金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)416

2015-02-15 07:44:13 | Weblog
 宦官が鋭い眼光で何美雨と黄小芳を見据えた。
「申し開きは太后様、皇后様の前で」と断固たる態度。
 しかし黄小芳の表情は変わらない。
「そなたは誰を相手にしていると思うの」と冷静な声音。
 宦官が何美雨を値踏みする目付きで見た。
「知らん。その女児は何者なんだ」
「知らないほうが、そなたの幸せよ」
「何を・・・」と宦官の表情が歪む。
「後宮祖廟の儀式のおりに、密かに後宮に招き入れられた方がいたでしょう。
さる高貴なお家のお嬢様が。
そなたは管轄外でも、噂くらいは聞いたでしょう」
「それは・・・」と宦官の目が泳ぐ。
 黄小芳の態度は終始一貫していた。
その自信ありげな態度が宦官を弱気にさせた。
百戦練磨の老女官は見逃さない。
「聞くけど、この方は手配でもされているのかしら」
 宦官、「それは・・・」と息を呑み、「一体、何者なんだ」と声を潜めた。
 相手の揺らぎを黄小芳が突く。
「手配もされてないのに、捕らえて、どうしようと言うの。
罪人に仕上げるの、こんな年端も行かぬ子を」
 黙ったままの宦官に黄小芳が言葉を重ねた。
「そなたに、どんな益が有るというの。
手配されてもいない者を捕らえて、褒美が出ると思うの。
ようく考えなさい。
この件が私一人の判断である分けがないでしょう。
我らの背後に誰かいるとは思わないの。
庇護している方の怒りを買うとは思わないの」
と矢継ぎ早に言い募った。
 宦官の表情が変化した。
当初の自信たっぷりから葛藤へと転じた。
 老女官が最後の一押し。
「そなたが見逃してくれれば、庇護を命じた方にお願いして、
なにがしかの褒美を差し上げましょう」
と嘘に嘘を重ねた。
 それまで成り行きを見守っていた何美雨が老女官の背後から顔を出した。
意識して、あどけない笑顔を作り、宦官に鎌をかけた。
「そなた一人であれば、褒美は独り占めよ」
 満更でもない表情で宦官が頷いた。
「一人です」
 何美雨は詰めの確認をした。
「ここはどうやって見つけたの」
 相手が女児とみて、宦官の口が軽くなった。
「このところ黄小芳殿の動きが怪しかったので、そっと後を付けて来ました」
と得意げに語った。
 それだけ聞けば充分。
黄小芳は怒るだろうが、始末する事にした。
宦官に歩み寄り。手にしていた銅鏡を差し出した。
「私の正体が知りたいのでしょう。
これをご覧なさい。
見る目が有るのなら、分かる筈よ」と軽く挑発した。
 宦官は相手が女児なので油断しきっていた。
銅鏡を受け取るや、裏面の紋様に解く鍵があるとばかり、舐めるように繁々と見た。
 宦官の関心が銅鏡に移ったと判断するや、何美雨の細い右手が走った。
爪先立ちとなり、上半身を捻りながら、右手が振り上げられて左へと弧を描いた。
目にも留まらぬ早業。
その手には薄刃の短剣が握られていた。
夜歩きで見つけた物だ。
おそらく婦女子用だろう。
それを懐から素早く取り出し、この凶行に及んだ。
切れ味は鼠で試していたので、良く分かっていた。
切っ先が宦官の喉をスパッと切り裂いた。
一度では終わらない。
二度、三度と喉を切り刻む。
鮮血を浴びても、たじろがない。
 宦官は悲鳴一つ上げられなかった。
喉に開いた傷口から鮮血と空気が同時に噴き出した。
手から銅鏡を落とし、立木が倒れるかのように、前のめりにドッと倒れた。
自分の身に何が降りかかったのか、理解する暇もなかったはず。
 黄小芳も状況は同じようなもの。
口を半開きにして茫然自失。
心身共に固まった。
 何美雨の目は冷めていた。
自分の方へ倒れて来た宦官を無造作に躱した。
殺した相手への憐憫の情も、自分の凶行の反省もない。
慣れた手つきで短剣の血を袖口で拭い、悠々と懐の鞘に仕舞う。
次に衣服の裾を持ち上げ、顔に浴びた血を拭い取った。
それから、ようやく宦官に目を遣った。
目色は変わらない。
視線が傍に落ちている銅鏡で止まった。
血に塗れているが無頓着に拾い上げた。
と、銅鏡から熱を感じ取った。
何やら異な感覚。
まるで生きているかのよう。
 魔鏡。
銅鏡の中に、そう呼ばれる物があった。
持ち主に特異な感性があり、長年に渡って丁寧に銅鏡を磨いていると、
希に銅鏡に持ち主の念が込められる。
その念が、何かの切っ掛けで、これまた希に、命に昇華する。
命を与えられた銅鏡、それが魔鏡。
命を与えられた魔鏡は、「持ち主の念を増幅させる」とも言われていた。
呪術師等が、「何としても手に入れたい」と願う物だ。
 何美雨は見掛けは女児だが、中身は悪霊怨霊の類。
特異な体質であった。
短い期間であったが、その手で銅鏡を磨き上げた。
その際、念が込められたのかも知れない。
そして、それが血を浴びることによって、命へと昇華したのだろう。
そう思うしかない。
手に持った銅鏡から命の息吹を感じるのだ。
 魔鏡に血は、こびり付かない。
全てが自然に奇麗に流れ落ちて行く。




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