SONYの可搬型テレコは民生用の他に業務機の系譜があるがそれらは別項に譲るとして、TC-4550SDは1976年に民生機器で最上級(?)のポータブルカセットテープレコーダーとして発売された。
カタログから
フラッグシップの価格はポータブルカセットテープレコーダーとしては驚きの158000円。
型式 ポータブルカセットコーダー
ヘッド 消去:1 録再:1
モーター キャプスタン用:FG付き周波数サーボモーター
早巻用: DCモーター
SN比 61dB(ドルビーoff、ピークレベル、デュアドカセット)
周波数特性 20Hz〜20kHz(デュアドカセット)
ワウ・フラッター 0.065%wrms
歪率 1.2%(デュアドカセット)
モニター出力 500mW(EIAJ)
電源 AC100V(付属ACパック使用)
乾電池12V(単1×8)
カーバッテリー(別売DCC-130使用)
電池寿命 約40時間(エバレディアルカリAM-1)
約12時間(ソニースーパーSUM-1S)
消費電力 7VA(AC時)
外形寸法 幅370×高さ110×奥行240mm
重量 5.2kg(乾電池含)
付属 ショルダーベルト
(別売) キャリングケース LC-4550(6,000円)
さすがに単一電池8本ではさぞ大変な重さだっただろうと軟弱者は考えるが、生録演奏会に2トラ38cm機材を持ち込んでた当時のマニア達には全く問題なかったノダ、、とも思う。
久しぶりに通電したが動作せず。仕方ないので分解しながら様子を伺う。裏から入れる電池ボックスには同サイズのACアダプターが収まる。電池を並べるパーツが無いので現在はこのACアダプターが唯一の電源。
この写真はwebから拝借したものだが右のブロックに単一電池8本をセットする。
内部は大きな修理をした様子はなく穏やか。電源が入らないのはアダプターと本体の接触が悪いのが原因かと思ったが調べてみると、本体にある電源スイッチのレバーがアダプターにあるスイッチを直接押してON,OFFするのだがこれがうまくいっていないらしい。メーターのランプも切れていて点灯しない。そのうちなんとか電源は入るようになったがキャプスタンの回転がおかしく高速で回っている。横には±6%の範囲で回転を調整できるボリュームがある(つまみを引っ張ると可変モードになる)がここも効かない。どうもサーボが外れている様子でさてどうするかな、、と思っていたら突然正常に戻った。何が原因だったかは不明だがこのあたりは知識がないのでとりあえず安堵する。
軽く掃除してまた組み直した。本格的なメンテはこれから行います。しばらくこの状態で試聴してみましょう。
しばらく再生していたらまた暴走が始まってしまった。昔のテレビみたいに叩くと治る(!)こともあったがついに故障が本格化した。やはり避けては通れない。
回路図は入手できそうもないのが困った。おまけに知識もないので治す自信もない。これ以上壊さないように最大注意しながら進めてギブアップの段階で専門家に委ねることにします。
カタログスペックによればキャプスタンモーターは「FG付き周波数サーボモーター」になっている。「FG」って何だ?多分「周波の発生」のことかと思うがモーターそのものはブラシ付きのDCモーターだと思うので、モーター軸にFGが付いていて回転数によって変化する周波数に応じてモーター電圧をコントロールしているのではないか、、と推理する(この程度なのです。私の知識は。)
裏カバーを外すとシールド無しに現れる基板がこれらを司るところで見えているのがキャプスタンモーター。
基板はネジ2本で早巻モーターに止まっている。ネジを外すと
モーターには赤白2本でDCが給電され、紫2本でFG信号が出力される。出力された信号は処理され給電電圧をコントロールします。モーターの故障であればとにかく回っているのでブラシ関係は大丈夫だとして紫2本にFG信号が出ているかを確認することからスタートする。その後処理がきちんとされているかを順を追って検証することになる。。
電源を入れたまま基板を触ると時々復帰したり暴走したりする。これは信号処理の途中を邪魔したからだと思うが肝心のモーターからのFG信号出力線を触ってもサーボが外れることがある。。どうも基板との接触が問題の可能性が高くそうであれば素人としてはとてもありがたい。そのうち何をしても暴走しなくなってしまってトラブルが再現できなくなった。
しょうがないので(ウソです)また蓋を閉じることにした。これ以上の深追いは自分の力量との照らし合わせでやめといたほうが無難だ。。
次の不具合、電源スイッチがうまく動かない。原因は内蔵されるACアダプターのトグルスイッチの動きが渋くて本体のレバーを動かしてもACアダプターごと動いてしまうこと。これはスイッチを分解整備してみましょう。
うまくいきました。この方法だと露出していないアダプターだがACをしっかりと遮断できる。面白いアイディアだと思う。
次の不具合、メーターの照明が全て消えている。分解してみると
照明はメーター2ヶ所、カウンター、テープの窓の計4ヶ所だが何故か全て電球はカットされていた。ちょっと面倒な雰囲気なのでここはスルーします。
モーターの暴走がまたまた再発した。
泥沼に陥ることを覚悟してキャプスタンモーターを外す。上面からネジ3個で固定されている。ヘッドのカバーを外して
分解してみると
何と整流子の固定板が欠けているしネジ穴にはヒビが入っている。何とか修正して長いネジとナットで固定した。また整流子のダンパーらしきスポンジも劣化が激しい。板のかけらもスポンジのクズも見当たらないので過去にメンテの手が入っている。
スポンジを切って接着した。これで導通を測ってみる。美しい回転子はまるでREVOXのモーターのようです。
実際はなかなか安定せずに軸のスペーサーの位置を変更したりして数回の分解、組み立てで何とか安定した。
その後もACアダプターのフューズが切れて交換すること4回。また当初原因不明の挙動が次から次へと(この表現がぴったりだ)現れて現状復帰(最初の故障状態のサーボが外れて高速回転)するまで10時間ほどかかってしまった。
改めてモーターからのFG信号出力のDCRを測定すると
やっぱりコイルの導通がありません。モーターのフライホイールの裏にリング状の永久磁石があり波が出力されます。コイルのDCRは2kΩ(未確認)。
コイルはモーターハウジングの外部に取り付けられている。やはり断線しているが引き出し線のあたりかと見当つけると、、、やはりそうでした。巻き始めの方が切れているので少し解かないとワイヤーの端が取り出せない。コイルワイヤーの太さはマイクロメータで測定すると0.07mm、また取り出したところで端子板にハンダ付けして端子板をコイル表面に固定して、端子板に引き出し線をハンダつけるのはアマチュアにとっては最大級の難易度かと。
2時間ほどかかって何とかできました。
木綿糸で周囲を固定して完成。改めて回転させて(当然サーボの外れた最高回転)オシロスコープで波形を見ると
ちゃんとサイン波が出力されていてホッとします。これで基板に接続して解決されていなければ回路の問題もあるということになるが、、
、、、安定して回っています。良かったです。。とてもいい音。どっしりとしていてポータブルカセットとは思えないような安定感。
FGモーター修理の備忘録
・分解するときは最大限の注意を払う。特に整流子、コイルの引き出し線にストレスをかけないように
・樹脂ワッシャーなどどこに入っていたかはしっかりとメモする
・回路の故障は少なくモーターなど可動部の故障が多いので真っ先にFG信号出力をモニターすること
・新たな問題が加わったときはその問題の解決を優先する。
・以前に修理の手が入っているらしきところは前修理の間違いの可能性もある
2日間ほど仕事の合間に寝食忘れて(ウソ)修理に没頭した。楽しかったような苦しかったような。。深追いは泥沼にはまる、、という予感は的中で集中しなくてはならないし中途半端な作業の中断は事態を悪化させるのでキリがつくまで寝ることもできない。自分の持ち物だからいいようなもので他人様の預かりものだったら、、と考えると修理に携わっている方々のご苦労を思ってしまいます。趣味として考えれば上手くいったときの快感はかなりあって古いラジカセやテープレコーダーの再生修理を趣味にされている方々の気持ちもちょっとわかったような気がします。
全盛期の可搬型のテープデッキを考えるとオープンデッキではNAGRA、STELLAVOX、UHER、SONY、またカセットデッキではUHER、SONYほか家電各社が作っていた。カセットテープという限られた規格や悪条件のフィールドで性能を発揮させる技術ではやはりSONYは傑出していた。当時カセットデンスケは数多く発売されていて購入した全員が生録したとは思わないが製品としての魅力、凝縮された高級感、精密さ、ギミックの面白さなど所有する満足度が高かった。SONYはやっぱり「楽しくて小型で高性能」を作り出す企業の代名詞だった。
TC-4550SDはTC-D5を生み出す前夜の製品。比較的大柄な筐体に詰め込むだけ詰め込んだ技術はポータブルカセットデッキの一つの完成形でこの後(1978年)最終型とも言えるTC-D5が発売される。
お読みいただきありがとうございました。