呂布は隊商の先頭にいた。
段揚と二騎、最先頭を進み、前方に目を配っていた。
今のところ周辺に怪しい気配はない。
街道を行き交っているのは、同じような隊商か、旅人、地元の者。
呂布が隊商に加われたのは、大番頭の信頼を得たからではない。
たんに人員が不足していたからにすぎない。
洛陽からここまでの旅程で、「盗賊団との戦いで十人ほどを失った」というのだ。
気の良い段揚の口利きがなければ、一人旅が続いていただろう。
誰も口にしないが、呂布が裏切った場合に備えて、最先頭の任を与えられたのだ。
「いつでも背後から弓で射る」と。
隊商のみならず軍事に置いても、
身元の不確かな新顔を目の離し易い後方に置く事は、まず有り得ない。
最先頭か、最前線が当然の配置なので、呂布も怒りはしない。
このくらいの用心深さがなくては、とてもではないが西域への隊商は組めない。
段揚の説明では、不足した人員は敦煌で補充するとか。
あの町には西域との交易に慣れた者達がいるので、こういう場合は便利なのだそうだ。
四日目にして、ついに関所らしき物に遭遇した。
それは街道を塞ぐようにして造られていた。
遠目に如何にも急拵えと分かった。
そこを通るための行列も出来ていた。
段揚が隊商を止めた。
関所を抜けて来た旅人に問う。
「あの関所は本物かね」
問われた旅人が言葉を吐き捨てた。
「まさか。どう見ても賊だな。
それでも通行税を支払わねば通してくれん」
「何人くらいいる」
旅人が気の毒そうに言う。
「表に出てるのは十数人だが、関所破りは止めた方がいい。
おそらく仲間達が、そこいらの森とか山とかに隠れている筈だ」
確かに、それはあり得る。
迂闊な行動は取れない。
隊商の主立った者達が集まって協議した。
当然ながら中心は大番頭。
商家の者にとって不必要な支払いを避けたいのが本音である。
余計な経費がかかっては隊商を組んだ意味がない。
しかし、ここまでの旅程で、すでに十人ほどを失っていた。
これ以上の人員損失も避けたいところ。
なかなか結論が出ない。
そこへ、前方で行列していた隊商が引き返して来た。
そして、こちらの隊商に、
「余計な通行税は支払いたくないのだが、何か良い手立てはないか」と声をかけてきた。
彼等も、こちらと同じような陣容であった。
双方の警護の人数を足すと四十余人。
正規の騎兵には敵わぬだろうが、目の前にいるのは盗賊団。
その人数は不確かだが、盗賊団の弱みは統制が取れぬこと。
「倍近い人数の敵にでも勝てる」と双方の警護の頭の意見が一致した。
問題は、盗賊団の仲間達がどこに潜んでいるのか。
確かめようにも時間も方策もない。
呂布が進み出た。
「俺が関所を荒らしてみる。
騒ぎになれば、どこからか出て来るだろう」と。
返事は求めない。
替え馬を預けて、さっさと関所に向かった。
段揚が後を追ってきたが、断った。
「俺一人で十分。
逃げ足には自信がある」
「分かった。
せめて槍くらいは持って行け」
「槍を担いでいたら向こうも警戒するだろう」
頭と口元と覆っていた布を取り外し、金髪を棚引かせて馬を進めた。
関所に並ぶ連中を後方より一喝。
「どけ、邪魔だ」
みんなが振り返る。
そこには騎乗の偉丈夫がいた。
金髪碧眼。
鼻筋が通った細い顔。
獲物を狙うかのような鋭い眼光。
全身に纏っているのは暴力。
恐ろしさに誰一人、文句も言わずに道を譲った。
関所入り口には二人の男が槍を持ち、番人よろしく立っていた。
二人の衣服は、賊と証明するかのように不揃い。
下っ端なので、金回りが悪いのか。
あるいは、衣服よりも酒、女に金を使うのか。
二人が騎乗の呂布に警戒を露わにした。
「みんな順番に並んでる。
勝手に列を乱すんじゃない」
賊に説教されてしまった。
呂布は笑い飛ばす。
「はっはっは。構わぬ、構わぬ」
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段揚と二騎、最先頭を進み、前方に目を配っていた。
今のところ周辺に怪しい気配はない。
街道を行き交っているのは、同じような隊商か、旅人、地元の者。
呂布が隊商に加われたのは、大番頭の信頼を得たからではない。
たんに人員が不足していたからにすぎない。
洛陽からここまでの旅程で、「盗賊団との戦いで十人ほどを失った」というのだ。
気の良い段揚の口利きがなければ、一人旅が続いていただろう。
誰も口にしないが、呂布が裏切った場合に備えて、最先頭の任を与えられたのだ。
「いつでも背後から弓で射る」と。
隊商のみならず軍事に置いても、
身元の不確かな新顔を目の離し易い後方に置く事は、まず有り得ない。
最先頭か、最前線が当然の配置なので、呂布も怒りはしない。
このくらいの用心深さがなくては、とてもではないが西域への隊商は組めない。
段揚の説明では、不足した人員は敦煌で補充するとか。
あの町には西域との交易に慣れた者達がいるので、こういう場合は便利なのだそうだ。
四日目にして、ついに関所らしき物に遭遇した。
それは街道を塞ぐようにして造られていた。
遠目に如何にも急拵えと分かった。
そこを通るための行列も出来ていた。
段揚が隊商を止めた。
関所を抜けて来た旅人に問う。
「あの関所は本物かね」
問われた旅人が言葉を吐き捨てた。
「まさか。どう見ても賊だな。
それでも通行税を支払わねば通してくれん」
「何人くらいいる」
旅人が気の毒そうに言う。
「表に出てるのは十数人だが、関所破りは止めた方がいい。
おそらく仲間達が、そこいらの森とか山とかに隠れている筈だ」
確かに、それはあり得る。
迂闊な行動は取れない。
隊商の主立った者達が集まって協議した。
当然ながら中心は大番頭。
商家の者にとって不必要な支払いを避けたいのが本音である。
余計な経費がかかっては隊商を組んだ意味がない。
しかし、ここまでの旅程で、すでに十人ほどを失っていた。
これ以上の人員損失も避けたいところ。
なかなか結論が出ない。
そこへ、前方で行列していた隊商が引き返して来た。
そして、こちらの隊商に、
「余計な通行税は支払いたくないのだが、何か良い手立てはないか」と声をかけてきた。
彼等も、こちらと同じような陣容であった。
双方の警護の人数を足すと四十余人。
正規の騎兵には敵わぬだろうが、目の前にいるのは盗賊団。
その人数は不確かだが、盗賊団の弱みは統制が取れぬこと。
「倍近い人数の敵にでも勝てる」と双方の警護の頭の意見が一致した。
問題は、盗賊団の仲間達がどこに潜んでいるのか。
確かめようにも時間も方策もない。
呂布が進み出た。
「俺が関所を荒らしてみる。
騒ぎになれば、どこからか出て来るだろう」と。
返事は求めない。
替え馬を預けて、さっさと関所に向かった。
段揚が後を追ってきたが、断った。
「俺一人で十分。
逃げ足には自信がある」
「分かった。
せめて槍くらいは持って行け」
「槍を担いでいたら向こうも警戒するだろう」
頭と口元と覆っていた布を取り外し、金髪を棚引かせて馬を進めた。
関所に並ぶ連中を後方より一喝。
「どけ、邪魔だ」
みんなが振り返る。
そこには騎乗の偉丈夫がいた。
金髪碧眼。
鼻筋が通った細い顔。
獲物を狙うかのような鋭い眼光。
全身に纏っているのは暴力。
恐ろしさに誰一人、文句も言わずに道を譲った。
関所入り口には二人の男が槍を持ち、番人よろしく立っていた。
二人の衣服は、賊と証明するかのように不揃い。
下っ端なので、金回りが悪いのか。
あるいは、衣服よりも酒、女に金を使うのか。
二人が騎乗の呂布に警戒を露わにした。
「みんな順番に並んでる。
勝手に列を乱すんじゃない」
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呂布は笑い飛ばす。
「はっはっは。構わぬ、構わぬ」
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