金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)417

2015-02-18 21:12:15 | Weblog
 何美雨は魔鏡を手に持ち、室内を見回した。
足下に倒れている宦官は虫の息。
頼りとしていた老女官、黄小芳は立ち尽くして茫然自失のまま。
新たに外から飛び込んで来る者はいない。
騒がしく走り回る物音も聞こえない。
 隅の卓上に歩み寄り、魔鏡を置いた。
懐から短剣を取り出し、それも置いた。
それが済むと窓から差し込む陽射しの中に入り、衣服を脱ぎだした。
血に塗れた衣服を次々と足下に落とした。
汚れていない肌着さえも脱いだ。
陽射しの中で一糸纏わぬ姿となった。
細身であるのと同時に顔の造りが幼いので女児にしか見えないが、既に十三才。
身体に女性的な丸みがあれば少女と言っていいのかも知れない。
ただ残念なことに、その兆しはない。
 老女官の方を向いて鋭い声を飛ばした。
「黄小芳。目を覚ましなさい」
 その一言で黄小芳が正気に返った
あたふたと室内を見回し、何美雨のところで視線を止めた。
ほっとした表情を浮かべた。
それから全裸に目を丸くした。
直ぐに咎めた。
「なんて格好をしているのです。お行儀の悪い」
 何美雨は床に転がっている宦官を指さした。
「血で汚れたのよ。着替えるのを手伝って」
 黄小芳の視線が宦官に向けられた。
嫌そうな表情を浮かべた。
「早まりましたね。買収できましたのに」
「こんな小物にビクビクするのは嫌よ。
幸い一人と分かったのだから、何の後腐れもないわ。
そなた、後始末は得意だったわよね。お願いね」
 後宮で密殺されたり、不審死する者は年に数人はいた。
外聞を憚り、その度に内々に処理するのが黄小芳の仕事の一つ。
たいていは汚物として後宮から運び出し、都の郊外に打ち棄てるのが慣例であった。
「しようがないですね。次からは慎重に行動して下さい。
それでは着替えましょう。何かご希望は御座いませんか」
「んー、・・・。
着替えるより先に、銅鏡に紐を付けてくれないかしら。
首から下げたいの」
 黄小芳は銅鏡と何美雨を見比べ、続き部屋から赤い紐を持って来た。
それを銅鏡の上部の穴に通し、手頃な長さに調整した。
「肌着の上からにしますか」と何美雨に問う。
「このままで良いわ」
 黄小芳は呆れたような表情。
それでも文句は言わない。
渋々といった感じで素肌の上に銅鏡をかけた。
 驚いた。
首から下げても重さを感じない。
金属のゴツゴツした感触もない。
金属の冷たさもない。
まるで下げた瞬間から身体の一部と化したみたいだ。
 何美雨の満足そうな表情を見て、黄小芳が忙しく動き始めた。
続き部屋に置いてある衣服を次々と運び込み、窓辺の陽射しの中に並べた。
それにこの部屋に置いてある衣服も加えた。
肌着も含めると、かなりの数になる。
 これには呆れた。
「こんなには着られないわよ。私を着倒れさせるつもりなの」
 老女官は鼻で笑っただけ。
衣服と何美雨をこれまた見比べた。
そして何着か選び出し、試着させ、手早く一つに絞り込んだ。
「これにしましょう」と決め、何美雨の意見は聞かず、さっさと着替えを済ませた。
 黄小芳は何美雨を改めて見た。
「なかなか似合ってます。
・・・。
それにしても貴女様の手際の良さには驚きました。
短剣の業はお父様に鍛えられたのですか」
「父からは何も教わってないわ。
刃物に慣れてるのは、血筋なのかも知れないわね。
知ってるでしょう。我が家が屠畜を生業にしていたことは。
教えられなくても獣を仕留める業が身に付いているのかもね」
と何美雨は自分を卑下しながら、懐に手をやった。
魔鏡が何やら暖かい。
熱を放出しているのではなく、春の陽射しのような緩い暖かさ。
それが身体の隅々に染み渡って行く。
「これからは、もう少し静かに暮らして下さいね」と黄小芳。
「その先には何があるの」
「はあ」
「ここで私は何時まで隠れて暮らせば良いの」
「それは」と黄小芳が絶句。
「いつまでも隠れて暮らすのは嫌よ。
そろそろ行こうかしら」
「どこへですか」
 悪戯っぽい表情で何美雨が答えた。
「何皇后のところよ。
そろそろ挨拶しないとね」




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