垂直離着陸(VTOL)戦闘機によくある誤解、垂直離陸しない理由

2015-09-22 18:52:23 | 軍事ネタ

今日の軍事記事は特異な戦闘機のお話、
垂直離着陸機(VTOL)について。
特徴的なだけに色々な誤解も入り交じる形態である。

まず垂直離着陸機(VTOL=ヴイトール)とはその名の通り、垂直に離陸した離着陸したりできる航空機のこと。
ヘリのようにホバリングができるということで、
特に軍事分野に於いて色々な局面での運用を期待されて開発された。




そんなVTOL戦闘機といえば、一番有名なのはもちろん
イギリスのホーカー・シドレー社が開発したハリアーである。
世界初の実用VTOL戦闘機でもある。

ハリアーは特に軽空母に載せての艦載機としての活躍が目覚ましく、
艦載機用途に改修を施した機体をシーハリアーと言う。
通常の飛行場からの離陸と違って、空母の甲板はスペースが限られているので、
滑走距離を長く取れず、まさにVTOL機にうってつけの運用法と思われたのだ。


ハリアーにとって初めての実戦となったのは1982年に生起したフォークランド紛争である。
イギリス軍とアルゼンチン軍が南大西洋のフォークランド諸島の領有権を巡り戦ったが、
この空域でハリアーは空戦によって23機のアルゼンチン軍航空機を撃墜し、
空戦によるハリアーの被撃墜数はゼロという圧倒的戦果を叩きだしたのだ。

このフォークランド紛争については以前にも書いたので、
もっと知りたい人はそちらも参照 → 第二次フォークランド紛争?


フォークランド紛争によってハリアーは実戦でも十分に活躍でき、
そして軽空母に搭載しての遠隔地での作戦も遂行でき、
多用途な任務に対応できることを世界中に示した。
その後湾岸戦争などにも従事し、今日ではハリアーの発展型であるハリアーII
アメリカ海軍やイタリア海軍、スペイン海軍などの各国軽空母に搭載されている。




現在はハリアーIIの後継機として、F-35BというVTOL機が開発中で、
またVTOL輸送機としてはV-22オスプレイなども日本のニュースを騒がせており、
老朽化が進行しつつあるハリアーが引退してもVTOL機というのは今後も活躍していくだろう。

さて、そんなVTOL戦闘機であるが、
まずよくある誤解の一つだが、事実として・・・。


1, VTOL機は垂直離陸をしない。

のである。
人によっては抱いてるイメージと違い「えっ!?」となるかもしれない驚愕的事実。
垂直離着陸機と呼ばれているので、てっきりいつも垂直離陸しそうなものだが、しないのである。

もちろんできるかといえばハリアーやF-35Bは垂直離陸をする能力がある。
しかし垂直離陸しようとすると、エンジンの出力だけで揚力を得て機体を浮かべなければならないため、
それに要するエネルギー消費は著しく非効率で、重量を増やせないため武装搭載量も減ってしまう。
一説には垂直離陸をするだけで燃料の8割を消費することもあるという。
つまり燃料の節約と武装搭載量を増やす為に、基本的には普通に滑走して発進するのだ。


2, VTOL機は滑走路を必要としないのでどこでも運用できる。

というふうな誤解もあったが、上記を読めばわかる通り、
武装しての運用には滑走路は必要であるので半分デマである。
ただし着陸時にはホバリングしての垂直着陸を行うし、
ハリアーなどのVTOL戦闘機は推力偏向ノズルを利用しての短距離離陸を行うので、
通常の戦闘機と比較すれば急場でこしらえた小規模な滑走路で運用できるというのは事実である。


3, VTOL機はVIFFによる独特な機動でドッグファイトに強い。

これもよく見る誤解である。
VIFFとは垂直離着陸に用いる推力偏向ノズルを動かすことによって
運動性能を向上させること。(Vectoring In Forward Flightの略)

上記に紹介したフォークランド紛争でのハリアーの圧倒的戦果を見てこの誤解が生まれたようだ。
ハリアーは所詮亜音速機であるのに対し、アルゼンチン空軍が運用したミラージュは、
最高速度は時速2000km以上の出力があるので優に2倍程度の速度性能差があったからだ。
その速度差を物ともせず圧倒した背景にはVIFFがあると思われていたのだが、
これは当時のハリアー・パイロットが真っ向から否定している。
ハリアーの戦果は当時最新式であったサイドワインダー空対空ミサイルのおかげであり、
空戦中に速度エネルギーを犠牲にするVIFFを利用する暇などないということである。


VTOL戦闘機はその特殊な構造上、陸上で通常運用する戦闘機と比較すれば機動性能も運動性能も犠牲にすることが多い。
故に単純に空戦能力だけで言えば陸上機と比べるべくもないのだが、
それでも軽空母での運用に適しているという性質で、
陸上機では足が届かない場所でも航空支援を実施することができる。

ハリアーは老朽化によって数を減らしつつあるが、
F-35Bなどの後継機が任務を引き継ぎ、
VTOL機は今後も活躍していくだろう。

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7 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-09-23 14:43:17
こういうニッチでマニアックな記事を求めてた
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Unknown (Unknown)
2015-09-23 23:23:34
やはりゆっきぃには意識高い系軍事ネタをブログに書いてもらわないとな
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Unknown (ゆっきぃ)
2015-09-24 02:59:01
>>こういうニッチなUnknown
ありがとう!
こういう解説系の記事はけっこう長々とアクセス数を稼ぎだしてくれるからね!
わははは!

>>やはりゆっきぃには意識高い系軍事
よっしゃー任せろー!
意識高い系なので海外留学とか趣味は海外一人旅とか
スタバ通い日記とか「好きな言葉は挑戦」とか書いちゃうよ!
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Unknown (motoko)
2015-10-04 20:21:36
wargameRDだとハリアーシリーズはパッとしない攻撃機って感じだったなー
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Unknown (Unknown)
2015-10-10 01:29:47
なんでやハリヤーシリーズ優秀やろ!いい加減にしろ!
なおイギリスにf15dのような爆撃機はない模様。
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Unknown (Unknown)
2015-10-17 02:45:44
ゆっきぃが普通の社会人になっていて悲しい
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Unknown (ホタル)
2018-06-17 01:38:55
F35じゃVIFFは無理でしょう
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