最近各所で話題になっていたJBpressの記事。
中国軍ミサイルの「第一波飽和攻撃」で日本は壊滅
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36856
上記事の趣旨をまとめると、
世間的には弾道ミサイルばかりが取り沙汰されているが、実質的な脅威はもっと安価な巡航ミサイルである。
中国軍が大量に保有する巡航ミサイルを数百発と大量に発射されてしまえば自衛隊のPAC3等の配備数では防衛が追いつかず、
その飽和攻撃により原発やその他重要施設に大打撃を食らってしまう。
それを抑止するにはこちらも巡航ミサイルなどを保有し「報復的抑止」を実施すべきである。
というもの。
この記事がアップされた日から各所で話題にされ賛否両論だが、
俺としてはその趣旨自体には同感とするところがありつつも、
しかしこの記者は巡航ミサイルの迎撃法について少し知らない部分があり、
そのせいで巡航ミサイルの脅威を必要以上に増幅しているところがある。
まず巡航ミサイルの特性は射程距離が長く安価で命中率も高いこと。
これについては記者自身も理解しており、確かに何百発も発射され飽和攻撃されると厳しい。
しかし巡航ミサイルの脅威に備えるのはイージス艦やPAC3だけではない。
巡航ミサイルはほとんど爆弾付き航空機のような特性を有しており、
曲がったり迂回したり高度を上下したり様々なコースを取れるので、
確かに自在にコースを設定できるこの兵器に対して、
少数のイージス艦やPAC3だけでは心もとない。
しかし巡航ミサイルへの警戒の主力はイージス艦ではなく、早期警戒機である。
早期警戒機とは大型レーダー付きの航空機で、AEW機、さらに管制機能等の処理能力が高いものはAWACSなどと呼ばれる。
これを高空に浮かべておくと半径数百kmという広範囲の飛行物体を探知でき、
接近する巡航ミサイルなどを捕捉すると、戦闘機部隊に通達し迎撃させるといった手段が普通である。
通常の巡航ミサイル自体は低速で、音速以下であるので旅客機と大差ない。(一部には超音速ミサイルもあるが)
また海面スレスレを飛行するなどである程度レーダーに対して被発見率を下げる手段を採られるとしても、
長距離を飛行するなら攻撃段階に入るまでは巡航高度を取っていると思われ、(高空を飛行したほうが空気抵抗が薄く燃料が節約できる。)
つまり陸地に達するよりも何百kmか沖合で容易に巡航ミサイルを捕捉、戦闘機で撃墜することはそう困難な技術ではない。
確かに何百発も一方的に撃たれてしまえば全弾撃墜といったことは難しくなってくるが、
しかし記事中に書かれている「巡航ミサイル200発も撃たれてしまえば"甘く見積もって"100~150発が着弾する」といったような比率は、
日本のように高度な防空体制を敷いている国に対してそこまで攻撃確度が高いものではないので現実的ではないと思われる。
なのでJBpressの記事は巡航ミサイルの脅威を増幅させているので全てが正しくはない。
しかしこの記事も全くの的外ればかりではなく、記者の言葉で言う「報復的抑止」は重要であると、俺自身も長年感じている。
現在の自衛隊には敵地攻撃能力がなく、つまり簡単に言うと中国にとっては、
「試しに日本にミサイル撃ってみようぜ! 防御されたらされたでいいじゃん? 万が一当たったらラッキーだしあっちからは反撃ない、撃ち放題!!」
といった様な状態で、しかし日本が巡航ミサイルを保有するなどして攻撃能力を持てば、
「日本にミサイル撃つと迎撃されるかもしれないどころか、こっちに逆にミサイル飛んでくるよ! リスキーだぜ!!」
となり、つまり攻撃意図自体を挫けるかもしれない、これが「報復的抑止」であろう。
つまり巡航ミサイルを保有するということ自体は敵地を爆撃できるようになり、とても攻撃的で好戦的な決断に思われるかもしれないが、
それ自体が抑止力として働いて相手国に戦争を起こす気をなくさせるというなら、最終的にはこれが一番平和的なのである。
巡航ミサイルの保有については過去にも防衛長官が要求していたり、
常に研究されていることなので決して可能性が低いことではない。
現在安倍政権は民主党政権による防衛大綱の見直しを発表しているが、
その内容に巡航ミサイルが盛り込まれる可能性も、
もしくは将来的には現実的に有り得るレベルだろう。
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