ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

『若冲』

2015-08-04 | 読むこと。
この暑さにめげて、一ヶ月ほど本のレビューを書きかけのままほったらかしておりました
週末アップしようとパソコンの前に座ったのだけれど・・・なんと最高気温が37.4度!
いつもなら風が通って涼しいリビングも、風がなくて湿度も高い。
今日も最高気温は36度。あ、暑いよ~~~




   ・・・     ・・・     ・・・








作者の澤田瞳子さんは『孤鷹の天』()以来のファンで、これまでに『満つる月の如し』、
『日輪の賦』(*)など主に奈良時代を舞台にした作品を読んできました。
どれも、新しい時代をつくろうとする真っ直ぐな若者を描いたものです。

で、今回その作者が若冲を取り上げたとあっては読まないわけにいきません。
図書館は予約待ちだったので、思わずAmazonでポチ。


伊藤若冲といえば、言わずと知れた江戸時代の京の絵師。
本の表紙になっている、色鮮やかで綿密に描かれた鶏の絵をご存知の方も多いのではないでしょうか。
以前、若冲と江戸絵画展()を見に行ったことがありますが、
鮮やかな色使いや図柄の斬新さに、これが江戸時代に描かれた絵!?と驚いたものです。
その若冲が、なぜあのような奇矯な描くようになったのか。
この作品では史料をもとに、作者独自の視点で若冲の人柄や人生を描いています。

また、若冲以外にも当時の京の絵師たちが登場したり、屏風祭りと言われた祇園祭や、天明の大火など
その時代の様子が丹念に描かれ、その時代の息遣いがいきいきと感じられる作品となっています。
それらの出来事が若冲の転機となるきっかけになったりと、史実とうまくリンクしているので、
どこまでが事実でどこからが作者の想像なのか、私のような素人には全くわかりません。
数少ない史料をもとに、まるで謎解きのようにピースをひとつずつ繋ぎ合わせ、若冲という人物を
作り上げていった作者の力量はすごいと思います。

作品は若冲の40代から亡くなるまでの出来事を、彼の作品と関連させた八つの連作で構成されていますが、
若冲と彼を憎む義弟の弁蔵、語り手である腹違いの妹お志乃を中心に、池大雅や与謝蕪村などの
京の絵師、ひとくせもふたくせもある幕府の役人などが登場し、ひとつひとつのエピソードが
ドラマティックに語られていきます。
そしてその中に描かれる若冲の絵の描写がこれまたすごい。
若冲の内面と、その絵を描くに至った背景が描かれているので(これは作者の想像なのでしょうが)、
ネットで絵を検索しながら、ここに出てくるのはこの絵か~、なるほど~、と感心しながら読み進めていきました。

彼がなんのために絵を描いているのか、そもそも絵とは何なのか、を、それぞれの
登場人物たちに語らせる場面はとても迫力がありました。
また、若冲の絵か真偽のわからない作品のことや、なぜ長い間忘れられていた若冲の絵が
近年ブレイクしたのかなどにも、作者なりの考えが書かれています。


「・・・絵というもんはすべからく人の世を写し、見る者の目を楽しませるもの。
けどお前の作は自分の胸の裡を吐露し、己が見たくないものから目をそむけるためのもんやろが」


そう言い放つ媼に若冲は尋ねます。
それならなぜ世の中にはこんな自分の絵を求める人がいるのかと。

「それはそいつらが、お前の絵の奇抜さや彩りの華やかさに眼を奪われ、絵のまことを見てへんからやわ」

そして二百年か三百年か後には、

「ふん、その頃にはおぬしの絵なぞ、世人より忘れ去られておろうよ。もっとも千年も時が流れ、
人が野の草花や生きることの美しさに気付かず、ただ他人を妬み、己の弱さに耽溺するばかりの世となれば、
また違うかもしれぬがのう」


なかなか手厳しいお婆さんです。
しかし、そこから若冲は千年先に残せるような絵「鳥獣花木図屏風」を描くのです。

かと思えば、元は江戸の勘定所で切れ者として働き今はおちぶれた役人が、
若冲が描いたという屏風を、義弟弁蔵が描いた贋作だと気づきこう言います。

「それがしは絵とは、人の世が如何様に移り変わっとて、一分たりとも姿を変ぜぬまま、
そこにあるものと信じておりました。」
「いかに世が推移したとて、絵は決して姿を変じませぬ。描き手である画人が没しようと、
それを描かせた大名が改易になろうと、美しき絵はただひたすらそこにあり、大勢の人々を
魅了いたしましょう。ならばその世々不滅の輝きを守ることこそが、儚く変ずる世に生きる者の
務めではございますまいか」


そして、姉を自殺に追い込んだ若冲を許さなかった義弟弁蔵も、最後には若冲の絵を認めて言うのです。

「・・・わしはやっと分かったんどす。若冲はんの絵は、わしら生きてる人の心と同じなんやないやろか、と」
「美しいがゆえに醜く、醜いがゆえに美しい、そないな人の心によう似てますのや。
そやから世間のお人はみな知らず知らず、若冲はんの絵に心惹かれはるんやないですやろか」



ふーむ・・・
もう一度、じっくり若冲の絵を見てみたくなりました。
実を言うと、この作品の若冲と、私が抱いていた若冲のイメージが全く違うのです。
それと、若冲を憎む義弟の弁蔵が、わずか4年で若冲の絵の贋作を描けるほど絵が上達するのか?
という点も違和感を感じたのですが・・・
今度図書館へ行く機会があったら、作品集を探してみよう。
この本を読んでから見たら、また違った印象を受けるかもしれませんね。


ところで、今年の芥川賞では又吉さんの『花火』ばかりが注目を浴びましたが、実はこの『若冲』も
候補にあがっていたんですよね。
歴史を専門に研究された方だけあって、その時代や人々をいきいきと描く作家さんです。
(お母さまは時代小説を書かれる澤田ふじ子さん)
歴史ものが大好きな私としては、今後もおもしろい作品をぜひ期待したいと思います!



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2 コメント

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Unknown (まつかぜ)
2015-08-26 10:59:14
くっちゃ寝さん、こんにちは。

ずっと この本(くっちゃ寝さんのレビュー)の事が気になっていました。
若冲 ですからね!
連日の猛暑に加え、心乱れる事多し(苦笑)でしたが、やっと読ませていただきました・汗
恥ずかしながら、澤田瞳子さんの作品は読んだ事が無いのですが、この『若冲』からはじめてみたいと思います。
抜き書きされた、作中の言葉のそれぞれが 一つ一つ胸に引っかかって 気になって仕方ありません・笑

この夏は、残暑も厳しいとか…(予報が外れますように~) 
くっちゃ寝さん、どうぞ健やかで♪
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まつかぜさん (くっちゃ寝)
2015-08-27 14:29:44
こんにちは。

猛暑は一段落したようですが、暑さ疲れしたのかなんとなく気合が入りません。
いつもなら読書で暑さを紛らわすのに、集中できないというか・・・
東京は少し涼しくなってきたとのこと。
この作品は、じっくり読む秋の読書におススメの1冊ですよ~

残暑・・・嫌な言葉ですね~
涼しくなったら動き出さねば、と思っております(笑)
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