蒲田耕二の発言

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『たいこどんどん』

2016-10-18 | ステージ

これ、井上ひさしが前進座のために書き下ろした戯曲だと思い込んでいた。それくらいこの劇団になじんでいる、ていうか、劇団初演時に主演した故・中村梅之助丈の印象が強いってことなんだろうな。

いまネットで調べてみたら、井上がこれを発表したのは1975年のことで、前進座の初上演の12年前。元ネタの小説はもっと前の作らしい。つまり、どっちかというと若書きの作品だ。

そのせいか、後年の『國語元年』の緻密さとも『父と暮せば』の繊細な味わいとも違い、率直で豪快な展開で見せる。年代の近い『日の浦姫物語』を連想させるセリフも出てくるが、あれほど入り組んだ構成ではない。大筋はあくまで、肩の凝らないコメディである。

幕末、大店の若旦那と吉原の幇間の二人が運命のいたずらで東北各地を放浪する物語。若旦那の方は、江戸芝居の定番のカネと力のない色男の典型で、比較的に単純な性格設定だから、まあ歌舞伎の基本を身につけた二枚目役者なら、演じるのはさほど難しくないだろう。

しかしタイコ持ちの方は大変だ。序盤の情けない提灯持ちからやがて旦那に売られて恨み骨髄の復讐鬼になり、だが再会すれば情に負け、最後は戦友的同志感情で結ばれる。感情心情の起伏が激しいにもかかわらず、喜劇の洒落気を失ってはならない。その上、お座敷芸の披露まで要求される。

これを若手注目株の筆頭、中嶋宏太郎が演じている。梅之助の名演を覚えている客が多いから大変だろうと思うが、なかなかの健闘だ。全幕を通じて楽天的な軽妙さをうまく表現している。劇中で披露する富本節も見事な喉。随分と練習したことだろう。

ただ、梅之助だと、言葉遊びも幇間芸もサラリと体の中から湧いて出てくるような闊達さがあった。そこが宏太郎はまだ、努力している気配がある。場数を踏めば、もっとほぐれるだろうけど。

劇中、年増の女性キャラはどれもふてぶてしく、アッケラカンと悪事をやってのける。あまりに悪びれないので笑いを誘われるほどだ。これら悪婆役を一手に引き受ける北澤知奈美が実に達者で痛快なのだが、キャラごとの違いがはっきりしないため、似たようなエピソードのくり返しに見えてしまうデメリットもある。

ミュージカル仕立ての芝居だが、いずみたく作曲の音楽は独創的なひらめきに乏しく、とりたてて印象的ではない。そして前進座の歌とダンスのレベルは、もう一つのレパートリー劇団、四季に遠く及ばない。本業じゃないんだから無理もないが。

しかし三越劇場って久しぶりに行ったが、独特の雰囲気があって、やっぱりいい小屋だね。三越本店の建物が持つ古雅な風格を劇場も引き継いでいて、必ずしも覚えていたくはない現実をいっとき忘れさせてくれました。

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