五右衛門は相手の面を狙うとみせ、寸前で剣先を変化させた。
巧みに左手を使い、剣の軌道を右にズラシタ。
相手の防御の刀身を躱して、胴を斬った。手応え充分。
殺すのが目的ではないので、止めは刺さない。代わりに蹴り倒した。
二人目を求めて見回した。
残っているのは一人だけ。
他はヤマトが倒したらしい。相変わらず悔しいくらいに行動が素早い。
その残った一人の刀にヤマトが、・・・ぶら下がっていた。
刀身を四足で左右から挟み込むようにしてだ。
どのような展開でそこまで到ったのやら・・・。
深い考えがあるとも・・・。
詰めが甘いのだろう。まあ、魔物でも所詮は猫だから。
相手も困っているらしい。
口を開けたまま、ヤマトのぶら下がった刀を必死で構えていた。
並みの猫の倍はあるヤマトの重みに耐え切れるのだろうか。
成り行きに興味あるので見守りたいのだが、周りが許さない。
代官所の捕り手達がこちらに駆けて来た。
五右衛門を目指しているのではない。
山猫の集団に追われていた。
武器を捨て、形振り構わぬ格好である。
巻き込まれたくないので五右衛門はヤマトを助けに走った。
相手は五右衛門に気付くと、諦めたのか、刀を手離して逃げて行く。
ヤマトは背中から落ちて、軽く呻いた。
怒ったように刀を四足で放り捨てた。
起き上がると、逃げて行く忍びを目で追う。
その忍びに大きな獣が襲い掛かった。猪だ。
短いが鋭い牙。それで忍びの脇腹に突きかかった。
悲鳴と同時に身体ごと弾き飛ばされた。
少し遅れて数十頭の猪が姿を見せた。
山猫達の暴走につられ、山から降りて来たらしい。
こちらに向かって来た。
ヤマトが五右衛門に叫ぶ。「先導する」と。駆け出した。
それも猪達の方へ。
地上を飛ぶように駆けながら、全身から殺気を放出した。
あざといまでに鋭い刃を感じさせる殺気だ。
五右衛門ですら肌寒く感じた。
それを進行方向に繰り出した。
ヤマトの露骨な殺気が猪達を襲う。
出会う猪達が、慌てて左右に割れた。
ヤマトに道を開ける。
遅れじと五右衛門が続いた。
ヤマトと五右衛門を躱した猪達が、再び一つの集団となった。
逃げて来る捕り手達に真正面から突っ込む。
鋭い牙が威力を発揮した。
たちまちにして阿鼻叫喚の図。
幾人もが弾き飛ばされた。
落下した者は蹄で容赦なく踏み潰された。
開き直った者が猪を組み止め、投げ飛ばすが、別の一頭に弾き飛ばされた。
捕り手達を追って来た山猫達も止まらない。
衝突するかのように雪崩れ込む。
一人と一匹が向かっているのは、五右衛門が絵師として借りている隠れ家。
実際に五右衛門は、絵・書ともに巧みで疑われたことはない。
念の入ったことに、狩野派の絵師に師事もしていた。
血生臭い現場から離れると、足を緩めた。
もう少しで人目の多い道に出る。
五右衛門はヤマトを抱き上げた。
「楽しめたか」
「少しね」
「刀にぶら下がっていたようだが」
ヤマトは嫌そうな顔で五右衛門を見た。
「知らないのか。真剣白刃取りという技だよ」
「へえ、真剣ぶらぶら、ぶら下がりか」
何者かが追ってくる気配を感じた。
殺気はない。
馴染みのある気配だ。
やがて天狗族の若菜が姿を現した。
かなりの距離を駆けて来た筈なのに、息は乱していない。
愛嬌のある顔で五右衛門とヤマトを見た。
「逃げ足には感心するわ」
五右衛門がニヤニヤ顔で迎えた。
「大人の男の魅力に気付いたのか」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
五右衛門の腕からヤマトを奪い取り、念入りに傷がないかどうか確認した。
「ヤマト、吼える声が村にまで聞こえたわ」
「心配かけたね」
「無事ならいいの」
「向こうはどうなってる」
「滅茶苦茶ね。まるで血の雨が振ってるみたい」
「そのうち雨はやみ、虹がかかるさ」
若菜は空を見た。
「その前に暗くなりそうね」
すでに日が山陰に隠れ、薄暗くなってきた。
五右衛門の隠れ家は町中にあった。
「木を隠すには森の中」と、五右衛門が人目の多い所を選んだのだ。
誰も居ない筈の屋内に灯りが点いていた。
若菜がヤマトを下に降ろし、物見に走ろうとした。
それをヤマトが止めた。
「待って」
「どうしたの」
ヤマトが垣根の隙間に見える庭先を指し示した。
「あれ」
庭先に何かが蹲っていた。
黒光りする肌色がハッキリと見えた。
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巧みに左手を使い、剣の軌道を右にズラシタ。
相手の防御の刀身を躱して、胴を斬った。手応え充分。
殺すのが目的ではないので、止めは刺さない。代わりに蹴り倒した。
二人目を求めて見回した。
残っているのは一人だけ。
他はヤマトが倒したらしい。相変わらず悔しいくらいに行動が素早い。
その残った一人の刀にヤマトが、・・・ぶら下がっていた。
刀身を四足で左右から挟み込むようにしてだ。
どのような展開でそこまで到ったのやら・・・。
深い考えがあるとも・・・。
詰めが甘いのだろう。まあ、魔物でも所詮は猫だから。
相手も困っているらしい。
口を開けたまま、ヤマトのぶら下がった刀を必死で構えていた。
並みの猫の倍はあるヤマトの重みに耐え切れるのだろうか。
成り行きに興味あるので見守りたいのだが、周りが許さない。
代官所の捕り手達がこちらに駆けて来た。
五右衛門を目指しているのではない。
山猫の集団に追われていた。
武器を捨て、形振り構わぬ格好である。
巻き込まれたくないので五右衛門はヤマトを助けに走った。
相手は五右衛門に気付くと、諦めたのか、刀を手離して逃げて行く。
ヤマトは背中から落ちて、軽く呻いた。
怒ったように刀を四足で放り捨てた。
起き上がると、逃げて行く忍びを目で追う。
その忍びに大きな獣が襲い掛かった。猪だ。
短いが鋭い牙。それで忍びの脇腹に突きかかった。
悲鳴と同時に身体ごと弾き飛ばされた。
少し遅れて数十頭の猪が姿を見せた。
山猫達の暴走につられ、山から降りて来たらしい。
こちらに向かって来た。
ヤマトが五右衛門に叫ぶ。「先導する」と。駆け出した。
それも猪達の方へ。
地上を飛ぶように駆けながら、全身から殺気を放出した。
あざといまでに鋭い刃を感じさせる殺気だ。
五右衛門ですら肌寒く感じた。
それを進行方向に繰り出した。
ヤマトの露骨な殺気が猪達を襲う。
出会う猪達が、慌てて左右に割れた。
ヤマトに道を開ける。
遅れじと五右衛門が続いた。
ヤマトと五右衛門を躱した猪達が、再び一つの集団となった。
逃げて来る捕り手達に真正面から突っ込む。
鋭い牙が威力を発揮した。
たちまちにして阿鼻叫喚の図。
幾人もが弾き飛ばされた。
落下した者は蹄で容赦なく踏み潰された。
開き直った者が猪を組み止め、投げ飛ばすが、別の一頭に弾き飛ばされた。
捕り手達を追って来た山猫達も止まらない。
衝突するかのように雪崩れ込む。
一人と一匹が向かっているのは、五右衛門が絵師として借りている隠れ家。
実際に五右衛門は、絵・書ともに巧みで疑われたことはない。
念の入ったことに、狩野派の絵師に師事もしていた。
血生臭い現場から離れると、足を緩めた。
もう少しで人目の多い道に出る。
五右衛門はヤマトを抱き上げた。
「楽しめたか」
「少しね」
「刀にぶら下がっていたようだが」
ヤマトは嫌そうな顔で五右衛門を見た。
「知らないのか。真剣白刃取りという技だよ」
「へえ、真剣ぶらぶら、ぶら下がりか」
何者かが追ってくる気配を感じた。
殺気はない。
馴染みのある気配だ。
やがて天狗族の若菜が姿を現した。
かなりの距離を駆けて来た筈なのに、息は乱していない。
愛嬌のある顔で五右衛門とヤマトを見た。
「逃げ足には感心するわ」
五右衛門がニヤニヤ顔で迎えた。
「大人の男の魅力に気付いたのか」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
五右衛門の腕からヤマトを奪い取り、念入りに傷がないかどうか確認した。
「ヤマト、吼える声が村にまで聞こえたわ」
「心配かけたね」
「無事ならいいの」
「向こうはどうなってる」
「滅茶苦茶ね。まるで血の雨が振ってるみたい」
「そのうち雨はやみ、虹がかかるさ」
若菜は空を見た。
「その前に暗くなりそうね」
すでに日が山陰に隠れ、薄暗くなってきた。
五右衛門の隠れ家は町中にあった。
「木を隠すには森の中」と、五右衛門が人目の多い所を選んだのだ。
誰も居ない筈の屋内に灯りが点いていた。
若菜がヤマトを下に降ろし、物見に走ろうとした。
それをヤマトが止めた。
「待って」
「どうしたの」
ヤマトが垣根の隙間に見える庭先を指し示した。
「あれ」
庭先に何かが蹲っていた。
黒光りする肌色がハッキリと見えた。
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