にされた。まったく政治とは関係ない。もし「産経新聞の政治部長だった花岡氏を攻撃するのは左翼に決まってる、花岡ブログを荒らしたのはネット左翼だ」などというものがいるとしたら(いないけど)馬鹿である。

ところで、Wikipediaによれば日本の田畑に住み地域によって佃煮にされたりするイナゴは、中国やアフリカで大規模な蝗害を起こすイナゴとは別の虫なのだそうだ。

イナゴ - Wikipedia
漢語の「蝗」は、日本で呼ばれるイナゴを指すのではなく、トノサマバッタやサバクトビバッタなど限られた種のバッタが大量発生などにより相変異を起こして群生相となったものを指し、これが大群をなして集団移動する現象を飛蝗、これによる害を蝗害と呼ぶ。日本ではトノサマバッタが蝗、即ち群生相となる能力を持つが、日本列島の地理的条件や自然環境では殆どこの現象を見ることはない。わずかに明治時代、北海道開拓に伴う資源環境の破壊により起きたもの、1986年に鹿児島県の馬毛島で起きたものなどが知られるくらいである。

日本人にとって殆ど実体験のない「蝗」が漢籍により日本に紹介されたときに、誤解により「いなご」の和訓が与えられ、またウンカやいもち病による稲の大害に対して「蝗害」の語が当てられた。

蝗害 - Wikipedia
蝗害(こうがい)とは、トノサマバッタなど、相変異 (動物)を起こす一部のバッタ類の大量発生による災害のこと。日本での発生は稀なため、漢語の「蝗」に誤って「いなご」の訓があてられたが、日本で水田に生息し、食用になる分類学上のイナゴ類がこの現象を起こすことはない。

ちょっとびっくり。日本のイナゴは優しいイナゴなのか。
虫のイナゴと「ネットイナゴ」はもちろん別物だけれど、そこを無理やり当てはめて見立てると

「日本の自然環境では殆どこの現象を見ることはない」はずの蝗害がネットでしょっちゅう起きるのはマスコミによる情報操作(情報環境破壊)への反発が原因の一つである

ということになるのかも知れない。