呂布は関所内部の様子を窺った。
荒い木組みの柵で囲われているだけの関所なので、風通しも見通しもいい。
内部の様子がよく見て取れるし、声まではっきり聞こえてくる。
街道を上り下りする者達が、それぞれに行列し、
その先頭の者が明らかに賊と分かる連中と通行税の交渉をしていた。
上りの商人が声高に税の値下げを要求。
下りの旅人も同様、負けてはいない。
旅慣れた者にとって、「賊が相手でも払うものは値切る」のが当然なのだろう。
結局は支払うことになるのだが、それでも少しでも値下げさせようと奮闘していた。
関所入り口の番人二人は、呂布の口から出る言葉に目を白黒させていた。
それはそうだろう。
益州の一部の山里でしか使われない言語なのだ。
分かるわけがない。
呂布は対応に困っている二人を押しのけるようにして中に入って行く。
行列を無視する呂布を番人二人が戸惑いながら追いかけて来た。
「この野郎、待て、待て」と。
一人が息せき切って前に回り込み、軽い調子で槍を突き出して止めようとした。
呂布にとっては願ってもない展開になった。
「得たり」とばかりに槍の柄を掴む。
そして、強引に奪い取り、反転させて持ち替え、
回り込んで来た番人二人を血祭りに上げた。
狙ったのは防具で守られていない喉元。
目にも留まらぬ早業で刺し貫いた。
鮮血が噴き出し、悲鳴ともつかぬ悲鳴が上がった。
人目に触れぬ分けがない。
周りは人で一杯なのだ。
驚愕の悲鳴が幾つも上がり、一瞬で行列が崩れた。
呂布は驚き、呆れた。
行列していた者達が、それぞれ本来の目的方向に逃げて行く。
街道を上ろうとしていた者は上りに。
下ろうとしていた者は下りに。
これ幸い、通行税を払わずに走り去る。
賊達も素早い対応をみせた。
何の指示も飛ばないのに、太刀を抜き、槍を構えて呂布に殺到した。
まるで、「待ってました」とばかり。
呂布は、こういう状況は嫌いではない。
状況を読み、ただちに馬首を右方向に向けた。
躊躇いなく駆ける。
馬上より槍を巧みに繰り出し、押し寄せた五人を次々と穂先で屠る。
呂布にとって彼等は多勢でも木偶の坊でしかなかった。
再び馬首の向きを変えた。
血塗られた穂先を新たな敵四人に向けた。
駆ける。
敵が太刀で、槍で防御しようが、呂布の剛力の前には如何ともし難い。
赤子の手を捻るも同然。
敵が手にする太刀や槍を払い飛ばし、四人を屠る。
寄せる足音が聞こえないので、全体を見回した。
すると、少し離れた所に二人。弓を構えていた。
今にも放ちそう。
呂布は背筋に熱い熱を感じた。
強烈な興奮に見舞われた。
次の瞬間には馬を駆けさせていた。
もちろん弓の二人の方向に。
弦が引き絞られ、矢が放たれた。
狙いは外れていない。
二本が、真っ直ぐに呂布に飛来した。
狙いが分かるので、造作もない。
鮮やかな妙技。
槍の穂先で二本とも払い落とした。
慌てたのは二人。
顔色を失い、弓を捨て、必死で柵の隙間から外に抜けて逃げて行く。
呂布の背後で銅鑼が激しく何度も打たれ、山野に響き渡った。
振り返ると、賊の一人が打っていた。
隠れている仲間の本隊に危急を報じたのだろう。
呂布と目が合うと、これまた銅鑼を捨て、柵の隙間から逃げて行く。
他にも四、五人が逃げるのが散見された。
呂布は関所内を見回した。
地面を呻き転がっている者はいても、立って歩いている者は一人もいない。
関所の外にも人影はない。
旅人も商人も地元の者も、巻き添えを嫌って、みんな逃げ去った。
取り敢えず目的は達した。
あとは賊の方の問題。
まさか、このまま逃げるとは思えない。
賊の本隊の襲来に備え、弓矢を探した。
あいにく逃げた二人が捨てた二挺しかない。
矢だけは、ちょっとだけ余分にあった。
矢筒二つを合わせると三十数本。
蹄の音が右方から轟いて来た。
林から盗賊団の群れが踊り出して来た。
舞い上がる土煙が邪魔をして、その数ははっきりしない。
土煙の上がり方からすると、少なくとも五十は超えるだろう。
呂布は右方の柵に移動した。
槍を柵に立て、弓を手にした。
盗賊団がやっつけ仕事で組んだ関所の柵だが、馬止めの役は十分に果たすだろう。
遠間だが呂布は弓を構えた。
矢を番え、狙いを定め、剛力で引き絞る。
放つ。
矢が放物線を描いて盗賊団の群れに飛ぶ。
結果を見てる暇はない。
次々と矢を番え、常に先頭の賊を狙う。
どこに当たったのかは知らないが、先頭が三人、四人と落馬し、
その影響で後続も何騎か巻き込まれ、馬群に混乱が生じた。
盗賊団が二つに割れた。
怒りに燃えているのが感じ取れた。
左右二手に分かれ、ここを目指して来る。
呂布は隊商の控えている方向に目を転じた。
ところが動きがない。
警護の騎兵達の蹄の音が全く聞こえない。
二つの隊商の混成なので、ぐずぐすして動きが鈍いのか。
それとも、まさか、意を翻したのか。
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内部の様子がよく見て取れるし、声まではっきり聞こえてくる。
街道を上り下りする者達が、それぞれに行列し、
その先頭の者が明らかに賊と分かる連中と通行税の交渉をしていた。
上りの商人が声高に税の値下げを要求。
下りの旅人も同様、負けてはいない。
旅慣れた者にとって、「賊が相手でも払うものは値切る」のが当然なのだろう。
結局は支払うことになるのだが、それでも少しでも値下げさせようと奮闘していた。
関所入り口の番人二人は、呂布の口から出る言葉に目を白黒させていた。
それはそうだろう。
益州の一部の山里でしか使われない言語なのだ。
分かるわけがない。
呂布は対応に困っている二人を押しのけるようにして中に入って行く。
行列を無視する呂布を番人二人が戸惑いながら追いかけて来た。
「この野郎、待て、待て」と。
一人が息せき切って前に回り込み、軽い調子で槍を突き出して止めようとした。
呂布にとっては願ってもない展開になった。
「得たり」とばかりに槍の柄を掴む。
そして、強引に奪い取り、反転させて持ち替え、
回り込んで来た番人二人を血祭りに上げた。
狙ったのは防具で守られていない喉元。
目にも留まらぬ早業で刺し貫いた。
鮮血が噴き出し、悲鳴ともつかぬ悲鳴が上がった。
人目に触れぬ分けがない。
周りは人で一杯なのだ。
驚愕の悲鳴が幾つも上がり、一瞬で行列が崩れた。
呂布は驚き、呆れた。
行列していた者達が、それぞれ本来の目的方向に逃げて行く。
街道を上ろうとしていた者は上りに。
下ろうとしていた者は下りに。
これ幸い、通行税を払わずに走り去る。
賊達も素早い対応をみせた。
何の指示も飛ばないのに、太刀を抜き、槍を構えて呂布に殺到した。
まるで、「待ってました」とばかり。
呂布は、こういう状況は嫌いではない。
状況を読み、ただちに馬首を右方向に向けた。
躊躇いなく駆ける。
馬上より槍を巧みに繰り出し、押し寄せた五人を次々と穂先で屠る。
呂布にとって彼等は多勢でも木偶の坊でしかなかった。
再び馬首の向きを変えた。
血塗られた穂先を新たな敵四人に向けた。
駆ける。
敵が太刀で、槍で防御しようが、呂布の剛力の前には如何ともし難い。
赤子の手を捻るも同然。
敵が手にする太刀や槍を払い飛ばし、四人を屠る。
寄せる足音が聞こえないので、全体を見回した。
すると、少し離れた所に二人。弓を構えていた。
今にも放ちそう。
呂布は背筋に熱い熱を感じた。
強烈な興奮に見舞われた。
次の瞬間には馬を駆けさせていた。
もちろん弓の二人の方向に。
弦が引き絞られ、矢が放たれた。
狙いは外れていない。
二本が、真っ直ぐに呂布に飛来した。
狙いが分かるので、造作もない。
鮮やかな妙技。
槍の穂先で二本とも払い落とした。
慌てたのは二人。
顔色を失い、弓を捨て、必死で柵の隙間から外に抜けて逃げて行く。
呂布の背後で銅鑼が激しく何度も打たれ、山野に響き渡った。
振り返ると、賊の一人が打っていた。
隠れている仲間の本隊に危急を報じたのだろう。
呂布と目が合うと、これまた銅鑼を捨て、柵の隙間から逃げて行く。
他にも四、五人が逃げるのが散見された。
呂布は関所内を見回した。
地面を呻き転がっている者はいても、立って歩いている者は一人もいない。
関所の外にも人影はない。
旅人も商人も地元の者も、巻き添えを嫌って、みんな逃げ去った。
取り敢えず目的は達した。
あとは賊の方の問題。
まさか、このまま逃げるとは思えない。
賊の本隊の襲来に備え、弓矢を探した。
あいにく逃げた二人が捨てた二挺しかない。
矢だけは、ちょっとだけ余分にあった。
矢筒二つを合わせると三十数本。
蹄の音が右方から轟いて来た。
林から盗賊団の群れが踊り出して来た。
舞い上がる土煙が邪魔をして、その数ははっきりしない。
土煙の上がり方からすると、少なくとも五十は超えるだろう。
呂布は右方の柵に移動した。
槍を柵に立て、弓を手にした。
盗賊団がやっつけ仕事で組んだ関所の柵だが、馬止めの役は十分に果たすだろう。
遠間だが呂布は弓を構えた。
矢を番え、狙いを定め、剛力で引き絞る。
放つ。
矢が放物線を描いて盗賊団の群れに飛ぶ。
結果を見てる暇はない。
次々と矢を番え、常に先頭の賊を狙う。
どこに当たったのかは知らないが、先頭が三人、四人と落馬し、
その影響で後続も何騎か巻き込まれ、馬群に混乱が生じた。
盗賊団が二つに割れた。
怒りに燃えているのが感じ取れた。
左右二手に分かれ、ここを目指して来る。
呂布は隊商の控えている方向に目を転じた。
ところが動きがない。
警護の騎兵達の蹄の音が全く聞こえない。
二つの隊商の混成なので、ぐずぐすして動きが鈍いのか。
それとも、まさか、意を翻したのか。
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