チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

高野史緒『グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行』

2023年12月16日 21時12分47秒 | 日記
高野史緒「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」(Amazon Kindle Single)は、のちの『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行』(早川書房刊)に組み込まれる短篇(中篇?)なんだろうと、私、勝手に思い込んでいまして、プライム会員になったのを機に読んでみました。※
で、読後いろいろ検索していて、実は本篇、出版された長篇とは全く別の、とは繋がりがないという意味ですが、独立作品であると知った。
つまり本篇をもとに長篇化がなされたのでも、もともと長篇の構想があり、そこから部分を切り出したものでもないということです。
これはよくわかります。
ある一箇の原アイデアが無から生じ、それをいろいろ転がしているうちに、複数の、互いに別の物語が、そこから同時発生的に脳内に展開されていくことは、ある意味よくある話のような気がします。
不肖わたくしも、『チャチャヤングショートショートマガジン』用に『北西航路』掲載の習作を新たな視点で書き直していたのですが(これがすでに別物語化なのですが)、そこからまた別の物語が脳内で並行進行始めてしまい、さてどっちを採用するものか、と考えているうちに、そんなことをしている状態ではなくなってしまったのは、ご存知のとおりです。
さて本篇ですが、史的事実としては、世界一周飛行中に土浦に舞い降りたグラーフツェッペリン号ですが、何の問題も起きず、無事アメリカに向けて出発しています。
ところが、主人公とその従兄の二人、そしてその祖母には、ツ号が土浦で墜落したというかすかな記憶があった。主人公の場合は子供時代に現実に見た(時間的には合わない)という記憶。
そこまで読んで、私は当然ながら、眉村的な並行世界を思い浮かべてしまったのですが、それはそれとしてこのモチーフ、光瀬さんにもあるんですね。敗戦直前、B29がどんどん関東に飛来してくるのですが、光瀬作品の主人公は、史的事実としてはありえないB29の襲来を記憶しているのです(これ、あとがきで光瀬さん自身自分の記憶だと仰言っています)。
いやまあ、どっちがどっちとか言いたいわけではないですよ。ちょっと知ったかぶりしたかったしただけです(>おい)
後半は、夢中の出来事のような感じで、異世界(ツ号が墜落した世界)との間を痙攣的に行ったり来たりする展開(とは、眉村に毒された私の解釈)になっていきますが、ここにいたって、また新たに思い浮かんできたのが西秋生なのです。
つまり西秋生が好んで描いた、郷愁の風景。
本篇には、SF的な(あるいはミステリ的な)意味での謎解明も解釈もありませんが、そっちは些事で、郷愁の風景がたいへんよかった。
長篇はどうもぜんぜん違うみたいで、そっちも読んでみたい。まあいまは無理ですが。


※なにしろ月額600円なので使い倒さなければなりません

コメント
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