金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)98

2009-02-08 08:39:41 | Weblog
 五右衛門は相手の面を狙うとみせ、寸前で剣先を変化させた。
巧みに左手を使い、剣の軌道を右にズラシタ。
相手の防御の刀身を躱して、胴を斬った。手応え充分。
殺すのが目的ではないので、止めは刺さない。代わりに蹴り倒した。
二人目を求めて見回した。
 残っているのは一人だけ。
他はヤマトが倒したらしい。相変わらず悔しいくらいに行動が素早い。
 その残った一人の刀にヤマトが、・・・ぶら下がっていた。
刀身を四足で左右から挟み込むようにしてだ。
 どのような展開でそこまで到ったのやら・・・。
深い考えがあるとも・・・。
詰めが甘いのだろう。まあ、魔物でも所詮は猫だから。
 相手も困っているらしい。
口を開けたまま、ヤマトのぶら下がった刀を必死で構えていた。
並みの猫の倍はあるヤマトの重みに耐え切れるのだろうか。
 成り行きに興味あるので見守りたいのだが、周りが許さない。
 代官所の捕り手達がこちらに駆けて来た。
五右衛門を目指しているのではない。
山猫の集団に追われていた。
武器を捨て、形振り構わぬ格好である。
 巻き込まれたくないので五右衛門はヤマトを助けに走った。
相手は五右衛門に気付くと、諦めたのか、刀を手離して逃げて行く。
 ヤマトは背中から落ちて、軽く呻いた。
怒ったように刀を四足で放り捨てた。
起き上がると、逃げて行く忍びを目で追う。
 その忍びに大きな獣が襲い掛かった。猪だ。
短いが鋭い牙。それで忍びの脇腹に突きかかった。
悲鳴と同時に身体ごと弾き飛ばされた。
 少し遅れて数十頭の猪が姿を見せた。
山猫達の暴走につられ、山から降りて来たらしい。
こちらに向かって来た。
 ヤマトが五右衛門に叫ぶ。「先導する」と。駆け出した。
それも猪達の方へ。
地上を飛ぶように駆けながら、全身から殺気を放出した。
あざといまでに鋭い刃を感じさせる殺気だ。
五右衛門ですら肌寒く感じた。
それを進行方向に繰り出した。
 ヤマトの露骨な殺気が猪達を襲う。
出会う猪達が、慌てて左右に割れた。
ヤマトに道を開ける。
遅れじと五右衛門が続いた。
 ヤマトと五右衛門を躱した猪達が、再び一つの集団となった。
逃げて来る捕り手達に真正面から突っ込む。
鋭い牙が威力を発揮した。
たちまちにして阿鼻叫喚の図。
幾人もが弾き飛ばされた。
落下した者は蹄で容赦なく踏み潰された。
 開き直った者が猪を組み止め、投げ飛ばすが、別の一頭に弾き飛ばされた。
 捕り手達を追って来た山猫達も止まらない。
衝突するかのように雪崩れ込む。

 一人と一匹が向かっているのは、五右衛門が絵師として借りている隠れ家。
実際に五右衛門は、絵・書ともに巧みで疑われたことはない。
念の入ったことに、狩野派の絵師に師事もしていた。
 血生臭い現場から離れると、足を緩めた。
もう少しで人目の多い道に出る。
五右衛門はヤマトを抱き上げた。
「楽しめたか」
「少しね」
「刀にぶら下がっていたようだが」
 ヤマトは嫌そうな顔で五右衛門を見た。
「知らないのか。真剣白刃取りという技だよ」
「へえ、真剣ぶらぶら、ぶら下がりか」
 何者かが追ってくる気配を感じた。
殺気はない。
馴染みのある気配だ。
 やがて天狗族の若菜が姿を現した。
かなりの距離を駆けて来た筈なのに、息は乱していない。
愛嬌のある顔で五右衛門とヤマトを見た。
「逃げ足には感心するわ」
 五右衛門がニヤニヤ顔で迎えた。
「大人の男の魅力に気付いたのか」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
 五右衛門の腕からヤマトを奪い取り、念入りに傷がないかどうか確認した。
「ヤマト、吼える声が村にまで聞こえたわ」
「心配かけたね」
「無事ならいいの」
「向こうはどうなってる」
「滅茶苦茶ね。まるで血の雨が振ってるみたい」
「そのうち雨はやみ、虹がかかるさ」
 若菜は空を見た。
「その前に暗くなりそうね」
 すでに日が山陰に隠れ、薄暗くなってきた。 

 五右衛門の隠れ家は町中にあった。
「木を隠すには森の中」と、五右衛門が人目の多い所を選んだのだ。
 誰も居ない筈の屋内に灯りが点いていた。
 若菜がヤマトを下に降ろし、物見に走ろうとした。
それをヤマトが止めた。
「待って」
「どうしたの」
 ヤマトが垣根の隙間に見える庭先を指し示した。
「あれ」
 庭先に何かが蹲っていた。
黒光りする肌色がハッキリと見えた。




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