金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)287

2013-11-17 08:05:26 | Weblog
 その隊商は五十数人もの大所帯であった。
十二両もの荷馬車が中核で、前後をそれぞれ十数騎の騎馬隊が警護していた。
荷馬車の中身までは分からないが、ものものしい警戒振りから、
かなり価値ある商品を運んでいると見て取れた。
 そこへ、見るからに怪しい呂布が近付いて来たものだから、隊商全体に緊張が走った。
何しろ呂布は遠目にも、偉丈夫。
しかも旅汚れていた。
時折、川があれば水浴したのだが、衣服を洗う余裕まではなかった。
なので、砂除けの外套も、頭や口元を覆う布も、砂埃がこびり付いたまま。
不気味といえば不気味。
盗賊団の偵察と勘違いされても不思議ではない。
 呂布は隊列を止めぬように気を遣い、後尾の騎兵に馬を寄せ、
「敦煌へ行きたいのだが、この街道で良いのかな」と声をかけた。
 途端に警戒する幾つもの視線が突き刺さる。
 四十過ぎの無愛想そうな騎兵が、逆に問うてきた。
「一人で敦煌に向かうのか、何の用だ」
「敦煌の手前にある赤譜村の親戚を訪れる」
 赤譜村には呂家の血縁の者が一家を構えていた。
呂布の養父、呂威の縁戚である。
子供の頃、養父と何度か行った事があるので、縁戚の顔は今でも覚えていた。
「訪れる・・・。
あの村は何の村だ。
親戚がいるのなら、少しは知っているだろう」と試された。
「十何年か前に父親に連れられて行った時は、
村の入り口に白黒の大熊の置物が二つ、飾られていた。
何でも厄除けなんだそうだ。
・・・。
俺の親戚は自前の農家で、村が何を作っているかまでは聞かされてない」
 騎兵が表情を緩めた。
「いいだろう。
一昨年には、その大熊の置物が四つに増えていた。
・・・。
訪れてどうするんだ、あの辺りは辺鄙な所だぞ」
「色々とあるんだ」
 騎兵が、フッと笑う。
「ほとぼりが冷めるまで、農作業の手伝いでもするか」
 呂布を、「わけあり者」と勝手に理解したらしい。
まあ、わけあり者には違いない。
正確には賞金首なのだが。
「当然、そうなるだろうな」
「このまま北に進めば赤譜村に辿り着く。
しかし、日数がかかる。道が険しいから二十日ほどかな。
・・・。
そうそう、昔と違い、途中で通行税を徴収する賊が出没するが、どうする」
 呂布は当然のように言い放つ。
「余分な路銀はない。
しつこく催促されれば押し通るまで」
 騎兵が心から笑う。
「はっはっはっ・・・、そうやってここまで来たのか。
それでは命が足りないだろう」
 呂布は和らげた目で騎兵を見返した。
「俺は益州から来たのだが、途中に通行税を徴収する賊はいなかった」
 騎兵が首を竦めた。
「すると益州はまだ治安が良いんだな。
この隊商は洛陽からだが、途中、何度か盗賊団に襲われ、
十人近い者達がすでに命を落としてしまった」
「都近くにも盗賊団が現れるのか」
「現れる、現れる。
跋扈する蝗災か、盗賊団かといったところだな。
流石に都には押し入らぬがな」と苦笑い。
「益州にも盗賊団は出没するが、公然と通行税を徴収する輩は聞いた事がないな」
 騎兵が真顔で言う。
「ここの涼州とか北の諸州は異民族と接しているから、どうにも成らんのだよ。
月氏や羌族、匈奴 との国境が複雑に入り組んでいて、賊の逃げ場所になっている。
賊が昼日中に関所を拵えて通行税を徴収していると聞けば、
捕らえる為に軍が出動するのだが、連中は国境を越えて異民族の懐深くに姿を消す。
毎回、これの繰り返しなんだそうだ」
 呂布は呆れ顔で尋ねた。
「国軍に人はいないのか」
「董卓という将軍が異民族に強いので、涼州だけでなく并州も併せて任せられている。
人選は確かなんだが、一人だけでは、ちょっと広すぎて手に負えない」
「他に将軍は」
「何人か赴任して来たのだが、物の役に立たないという噂だ」
 突然、騎兵が話題を変えた。
「俺は段揚。お前の名は」
「呂布」
「呂布か。
村に着くまで、我らに手を貸さぬか。食い物が出るぞ」
 呂布は考えるまでもなかった。
「それは、こちらも助かる。道に迷わずに済む」
 段揚は喜色満面、「相談してくる」と言い捨て、荷馬車の一つに馬を急がせた。
荷台に腰を下ろしている商人然とした男に馬を寄せ、呂布を指し示しながら、
相談を始めた。
彼が隊商を統率しているのだろう。
内容までは聞こえない。
 やがて段揚が呂布を手招きした。
表情から、「説き伏せたのだ」と分かった。
男と呂布を引き合わせた。
商家の大番頭なのだそうだ。
 大番頭の刺すような視線が呂布を撫で回した。
耳元で止まる。
金髪が少し、はみ出てるのかも知れない。
呂布は挨拶代わりに頭や口元を覆っている布を取り外した。
伸ばし放題の金髪が風に棚引く。
居合わせた連中が目を丸くした。
段揚も。
大番頭だけは違った。
慣れているらしい。
「西域の言葉は喋れるのか」と尋ねて来た。
「いや、まったく。
こちらの言葉しか分からない」
 大番頭は少し考えるが、深くは追求しない。
「とにかく、よろしく頼みますよ」
 段揚が呂布を連れ、先頭に連れて行く。
「俺達は前だそうだ」
「どこでも構わん」
「しかし、金髪とは驚いた」
「西域と交易しているんだ。見慣れていないのか」
「西域といっても広いからな。そんなには目にしない」




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